鷹の子、セネー
仕事などで中々サイトを開く精神的余裕が無く、2週間以上も更新が遅れてしまいました…。
しかし、何とかこれからも続けていきたいと思っておりますのでよろしくお願いします。
《統一暦1349年3月14日 城塞都市ヤーニカ近辺》
ヤーニカの南東には街中を一望できるそれなりに高い野山があった。
野山の頂上では何人かの兵士がヤーニカの様子を監視していた。
ホーネット戦団ライトニングホーネット隊のメンバーが揃ってヤーニカを監視しているのは、攫われたケントの救出の為である。
イスルカの予知能力を頼りにケントの大まかな位置を把握した彼らは、最初はあまりケントの救出に積極的ではなかった。
ただ、そこで意外にも声を上げたのがリザードマンのオロー・フーネイだった。
「例え人間であったとしても同じ人の血を流す者だ、そして我々の為に戦う意志がある。助ける理由など、私にとってはそれで充分だ」
オローの一声によって一同はケントの救出を決心し、イスルカもそれを認めた。
そして今に至る。
「フン、何モンかは分かんねえがそれなりにデカい勢力ではあるみてえだな」
双眼鏡で壁内を闊歩する武装した兵士達と軍用車両の数々を見ながらイコは目を細める。
「というよりアレは、最早一つの統治国家として成り立ってるレベルですよ。兵士一人一人の装備も整っていますし」
イコの隣にいたクェイルはそう言ってリー・エンフィールドのスコープから目を離し立ち上がった。
「それで、いつ助けに行くんです?日中は厳しいかと思われますが」
「分かってる、すぐには行かねえよ。暫くは敵の情報の収集に努めるぞ」
イコも立ち上がりそれに続いてマキー達も各々の銃を背負い立つ。
ライトニングホーネット隊の面々はその場を離れ、山林の奥深くへと消えていった。
――――――――
《同日深夜 自由ヤーニカ軍団総司令部》
僅かな月明かりと暗闇に包まれた真夜中。
ケントは寝付けなかったが為に基地内を歩き回っていた。
一通り散策を終え、道も覚えた基地だが彼は特に行く宛も無く歩き続ける。
まるで道中で何か、このブーツの足音と施設の間を通る風の音だけが響く状況に変化を齎してくれる存在が来る事を期待しているかのように。
月明かりが生み出す自らの影の位置を認識しながら、それを追いかけている内に喉が渇き近くの自販機へと歩む方向を変えた。
20年の年月の間に当時のメーカーは潰れたのか、知らないメーカーの知らない商品が並んでいる中から一番無難そうなジェイシアも飲んでいた缶コーラを選ぶ。
しかし、1ドル札が丁度無かったので財布の中にあった5ドル札を入れた。
紙幣を読み取った自販機は購入可能な飲み物のライトを点灯する。
その中から缶コーラを選びボタンを押す。
ガタン、という音と共に缶コーラが落ちて来た。
それを取り出し、残った釣りを取り出そうとする。
すると、またもやガタンと音が鳴った。
取り出し口にはマスカット味の炭酸飲料のペットボトルがあった。
更に上に視線を移すと、そこには取り出し口にある飲み物のボタンを押している左から伸びた誰かの手。
伸びた腕を辿って左を見ると見知らぬ誰かがいた。
銀髪の褐色肌でエルフなのか耳が長い。
此方を硬直したまま見つめる紫色の瞳をした目からは焦りの感情が伝わって来た。
「あ……どうも」
「………誰だアンタ」
困惑から警戒の表情に変わったケントの様子を見て彼女は慌てて弁明を始める。
「ち、違うから!別に盗もうとし、したとかじゃないし!あ、あ、後で金は払うつもりだったし!!」
必死に意味の分からないジェスチャーを交えながら弁明をする彼女の姿を見て、ケントの表情は懐疑的な物から驚きに変わった。
「ま、待てよ!もしかして…」
「ごめんて!!許してよ!!」
「アンタあのトーレイガの―――」
「たかがジュース一本で怒る事―――」
「うるせえ黙れ!!」
「ンヒッ!?」
ケントの喝に彼女は身を縮こまらせ口を閉じた。
漸く黙った彼女に改めて問い質す。
「アンタ、トーレイガのパイロットだろ」
「え?ああうん、そうだけど……あっ」
「セネーさんよ、独房に現在進行形でぶち込まれてる筈のアンタがどうしてここにいるんだ?」
そう聞くとセネーの顔はあっという間に冷汗塗れとなり、心なしか体も硬直を通り越して小刻みに震え出した。
「え、えーと…」
この様子だとどうやら脱走してきたようだ。
隠し通す事は出来ないと悟ったのか、セネーはケントに交渉を持ち掛けた。
「そ、そうだ!もし私を見逃してくれたら、トーレイガに一緒に乗せてってあげる!夜のフライトを一緒に楽しもうよ!!」
「無許可のナイトフライトなんかに付き合えるか!共犯者と間違われるのは御免だ、さっさとどっか行ってくれ」
何とかして彼女を追い返そうとする彼だったがセネーはやたらに食い下がった。
「嘘!キミのその目は私のトーレイガと一緒に空を舞いたいって言ってる!!」
「クソッタレ、ジェイシアが言った通りのキチガイだな!」
面倒なのでこのまま走って逃げようとした所、二人は懐中電灯によって照らされた。
巡回中の警備兵だった。
「誰か!?」
二人の姿を確認した警備兵は方からスリングで提げていたMAT49を構え、詰め寄って来る。
その瞬間、セネーはケントの缶コーラを奪い取り警備兵に投げつける。
頭に直撃した警備兵は昏倒しその場で倒れた。
「ヤッベ!行くよ!」
「はッ!?」
ケントは何故かセネーに片腕を掴まれ、連れ去られた。
彼の体を引き摺りながらセネーが向かったのはトーレイガが停められている五番ハンガー。
整備員用扉から中に入ったセネーはゲートの開閉ボタンを叩き、トーレイガへと駆け寄る。
「何する気だてめえ!!」
「一緒に飛ぶよ!!」
「ふざけんな降ろせ!!がッ!?」
トーレイガの前席にケントを有無を言わさず放り込む。
後部操縦席に座ったセネーはコックピット左側のコントロールパネルを操作し、バッテリーと機体を繋ぐ。
すると前方のディスプレイが点灯し、計器類や機体の状態などが映し出される。
「第一エンジン良し、第二エンジン良し、補助動力装置良し、消火装置良し!」
一つずつ声に出しながら発進手順を進めていく。
APUを起動し、回転数が安定すると第一、第二エンジンを起動した。
スロットルレバーをアイドリングの位置にまで倒すとメインローターとテイルローターが回転を始める。
ディスプレイに表示されるローターの回転数がスロットルレバーを倒していくにつれて徐々に上がるのを見ながら、その先にいる前席のケントの様子を見ようと顔を出すと彼は何かを必死に捲し立てながらこっちを睨んでいた。
エンジン音で聞こえないふりをしながら順調に発進準備を整える。
足元にあるパーキングブレーキを解除し、機体をハンガーの外まで進めた。
外には武装した兵士が銃口を向けながら停止を呼びかけて来るがそんなこと知ったこっちゃない、と言うように気にせず滑走路まで移動した。
《こちら管制塔よりホーク01!!直ちに発進を中止し機体から降りろ!!》
普段は誰もいない管制塔からも通信が入るがそれも無視し回線を切ろうとする。
しかし、相手側の方から何やら騒がしい音声が聞こえてくるとタッチパネルに触れようとしていた手を寸前で止めた。
少しすると同じ管制塔からだが違う人物の声が聞こえた。
《セネー少佐!!お主また独房を抜け出しよったな!!しかもとうとうヘリを盗みよったか!!》
「相変わらず元気だね、イラル婆さん。暫くナイトフライトを楽しんで来るからハンガーの整備兵達全員待機させといてねー、じゃ」
《待て、セネー戻らんか――》
無線越しのイラルが喋り終わる前に回線を切った。
もう一度前席を確認するとケントはもう抵抗する事を諦めたのか大人しく座席に腰掛け、シートベルトを締めている。
大人しくなった彼の様子を見て満足気に微笑んだセネーは操縦桿を握り壁の外、そのさらに先を目指して飛び立っていった。
――――――――
壁を越えた先、闇に包まれた廃域の中を一機の攻撃ヘリが突っ切る。
廃域内の魔物達はその姿に目もくれず、辺りを彷徨っていた。
完全に落ち着きを取り戻したケントは後ろを振り返り、セネーに話しかける。
「なあ、俺降りたいんだが」
「ここで降りたいの?そこら中魔物だらけだけど」
「違えよ!飛行場に戻れってんだよ」
そう言って基地に戻るように求めるが、案の定彼女は従う気は無いようだった。
「まあまあ、数年ぶりのフライトなんだからちょっとくらい好きにさせてよ。それにほら、雲が晴れるよ!」
セネーの指差す先に視線を移すと、確かに先程まで空を覆っていた雲が次第に減って来ていた。
雲が晴れ、その先にある夜空に彼は目を奪われた。
文明の光が届かない夜空には、地球から見る月よりも遥かに大きな三つの惑星がこちらを見下ろしていた。
そしてそれと共に空を埋め尽くす数多もの大小さまざまな星々の輝き。
二次元の世界でしか見た事の無かったファンタジーな景色が、この三次元の現実世界で直接目にできているのだ。
「地を這ってばっかりの雑兵さんは、空なんか見上げた事なんて一度も無かったのかな?」
「………いや、俺が初めてここに来たときは大雨続きだったからな。見た事があっても忘れてただけだ」
彼女は笑いながらケントに語りかける。
「じゃあ改めて…ようこそ、ツェルドの夜空へ」
Mi-24Pはハインドシリーズの中で一番好きです。
特にあの二連装GSh-30機関砲の発砲音が滅茶苦茶好きなんですよね。
ローレートモードの「ドドドドドッ!」て感じのも好きですし、ハイレートモードの「バラララララララッ!!」も好きです。
あとATGMの照準器を起動した時に照準器のカバーがパカッと開くのが好きです。
つまり全部好きです。