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雷蜂  作者: FREEdrich
13/15

最後の命令3

すみません、やっぱり四部作に増えます。

イラル・クァルストゥと名乗った自由ヤーニカ軍団総司令官の狐女にケントは自らの名と、聞かれるままに身の上の全てを話した。


ホーネット戦団に拾われた時にディカスに話した内容とほぼ同じだったが、対するイラルの反応は思わぬ形で返って来た。


「ケント・エイヴァリーよ。其方は20年間人間でありながら姿形を変えずに眠っていたと言うておるが、妾はその手の魔術を使う者に心当たりがある」


「マジか!?誰なんだ?」


思わぬ返答にすかさず問い質すとイラルは何やら話しにくそうにしていた。

まるで、ケントに真実を伝える事を躊躇っているかのような。


「正直、今までの其方の経緯を聞いた上でこの事を伝えるのは酷じゃと思うての。それでもいいというならば聞かせてやろうぞ」


「……?兎に角教えてくれ、誰なんだ?」


「……よかろう、教えてやる。そやつの名は―――」


イラルがその名を告げようとした時、突然司令部内にけたたましい警報音が鳴り響いた。


「何だ!?」


騒然とした様子の司令部に困惑するケントをイラルが諫めた。

表情からして彼女は何が起きているのか把握しているようだ。


少しすると司令室の扉が開かれ、将校らしき亜人が入って来た。

彼の表情もまた、想定通りなのか落ち着いていた。


「奴らか」


「はっ、東区ヘッフリン通りにてパトロール中の歩兵小隊が攻撃を受けました。被害は現在確認中です」


「言われんでも分かっておる…どうせパトロール部隊は全滅。それで市民の死傷者は0なのであろう」


「……その可能性が高いかと」


将校は一拍置いて確信した表情で静かにそう言った。


「現在の状況は?」


ケントの隣にいたセイーアも話に加わる。


「現在最寄りにいた二個警備小隊が追撃を行っております。東区ウェクラー通りで交戦中との事です」


「おいおい待て待て!一体何事なんだ?」


完全に蚊帳の外のケントが堪えきれずに割り込み、イラルに何事かと問う。


「すまんの。じゃがこれから忙しくなる故、暫く話はお預けじゃ」


「おい!ちょっ!?」


「まあ、この辺を適当にぶらついたりでもして待っておれ」


引き留めようとするケントを無視してイラルたちはケント一人を置いて司令室を出ていった。

置いて行かれたケントは、訳が分からないといった表情でその場で固まっていた。


――――――――



「閣下、最新情報が更新されました」


司令部の廊下を何人かの人影が通り過ぎていく。

その中にイラルもいた。


「戦況図を寄越せ」


手を差し出すイラルに部下がタブレット端末を手渡す。

画面には東区ウェクラー通り周辺の地図とそこに展開している味方部隊と大まかな敵の位置が表示されていた。


受け取ったイラルは早速それに視線を移す。

端末に目を通しているイラルの横で、部下が戦況の説明を始める。


「敵はウェクラー通りを離れ、北1㎞先のメレー市で抵抗を続けており既にこちらの部隊にも無視できない死傷者が出ています」


「民間人は?」


「やはりいつも通り、死者・負傷者共に誰もいません。市内は全員避難済みです」


その報告を聞いてイラルは僅かに不機嫌そうに顔を歪め、舌打ちを放った。


「おのれ……舐められておるのか……。第147警備中隊を一個騎兵小隊に随伴して向かわせろ、民間人が避難済みならば火砲の使用も許可する」


「了解」


「既に展開中の部隊はアスキスタ通りにも防御線を張らせろ。無意味だと思うが、少しでも逃げ道を塞ぐ」











《1349年 3月7日 ヤーニカ メレー市》


ヤーニカ東区の商業の一部を担っているメレー市。

その商店街は現在、戦場と化していた。


「散開!散開!BTRから離れろ!!」


燃え盛るBTR装甲兵員輸送車と蜘蛛の子を散らすように逃げる歩兵達。

彼らの応射の銃声が街中を満たしていた。


「建物の屋根だ!!」


「逃げたぞ!!」


BTRを対戦車手榴弾で撃破した敵兵はその建物の屋上から姿を消し、それを自由ヤーニカ軍団の兵士達が追う。


PT(パトロール)214よりCP!敵は逃走、アスキスタ通りの方へと向かっている。オーバー!」


《CPよりPT214。既にアスキスタ通りではPT147が防御線を張っている、彼らと合流し敵を挟撃せよ、オーバー》


「PT214了解、アウト!」


銃声鳴り響く街中を兵士達が駆ける。

赤煉瓦の屋根の上を伝って逃げる人影に銃口を向け、更に追い立てる。


流れ弾によって割れた屋根の赤煉瓦が粉塵を撒き散らしながら路上に降り注ぐ。


それを躱しながら決して逃すまいと、必死に後を追う彼ら。


敵は真っ黒なローブを纏っており、何の種族かも分からないが足の速さは同じ亜人族である彼らですら追い付けない程に速かった。


しかしアスキスタ通りにあと少しで辿り着くといった時、敵が突然走るのを辞め、屋根から飛び降りた。


包囲網に気付き逃げるのを諦めたのかと考えた警備部隊は、ローブ姿の敵に揃って銃口を向ける。


「もう逃げ場は無い、武器を棄てて投降しろ!!」


投降を呼び掛けるが敵は武器も棄てず、微動だにせず、ただフードの影の中からこちらを見つめていた。


「聞こえないのか!!最後の警告だぞ―――」


再度投降を呼びかけようとした時に敵は動き出した。


左手の中に収まっていた何かを彼らに向けて指で弾き飛ばしたのだ。


円筒型をしたその物体は彼らの目の前にまで迫ると、突如凄まじい光量で発光した。


「魔石ッ!?」


太陽と見紛う程の大きな光に隊員達は皆目を固く閉じ、怯んだ。

完全に目を潰された彼らに最早照準を合わせる余裕など無かった。


その隙に敵が向かって来た。

盲撃ちで小銃を撃つが、狙いもしていない銃撃を敵は難無く躱し懐に入り込む。


右腰に差していた鞘から片刃の剣を抜き放った彼が風と見紛うほどの速度で隊員達に斬りかかる。

腹を割き、四肢を斬り飛ばし、首を刎ね、心臓を突き目の前にいる敵兵を次々と斬り捨てる。


亜人ですら反応の追い付かない剣撃に数と装備で優っていた筈の警備部隊の先鋒の分隊は壊滅した。

後続で来た別の分隊が付いた頃には路地は鮮血で赤く塗装され、転がる十を軽く超える死体達の中心に佇む彼の姿があった。


「撃て!!」


小銃と短機関銃の一斉射撃が襲い掛かる。

だが彼は目にも留まらぬ速さで飛び上がると壁に飛び付き、壁走りで一気に間合いを詰めて来た。


目の前で着地した彼に向かって一人の隊員がAR-18を構え発砲したが、その5.56mm弾は着弾する前に右手の剣によって弾かれた。


有り得ない事に、この時彼は自分に向かって飛んで来る5.56mmライフル弾を()()()()()()()のだ。

最小限の動きで跳んで来る全ての弾を剣で弾いた彼は剣をAR-18を構え呆然としたままの隊員の胸に突き刺した。


「エラット!!」


「撃つな!!アイツに当たるぞ!!」


「構うものか!!奴はもう助からん!!」


他の隊員の射撃をエラットと呼ばれたゴブリンの青年の死体で受け止めながら、左手に別の武器を持つ。


懐から取り出したそれの銃口を死体の腋下から出し、引き金を引いた。

削岩機のような銃声を鳴らしながら7.62×25mmの強装弾の嵐が隊員達を薙ぎ払う。


高初速で放たれる強装弾は彼らの身に付けている防弾プレートキャリアを避け、首や頭部を正確に撃ち抜く。


目に見える範囲にいる全ての敵を一掃した彼だったが危険を察知しすぐに再び飛び上がる。

すると先程まで彼が立っていた場所で轟音と共に激しい粉塵が巻き上がった。


路地の先にいたのはアスキスタ通りで待機していた警備中隊の装甲兵員輸送車BTR-82ATをDNLFが独自に改良した車両、“ファンフラ”だった。


《砲手!目標9時の方向、屋根の上!撃て!》


《目標確認!》


此方に向けて砲塔を向けていたツェルド語で突風(ファンフラ)の名を持つ装甲車は、主砲の30mm機関砲を容赦なく彼に向かって放つ。


数発の30mmのエアバースト弾が彼の周辺で連続的に炸裂し、爆風で瓦礫が飛び散る。

流石にエアバースト弾の爆風と破片までは躱せなかった彼は体の至る所に破片が食い込んでおり、血が大量に流れていた。


人間の兵士ならばとっくに死んでいるような重傷を負っても尚走り続けられるのは亜人とはいえ少々頑丈に過ぎる。


家屋の屋根を伝い逃げる彼を追撃しようとしてファンフラが動き出そうとした時、突如何かが装甲に着弾した。


《何事だ!?》


車内に響き渡る爆音と飛び散る金属片に、男エルフの車長が頭を押さえながら怒鳴った。


《対物ライフルのようです!!操縦手が被弾、意識ありません!!》


《馬鹿な……!このファンフラの正面装甲をだと!?》


ファンフラはBTR-82ATより更に強固な増加装甲を装備しており、対物ライフルどころか生半可なロケットランチャーや無反動砲ですら貫徹は出来ない。


貫徹できるとすればファンフラの主砲と同じかそれ以上の口径の持つ火砲のAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)か強力な対戦車ミサイルくらいだ。


ファンフラの正面装甲を貫徹した銃弾とBAD(装甲の破片)を受けた猫の女半獣人の操縦手は腹部の皮膚が丸々吹き飛び大量の血と臓物を溢れさせており、敵が放った銃弾の威力が如何に絶大かを物語っていた。


最初の僅か数秒は微かに息のあった彼女だったが、次第にそれは弱まりすぐに息絶えた。

彼女の死に顔は、まるで今自分に何が起こったのかを理解できていなかったかのようだった。


《無線手!操縦手と替われ!先ずは敵の狙撃から逃れるぞ!!》


《りょ、了解!!》


操縦手だった肉塊を退かし、操縦席に座ったゴブリンの男がファンフラを後退させ近くの脇道に身を隠した。


《クソッ!騎兵小隊はいつになったら来るんだ!?》


《それが、敵の奇襲を受けたという通信以降未だに応答ありません》


悪化する事態に車長は歯噛みする。

恐らく、あの狙撃手にやられたのだろうと彼は察した。


結局、損害を被るばかりで敵を確保どころか殺害すら成す事のできなかった彼らは目標の追跡を既に諦めていた。



この謎の2人については次回明らかになります。

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