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雷蜂  作者: FREEdrich
9/15

虎狩り

今回は結構力を入れて書いたので自信があります。

山を越えたライトニングホーネット隊はすぐに森の中に入り木々の陰に潜みながらエイウルを目指す。

上空では米軍の無人偵察機が監視しており森の中を突き進む道の他無かった。


もし見つかれば即座に追跡され、機甲部隊に返り討ちにされるか、或いは砲兵隊の的となるだろう。

現在の機甲部隊の位置は郊外の廃都を抜けて依然エイウルへと東進中。


五匹の駿馬が山道を駆ける。

頭上を飛び回る無人偵察機を木陰でやり過ごしつつ何とかエイウルの町並みが見えてきた頃、六人は馬を降りて積んでいた装備を降ろした。


「ここからは徒歩だ。配置に付くぞ」


装備を整えた彼らが馬を付近の木に繋ぎ止め、町の中に入ると聞き慣れた風切り音が聞こえてきた。

数秒後、遠くで断続的に爆発音が鳴り響く。


「米軍の砲撃か」


150mmの榴弾が街中のあちこちで炸裂し、巻き上がる粉塵が遠くからでも見えた。

砲撃の精度からしても、米軍はまだ残党の正確な位置は掴めていないようだ。


砲撃範囲内に入らないように気を付けながら無人機も警戒しつつ住宅街の中を搔い潜っていく。

イスルカの予測が正しいなら、機甲部隊はエイウルの中央にある大通りを通過する筈。


特にライトニングホーネット隊はこの地点にいち早く辿り着く必要があった。

エイウルはかなり大きな町で南端から中央の大通りへは、徒歩だとそれなりに時間がかかる。

かといって馬は動きが大きく無人機に見つかるリスクが大きい為使えない。


少なくともその時のケントはそう考えていた。










「こ、殺す気かテメエ…!?」


息を荒げながら地に膝を突きイコを睨むケント。

対してイコは腕を組みながら呆れた表情で彼を見ていた。

ついでに他の隊員は憐みの視線を送っていた。


「これだから人間っつうのは貧弱で困んだよ。置いてかれなかっただけありがたいと思えよ」


「人を荷物みてえに担いだ上に散々飛び回りやがって…」


あの後、突然イコがケントを担いだ後人とは思えない跳躍力で跳んだのだ。

他の隊員もそれが当たり前と言わんばかりに建物の屋上へ登ると、そこからパルクールのように建物から建物へと飛び移っていき目的地まで一直線に向かった。


ケントの想定していなかったルートで行き、そのお陰で予定よりも早く到着した彼らだった。

しかし、その道中で激しく上下に揺さぶられオマケにイコが背中に背負っていたM224軽迫撃砲の砲身に横腹を何度も突き刺されていたケントの苦しみは計り知れない。


ここで吐かなかったのは流石元PMC最大手、GSSのオペレータといった所か。


「グチグチ煩えな、さっさとセットすんぞ」


「隊長、苦とは分かっていますがここで倒れないで下さい。非常時に我々の指揮を執るのは隊長なんです」


イコには苦情を一蹴され、マキ―には励ましなのかよく分からない言葉を投げかけられながらなんとかケントは立ち上がった。


目的地である大通り沿いにある小さな商店の二階に着いたライトニングホーネット隊の隊員達は順調に()()()の設置を進めていた。


「これは、この角度で合っているか」


「いえ、もう少し左に…そこで」


二階の窓でリャークルスとクェイルが共同で作業を行っている。

二人が設置しているのはマキ―が持ってきていたRPG-30だった。


室内にあった机に固定されているその発射器が向けられているのは窓の外、大通り。

ライトニングホーネット隊に今回与えられた任務は敵機甲部隊の動きを止める事。


その為この即席トラップで車列の先頭車両を攻撃するのだ。

動きが止まった後は別の建物内に身を潜めているレイジングワスプ隊が一斉攻撃を行う。


そういう手筈だ。


「全く、戦車も完全無人化の時代か。もうじき戦場から人間はいなくなりそうだな」


そう言いながら双眼鏡で大通りの先を監視するケント。


「いや、いつの時代も勝敗を決するのは人間の兵士だ。それに今回は()()スレスレの地点に突っ込む訳だからな、アメ公も手塩にかけて育てた手駒を化け物共の餌にはしたくないらしい」


部屋の隅でRP-46のメンテナンスをしていたオローが呟くように言った。


ここ数年で外界の技術は飛躍的に向上している。

特に、最近では()()()()()()と呼ばれる現象が少しづつだが、広がりつつあるそうだ。


アメリカと一部のヨーロッパ諸国が共同で進めているプロジェクトでは、最前線に於ける戦闘全てに無人兵器を投入する事によって人員の損耗を防ぐという目標を目指している。


最初に行われたのは既存の陸上兵器を遠隔操作で動かす実験。


このような荒唐無稽な計画など当初は誰も上手くいくとは思っていなかったが、現在こうしてUMBT(無人主力戦車)UTSFV(無人戦車支援戦闘車)などという兵器が跋扈している事実が計画の成功の証だった。


それにあの()()()()()が齎した厄災が過ぎ去った今でも()()と呼ばれる魔物の生息域が多数存在する中、無人兵器の需要はますます高まっていった。


まず最初に彼ら亜人達が見たのはコントローラを使って後方の基地から遠隔操作されている有り余った旧式のM1エイブラムスやレオパルト2だった。


動きもぎこちなく、直ぐに撃破される。

唯一怖い所と言ったら行動不能になったら自爆する事くらい。


……の筈が、その機動性と俊敏性は年々洗練された物へとなっていき終いには完全オリジナルの車体と装備を身に付けそれどころか人間の躾すら必要としなくなった。


いつしか奴らはテレビゲームのようなコントローラではなく車体の奥深くへと埋め込まれた完全自律型AIによって操作されるようになり、その戦闘能力は嘗ての熟練の戦車兵達を軽々と上回った。


そしてそれらの無人兵器群は統合戦闘管制AIシステムによって管理・制御されるようになり、他の兵科とは完全に独立した新たなるジャンルの部隊としてこのツェルドで活動していた。


とはいえ、無人兵器が投入されるのは基本的に廃域やその近辺での作戦行動など人的被害が避けられない事が想定される戦場のみだ。


それに、戦闘に勝利した後その地域を占領し治め、治安維持や戦後復興に努めるのはいつの時代も人間でありそれはいくら無人機の技術が発達した今でも変わる事は無い。


だからこの先戦場が無人兵器で埋め尽くされる心配は無い、というのがオローの考えだった。


成程、と思いながら大通りの様子を見ていたケントの無線機に通信が入った。

受信を知らせる電子音に気付き通話開始のスイッチを入れると聞き覚えのある声が聞こえて来た。


R・W(レイジングワスプ)リーダーよりLH、全員配置に付いた。タイミングはそちらに任せる》


《L・Hリーダー了解。最善は尽くす》


ディカスから入ってきた通信を切り、改めて仕掛けの様子を確認する。

先ず周囲の建物内に設置した遠隔発射式のRPG-30。

瓦礫に偽装して設置したIED(即席爆発装置)

そして大通りに沿って丁度車列を覆い隠す範囲に設置した赤燐発煙弾。


これで敵の足を止めさえすれば後は彼らレイジングワスプ隊の仕事だ。










「目標視認!()()()()が四両に、()()()()が三両……間違いねえ、情報通りだ!」


「構えろ、ポイントまでおびき寄せるぞ」


UMBT、XM5 タイガーにUTSFV、XM3 タイタン。

深緑に染められたその鋼鉄の巨体を震わせながら大通りを我が物顔で通るその堂々たる姿は正に虎と巨人という名前に相応しい。


七両の無人兵器はこちらに気付く事無く真っすぐ向かって来る。

一見、周りの何も警戒していないように見えるがあれらタイガーやタイタンの車体には高度なIR(赤外線)センサや対地レーダーなどの充実した索敵装備を持っており、市街地戦ならば壁一枚隔てた程度では容易く見つかってしまう。


だからわざわざ対戦車兵器を遠隔操作式で揃える必要があった。

真正面から戦おうものならタイガーには即座に砲塔上部の12.7mmの銃塔と7.62mmの同軸機銃にミンチに加工されるか、主砲の130mmHEAT-MPで木端微塵に吹き飛ばされる。


対人や対軽装甲車両に特化したタイタンなら近付く前に二連装40mm機関砲のエアバースト弾で叩きのめされるか例え肉薄出来たとしてもその後、80mmの擲弾発射機で鉄のペレットの雨を浴びる羽目になるのがオチだ。


《敵部隊方位東方86、赤屋根パン屋の前を通過。此方に気付く気配無し》


「L・Hリーダー了解、攻撃用意」


部屋の奥に隠れながらIEDの起爆スイッチを持ったマキーと窓際のRPG-30の発射スイッチに繋げられた紐を握るリャークルスにアイコンタクトを送った。


静かに頷いた二人はそれぞれの手を強く握る。


地面を震わせながら履帯を軋ませる音とガスタービンエンジン特有の高音がすぐそこまで近付いて来ていた。

そして遂に、その時は来た。


「やれ!」


その時、機甲部隊は複数方向からの同時攻撃を受ける。

先ず戦闘のタイガーがRPG-30による攻撃を受けた。


先立って放たれたダミー弾頭を誤認した砲塔上部のAPSがそれを撃ち落とす。

巻き上がった粉塵と黒煙を貫いて本物の弾頭がタイガーの砲塔に直撃した。

貫通こそしなかったものの爆風と飛散した破片で銃塔が無力化された。


先頭車両が攻撃を受けた事によって停止する車列。


「イスルカの予測通りだ!!サプライズをくれてやれ!!」


「了解」


ケントの号令と共にマキーがスイッチを入れると大通り上に設置されていたIEDが起爆した。

凄まじい爆音と共に何十㎏もの爆薬が炸裂し火山が噴火でもしたかのような衝撃と爆風が大通りに存在する全ての物体に襲い掛かる。


この大爆発は流石の最新鋭無人兵器も応えたようで七両の内三両が足回りを破壊され動きを封じられていた。

倒壊した建物の瓦礫も積み重なり車列の前後を塞いだ事によって完全に退路を断たれた。


オマケにIEDとは遅れて作動した赤燐グレネードから発生した大量の五酸化二リンの白煙が大通りを覆い隠す。

五酸化二リンは可視光線から赤外線まで幅広い光線を遮断する事で知られている。

無人兵器達はこの時殆ど目潰しを食らったような状況だった。


タイガーとタイタンに搭載された自律思考型AIは、緊急時の自己防衛モードに移行し周囲への無差別的な反撃を開始する。

特に当ても無く放たれた130mmHEAT-MPが数十m先の右側の古本屋の二階を吹き飛ばす。

誰もいない建物は完全に倒壊し瓦礫の山と化した。


タイタンの40mm二連装機関砲が火を噴き、エアバースト弾が大通りのあちこちで炸裂する。

毎分700発の40mm砲弾の嵐が周囲の家々を瞬く間に穴開きチーズの如き惨状に変えていった。


「奴ら、大慌てだ!!後は任せたぜ!!」


《R・Wリーダー了解!!敵機甲部隊を殲滅する!!》


無線からそんな威勢の良いディカスの声が聞こえると、周囲の建物の屋根から15人の人影が飛び込んで来た。

レイジングワスプ隊だ。


彼らは混乱状態の無人兵器の砲塔に飛び移るとメンテナンス用ハッチを亜人族特有の怪力で引き千切ると中に入り込んでいく。

撃破するとは言われていたが具体的な撃破方法は聞かされていなかったケントはその様子をみて開いた口が塞がらなかった。


「な、何やってんだあいつら!?」


「自爆機能の無力化です。今回は敵装備の鹵獲も視野に入れていたので」


窓から一緒に様子を見ていた隊員の一人、クェイルがその一つ目を至る所に向けながら言った。

他の隊員達もその様子が当たり前かのように眺めている。


「無力化って…んなもんどうやって…」


「イスルカ閣下のお陰だ。閣下は道具に術式を付与する術を持っている」


「つまり…?」


「あいつらが持ってるナイフ、アレには突き刺したあらゆる機械を乗っ取る術式が込められている。あれで無人兵器を無力化すんだよ」


またもや聞かされた新情報にケントは頭を抱える。

魔術のなんでもありな術式に今は感謝すべきだが、もし20年前にそれの使い手と出くわしていたらと思うと想像もしたくない。



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