表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/67

51思惑

島とスパロウ号の奪還に動き始めているマリサたち。決行の日までそれぞれの思惑がめぐります。知らぬは海賊たちか。

気づいたら本編より長くなってしまった……


文章の修正をしました。

  アーティガル号はグリンクロス島を占拠している海賊だけでなく住民のためにも荷を運び続けた。国籍問わず近隣の植民地から荷を積んでは、他の商船が入らなくて物資や自給自足できない食料などを運んだ。ほかの商船は海賊たちに襲撃されるリスクがありグリンクロス島へ近寄らなくなっていたが、そうした商船の荷を仕入れては島の住民や海賊へ卸していた。

 商船の立場で出入りするアーティガル号は海賊から略奪した物の売買を頼まれることがあったが、興味がないといっては断っていた。


「なんだい、お前ら腰抜けばかりか?善人面して俺たちが略奪したものを売買できないってことかよ」

 そう抗議した者がいたが、リトル・ジョン船長代理はマリサの名を出して断っている。

「俺たちの頭目は頭が固いんだ。ダメなものはダメ、といって、もしこれを破ろうもんなら大事なアレをちょん切られてしまう。マリサの通り名を知ってるだろう?実に不名誉な通り名だがな」

 そう言うと海賊たちの不満そうな顔は一瞬にして笑顔となり、その後憐れむような眼でアーティガル号の乗員を見つめるのである。

「……同情するぜ……お前たちも苦労しているんだな……」

 こうしたやり取りをしてうまくかわしているおかげで、マリサが姿を見せなくても何か言われることがなかった。


 

 アーティガル号は荷を降ろしては一日ほどでまた出航し、なるべく海賊たちの需要に応えるようしていた。


「裏切り者のレッテルはがしは順調のようだな。まあ、俺たちもあくどい商売をやっているわけじゃないんだし」

 人手不足だといわれてはこき使われているハーヴェー。海賊時代に荷積み荷下ろしを手伝うなんてやらなかったせいで体が慣れず、腰を痛めてしまった。

 ”青ザメ”は戦後、ウオルター総督の恩赦により解体し、連中は海賊から足を洗って商船業務に従事していた。しかしその後、海賊共和国の巨頭のひとりであるジェニングス一味により海賊化を余儀なくされた。これに関与したジャコバイト派(フランスに亡命をしているジェームズ・エドワード・フランシス・スチュアートを擁護し国王にと望む)はジェニングスとつながっており、マリサの家族は簡単に拉致されてしまった。”青ザメ”の連中はこの困難を乗り越え、ジェニングスの下を去ったのである。

 ハーヴェーが言う『裏切り者のレッテル』とはジェニングスの下を去ったことにある。

 

「これも必要なことだ。ハーヴェー、お前は腰を痛めてしまって縦横索の昇り降りが難しいだろう?何なら引退して島の若い姉ちゃんと過ごしてもいいんだぜ」

 厨房を預かるグリンフィルズが笑いながらそう言ったが、それが本心でないことはハーヴェーも知っている。どこの業界も人手不足は深刻な問題なのだ。

「マリサと長い付き合いの俺たちだ。おかげで女性恐怖症になっちまったんだよ」

 この言葉にその場の連中も大笑いだ。


 作戦行動中であり緊張感がある中でも彼らは仲間意識を失うことはなかった。今まで幾度も危機に会いながら乗り越えた強みが彼らの心にゆとりを持たせている。


 身分を隠しているグリーン副長は再びマリサたちに協力をするため海軍から派遣されアーティガル号へ乗り込んでいる。連中のほとんどは戦時中にデイヴィージョーンズ号でともに戦っており、その指揮と裁量から彼を信頼していた。マリサとは私怨を乗り越えた仲である。

「情報ではアメリカ植民地カロライナ州においてエドワード・ティーチの海賊団が略奪行為をしているとのことだ。そしてヴェインの海賊団もナッソーから逃亡しやりたい放題だ。当然軍部も動いている。海賊をこれ以上野放しにしておくことは国際問題であり、国王陛下の頭痛の種になってしまう。この船の特別艤装では守りで精いっぱいだろう。だからこそ乗り込み組の活躍が望まれる。例の艦隊と指定の港で合流したのち奴らを一網打尽にしなければならない」

 グリーン副長が時折凍るような視線を送る。これは彼がデイヴィージョーンズ号にいたときもそうだった。ただ、今の彼の敵はデイヴィス船長やマリサでなく、スパロウ号を奪った海賊であり、島を占拠している海賊である。


 船のオーナーのひとりであり砲手長を務めるオルソンはグリーン副長からの要請で艤装を増やしている。海賊にわからないように隠す……それは偽装であり艤装だ。

 オルソンはマリサが幼いころから屋敷で面倒をみていた。それはマリサを高級娼婦として育てあげ、王族へ差し出すために教養と品格を身に着けさせる目的であったが、マリサは自分の生き方を”青ザメ”に見つけてしまい、オルソンの野望は終わってしまった。それでもマリサと共に船に乗っているのは自分もマリサにとって育ての親のひとりだと自覚していたからだ。

「この作戦を必ず成功させようぜ。おいらは前面に出られねえけどオルソンに負けねえくらい正確に相手を狙えるようになった。認めてくれるだろう?」

 砲を磨きながら元奴隷のラビットが自慢そうに言う。

「ああ、お前はよく仕事を覚えた。若いから覚えも早かった。私にとって良き右腕だよ、ラビット」

 オルソンはそう言って満足そうにラビットの肩をたたく。

「なんだい、またもや僕は戦力外かい?だてに遊学していたわけじゃないのにひどいな」

 オルソンの横ですねているのは次男ルークだ。彼もアイザック同様マリサへの思いを募らせていたが、それを忘れようとして社会勉強と称して旅をしていた。

「心配するな。お前の知識は必ず役に立つ。役に立たなければ勘当だ」

 厳しいとも思える父親の言葉をルークは有難く受け止める。自分ができることをやる、それは誰もが同じであるからだ。

 もとから海賊ではなかったルークは、アーティガル号が島へ入港するたびにシャーロットたちの組織と連絡を取り合い、居座っている海賊への戦い方を話し合っていた。以前、魚の加工場を仕切るマイケル一派がシャーロットと共に海賊を追い出したことを再びやろうとしていたのである。




 グリンクロス島側では漁民に扮したフレッドとクーパーがスパロウ号の様子を探り続けている。船を操っているのは誰か、なぜ港から出ないのか、命令系統は誰かなどである。そして脆弱な島の砲台についても探り続けていた。

 困ったことに脆弱な島の砲台はあまり整備されておらず、これが役に立つとは思えなかった。

「オルソンが見たら嘆くだろう。こうなったのは島がそれだけ平穏だったということだろう」

 そうフレッドがつぶやいたとき、彼らを見ていた海賊が声をかける。彼らは連日飲んで騒いではお金を使い、なくなるとまた略奪に出るのだ。

「そこの若い兄ちゃん、こんなさびた砲台に興味があるのか。俺のところへ来れば最高の大砲を撃たせてやるぜ。漁師なんてしけた仕事をやっても金はたまらねえからな」

「いや、単にここまで砲台の手入れを怠ったウオルター総督に怒りしか感じないだけなんですよ」

 そう言って足早にその場を去るフレッドとクーパー。


 島の住民と連絡を取り合っているのはフレッドやシャーロットだけじゃなく、ルークも船を降りてはどのように海賊追い出すかを話しあっては、必要なものを作っていた。そして密かに必要なものを仕入れては偽装して島民たちに卸していた。これは勢いだけがあるシャーロットにとって力となっている。警護をしていたアーサーはシャーロットに身を守る程度の銃の使い方や剣の使い方を教えていたが、それだけでは不十分だと思われたからである。はた目から見たらルークの遊学と称した各地への旅行は物見遊山とみられたが、それは間違いでいろんな情報や知識を取り入れては自分のものにしていた。このルークの後ろ盾によりその懸念が心配だけに終わっていく。

 

 

 屋敷では総督と占拠している海賊の一部が屋敷の偵察に来ては総督とハリエット、エリカと共に同じテーブルについて食事をしていた。アーティガル号が食材を入れるようになり、種類は少ないものの料理の種類は増えている。国へ帰りたいと嘆いていたハリエットはマリサが潜入していることに安心をし、幼いエリカもマリサの行動を先読みして大人のようにふるまっていた。親子でありながら他人のようにふるまわねばならず、エリカにとってとてもつらい我慢であったが、これまでの生育環境で身に着けた(すべ)は確実にマリサたちの作戦を成功へ導いていた。



 マリサは洗濯物を干しながら屋敷の庭から遠く水平線を見つめている。すでにアーティガル号は投錨地へ向かっているだろう。グレートウィリアム号他と合流して島の状況や海賊たちの動向など情報を流し、次の行動へ進むのだ。


 

 マリサも組織にいるフレッドたちやアーティガル号の連中も、なぜスパロウ号が動くことなくそこへ停泊し続けるのか気付いた。

「グリンクロス島は要塞がありながら肝心の砲台は手入れされていない。時間と労力をかけて自分たちが手入れするよりスパロウ号を要塞として使ったほうがいいと考えたんだ。これはナッソーのホーニゴールドがやってきたことをまねているんだろう。真似事しか考えないようであればスパロウ号の船長の技量は知れているということだ。幸い火薬庫には火薬が使われないまま残されている。海賊たちが奪わぬうちにこっちがいただく」

 フレッドとクーパーは目の前に自分たちの船スパロウ号があるのに乗ることができない悔しさを抱き、確実に時を狙って奪還する先遣隊だ。その計画にルークやマリサたちも加わっている。天候の心配さえなければ決行日に艦隊が近くまで来るはずである。

 町へ買い出しに出かけてはフレッドや組織と連絡を取っているマリサ。その時の彼の言葉を思い出しながらその日も水平線を見つめていた。天候の心配は航海についてまわるものだ。神に祈らずにはいられない。



 

 アーティガル号と艦隊が合流する投錨地。それはフランス植民地のとある港沖であった。戦争が終わり、アーティガル号の護衛と称して艦隊が近くまで来たことに非常に警戒をした植民地側だったが、アーティガル号は荷積みだけでなく自分たちはグリンクロス島奪還の目的があることを現地の総督に目的を説明をしたうえで水や食料など必需品を買い込んでおり、このことは海賊による略奪で経済的に苦しんでいる多くの商船や植民地にとってありがたいもので、住民たちの警戒は必要なくなった。


 その日はアーティガル号からグリーン副長とリトル・ジョンを迎え、スパロウ号の正式な艦長であるエヴァンズ艦長、レッドブレスト号ウオーリアス艦長、グレートウイリアム号のベイカー艦長、アストレア号のスミス艦長がレッドブレスト号の艦長室に集まり、情報を集約し決行について確認をしていた。

「スチーブンソン君とクーパー君の話だとグリンクロス島の砲台は手入れ不十分であるためスパロウ号を要塞代わりに停泊させているとのことだ。全く……あれだけの船をただの要塞代わりだとはけしからん!私なら積極的に攻撃側に回るね。砲台から撃つのは高さから狙えるという利点はあるものの動きは取れない。一方、船の砲は動きながら攻撃できる。スパロウ号を含む我々の攻撃力はあの”光の船”の艦隊を壊滅に導いたほどだ。それを要塞代わりに停泊だとは馬鹿にされているとしか思えん……我々が海賊ならもう少し頭を使うのだが」

 ベイカー艦長の話に笑顔を見せる艦長たち。だがグリーン副長は複雑な思いを持っていた。


 

 あの”光の船”の海戦で自分は密かに敵と繋がり、マリサ暗殺を企てていた。それは私怨からくるものだった。結果的に”光の船”の艦隊は壊滅状態になったが、残された敵の船は目的である”青ザメ”の乗員を捕らえ、”光の船”を陰で操っていたガルシア総督にマリサが買われた。

(本編36話 光の船①~47話 内通者と謝罪)

 

 その思いがあるだけに何としてもスパロウ号奪還を成功したいという気持ちが強くあった。自分が背負っていたこの感情を知る者はマリサとオルソン、フレッドぐらいである。

「それはそうとグリーン副長、君はすでに素性を隠す必要はなくなったはずだ。スパロウ号を奪還した暁には素性をあかしたほうがいいのではないかね」

 ウオーリアス艦長の言葉に顔を見合わせるベイカー艦長たち。そう、グリーン副長の素性はウオーリアス艦長だけが知り得ていたのだ。

「私のことはマリサもウオルター総督にも話してあります。だからこそ今はグリーン副長として役目を果たしたく思います」

 今の彼の最大の使命はスパロウ号奪還である。余計なことに捉われたくないのが正直だった。

「まあ、それもよかろう。それよりもアーティガル号は守り神として猫を船に乗せているそうじゃないか。我々も負けずに馬や羊を乗せたらどうだ」

 孫の相手をしているうちに性格が丸くなったウオーリアス艦長。こんな冗談を言うような人間でなかった。

「無事にスパロウ号を奪還したら馬や羊に限らずクジラやトビウオでも乗せますよ。皆さんはトビウオを召し上がったことはありますか?我々は置き去りの島でそれを賞味しました。腹がすいていればなんでも食べることはできます」

 スパロウ号の正式な艦長であるエヴァンズ艦長は置き去りの島での出来事を思い出した。あれはあれで乗員たちの結束ができたのだが、栄養不足はどうしようもなかったし国へ帰れない不安な日々は耐え難いものだった。

「そうだね……危機感ゆえのご馳走は格別なものだ。スパロウ号の乗員たちは置き去りの島で生き延びるという危機を乗り越えた。昇進試験に落ち続けていたスチーブンソン君も鍛えられている。こう言ってはえこひいきと言われるかもしれないが、彼が昇進試験に合格することを期待している。まあこのことは彼に話さなくてもいい」

 ウオーリアス艦長もスパロウ号の乗員たちの変化に気付いていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

皆様の反応がとても励みになります。ご意見ご感想突っ込みをお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ