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雷蜂  作者: FREEdrich
10/15

そこに、人間はいない

最近フランスの銃火器に魅力を感じつつあります。

MAS49とか、それとMAT49なんかも結構好みで本作の設定的にも行けそうなので出したいと考えている所です。

粉塵立ち込める大通り。

力なく横たえる無人兵器に群がる人影がそこにある。

あっという間に無力化された無人兵器達は現地で分解され、使える武装部分や弾薬にその他の装備などはレイジングワスプ隊のハンヴィーに積み込まれる。


残された車体の基礎部分とAIの搭載されているコントロールシステムはそのまま放置されていた。

米軍による砲撃を防ぐ為だ。

コントロールシステムさえ残っていれば戦術データリンクによってまだ稼働状態と判定され撃破された事を悟られない。


つまり砲兵側には生きている状態で戦術マップに写される為、そこにはまだ味方がいると判断して撃ってこない。

魔術という強力な武器を持った彼らだからこそ成せる技だった。


「しっかし、タイガーなんて名前の戦車の開発に協力させられたドイツの技術屋共は、どんな心境だったのかねえ」


タイガーの砲塔内にある同軸機銃と大量の弾薬を運び出しながらケントが呟く。

このタイガーとタイタンの開発にはアメリカだけでなくドイツの軍事企業も関わっていた。

アメリカは車体と装甲と足回りに自律思考型AI、そしてドイツは索敵装備や武装などを主に担当していた。


「さあ……でもドイツにだってネオナチも少しはいるでしょう」


そう言いながらリャークルスが水筒を持って来た。

礼を言いながらケントは水筒を受け取ると蓋を開け水筒を一気に呷る。


「近くの川から汲んできました。勿論煮沸消毒はしたので心配ありません、それに元々ここら一体の水は皆綺麗ですから」


「……汚れてない自然っつうのも、悪くねえな――」


《RW,LH。聞こえるか》


突然イスルカから入ってきた無線にケントの表情が一瞬固まる。

嫌な予感を感じつつも応答する。


「こちらLH・リーダー、感度良好」


《両名聞こえているようだな。では直ちにその場より撤退せよ》


突然の撤退命令に困惑するケント。

だが他の隊員とディカスはそれが何を意味しているか何となく分かっているようだった。


何事かと疑問符を抱いていると隊員達が一斉に慌てて撤退の準備を始めた。

レイジングワスプ隊の方は既に出発を始めている。


「何だ!何が起きてる!!」


「分かんねえのか!?クソッタレの()()共に決まってんだろ!!」


「魔物!?」


「いいからさっさと逃げんぞ!!」


イコが困惑するケントを無理矢理引き摺りながらライトニングホーネット隊は速やかに馬を待機させていた場所へと向かった。

何も状況が理解できていないケントはただ困惑の表情を浮かべながら引き摺られていくばかりだった。










エイウルより北に僅かに離れた位置にある森林地帯。

その中を蠢く大量の影があった。

群れを成した彼らが目指す先は黒煙揺らめくエイウルの方角。


狙いは勿論つい先ほどまでそこに戦場を作り上げていた主であるケント達。

奇怪な鳴き声を上げ、半ば原形が崩壊した体を震わせながら全力疾走する。


彼らこそが嘗てツェルドの地を食い荒らしたテュルソスの残滓、魔物である。


原生していた様々な生物に寄生した虫は宿主の体内で急速に増殖し、一日と経たずに変異させる。

変異後の姿は、嘗ての姿とは似ても似つかぬ悍ましさであり中途半端に原形を留めているのが尚恐怖度を倍増させている。


ケント達を追っているのは野生動物だけでなく亜人族や人間の感染体までもが大挙して津波の如き勢いで向かって来ていた。


エイウルの中に侵入した感染体達は、その不安定な見た目からは想像もつかぬ身体能力で建物をよじ登り、迂回路を探す事もせずに一直線に獲物の方へと向かう。


そしてレイジングワスプ隊が完全に町を離れた今、最も危険なのは未だ町の中にいるケント達だった。


「走れ!!走れ!!もうすぐそこだぞ!!」


背後に押し寄せる化け物の群れを見たケントは冷汗を垂らしながら必死の形相で町の外を目指して走る。


眼前には気に繋がれた馬が無傷のまま佇んでいる。

木に結び付けていた紐を解き、飛び乗った彼らは順次出発していく。


しかし二人乗りであり且つ身体能力に差がある分、最も出遅れたのはケントとイコだった。


イコに怒鳴り声で急かされながら何とかイコの後ろに乗ったケントだったが、出発した時には既に魔物の群れに追い付かれていた。


それに気付いたイコが即座に片手に手綱を持ちもう片方の手でブローニング・ハイパワー拳銃を構え真横の魔物に向けて発砲する。


全弾直撃した魔物の何匹かは、もんどりうってそのまま後ろの方へと流れていく。


「何してんだ!!テメエのライフルは飾りかよ!!」


「クソッ!!こんな数捌き切れんのか!?」


背中に背負っていたMAS49半自動小銃を構え、左後方から迫り来る魔物に向けて照準を定める。

引き金を引くと、被弾した魔物が一匹奇声を発しながら倒れた。


それでも魔物の群れとの距離は離れるどころかますます縮んできていた。

魔物の体のあちこちから生えた触手がケントを絡め捕ろうと伸びる。


「失せろ!!クソ!!死ね!!!」


触手を伸ばしてきた魔物に7.5×54mm弾を何発も叩き込む。

ライフル弾の直撃で魔物の体は深く抉れ、伸びた触手が萎れた植物の様に力無く地に横たわる。


人生で直銃床の半自動小銃など一度も扱った事の無い彼だったがGSSで長年戦って来た経験が彼を突き動かしていた。


20発のダブルカラム弾倉などすぐに撃ち切ってしまい、その度チェストリグのポーチから素早く次の弾倉を取り出し再装填を行う。


使い慣れない銃と言ってもその再装填の速さはPMCのオペレータに相応しい実力だった。

彼の銃口の前に一番近い位置にいた魔物から順番に倒れていく。


だがやはり魔物の勢いは留まる事を知らず依然として彼らを食らわんと追跡を続けている。

ケントの持っている弾も多い訳ではない。


「あと20発だ!!」


遂に最後の弾倉が装填された。


「じゃあ後20匹はやれるな!!」


照門を覗き、魔物の姿と照星を重ねる。

エジェクトポートから次々と空薬莢が吐き出される。

20発という限られた銃弾を最も優先すべき敵に撃つ。


斃れる魔物たちを見ながら残り少ない残弾数に冷汗が頬を伝う。

既に残弾は十を切った。

騎乗中のイコのM1カービンを借りようにも今僅かでも隙を見せれば奴らは襲い掛かって来るだろう。


どうすべきか、と悩んだ彼に一筋の光が差した。

幾重にも重なったディーゼルエンジンの音と共に。


《RW・リーダーよりLH!!これより援護射撃を開始する!!》


「レイジングワスプ!?」


瞬間ケント達が走っていた道の左側に木々に混じって三両の車両の影が見えた。

間違いなくレイジングワスプ隊のハンヴィーだ。


ハンヴィーの車載機銃が一斉に、且つ猛烈に火を噴いた。

12.7mmと7.62mmの嵐が魔物に襲い掛かる。


すぐ背後まで押し寄せて来ていた魔物の群れはその勢いを失い、機銃掃射によって蜂の巣へと成り果てる。


DShKとPKMの計六丁の機銃による掃射は視界を埋め尽くすほどいた群れを一瞬にして薙ぎ払った。


「あいつら……迂回路を行く筈だったろ!?」


《私が命じた》


ケントの問に答えたのは無線越しのイスルカ。

彼女の予知能力ここまでの物だと知った彼は感心を通り越して戦慄すら覚えた。


「予言者か。頼もしい限りだな」


《ただ、お前には少し面倒な未来が待っている。()()()に近い》


「何?」


突然訳の分からない事を言い出したのでもう一度聞き直そうとし、自分の体勢が大きく崩れた事に気付いた。


一体何が起こったのか?


それを知覚する前に、ケントは強い力で馬から引き摺り降ろされた。

落馬した彼の体を凄まじい衝撃が襲う。


高速で走っていた馬から転落したケントは地面の上で二度三度跳ね、あまりの衝撃に肺の中の空気が掠れた息となって漏れ出た。


「……ッ!?」


言葉にならない苦悶の声を挙げながら暫く転がった果てに漸く停止する。

苦痛に表情を歪めながら状態を起こし振り向くとそこにはMAS49の銃口を咥えた人型の魔物がいた。


一瞬悲鳴を上げかけたがそれを堪え、相手が動き出す前に引き金を引いた。

空気を震わせる一発の銃声と共に魔物の頭部を吹き飛ばした。


頭部を失った魔物がその場に倒れ伏すと周りにいた何十匹もの魔物の群れが一斉に動き出す。

飛び上がるように走り出したケントは魔物の群れを撒く為に木々の生い茂る森の奥深くへと潜り込んでいった。


足場の安定しないこの森林地帯では流石の魔物も上手く動くことが出来ず直ぐに追い付かれることは無かった。


だがそれでもその走るスピードは人間よりも明らかに速い。

このままでは追い付かれるのも時間の問題だろう。


何本もの触手がケントを捕らえようと伸びては木々に遮られあと一歩で、という所で止まる。


「こちらLH・リーダー!聞こえるか!?応答しろ!!」


無線機に呼び掛けながら振り向き、ほぼ背後まで迫って来ていた魔物に照準を合わせる。

全速力で走って息が上がった状態でも手振れを極限まで抑えながら、最優先のターゲットを選定した。


まず視界右側から来ていた一番近い犬型の魔物。

それから視界中央、視界左側とそれぞれの場所にいる最も脅威と成りうる標的を狙い、撃った。


確実に頭を撃ち抜かれ斃れる魔物の姿を確認したケントは再び走り出す。


その間にも懸命に無線機で応答を求めるが先程の落馬の際に故障したのかスピーカーから流れて来るのは無機質なノイズばかりであった。


「こちらLH・リーダー!!誰でもいいから応答してくれ!!こちら―――」


《LH・リーダーとやら、聞こえるか》


突然の思いもしない見知らぬ相手からの通信。

スピーカーから聞こえてきたのはイスルカよりも低めの女の声だった。

何者かと疑問に思うケントだったが兎に角彼はこの声の主に賭ける事にした。


「アンタが誰だか知らねえが!!出来るんなら助けてくれ!!」


《安心しろ、既にそちらの居場所は把握済みだ。現在追跡している》


「どこからだ?」


《エイウル南西部の一番高いビルの屋上にいる。これよりお前の援護をする為、私の指示に従え》


その命令に強い語気で肯定の意を伝えるとすぐに最初の命令が来た。


《その先に山道がある。そこに沿ってエイウルに戻れ》


見知らぬ女の指示に従い、木々の間を掻い潜り突き進むと確かにそこに細い一本の舗装された道があった。


山道に出て、一直線にエイウルへと走るケントとそれを追う魔物達。


一気に開けた道に出た事によって彼我の距離は次第に縮む。


一瞬背後を振り返ってみると、先程と依然変わらぬ数の魔物がすぐそこまで迫って来ていた。


このままでは追い付かれる。


そう思った時、()()がケントのすぐ左を通り過ぎた。

走る事に精一杯だった彼は何が起こったのか分からずひたすら走り続ける。


だが、別方向から来た魔物が数匹目の前に回り込んで来た。


咄嗟にMAS49を構えるケントだったが直後にまた次の指示が来た。


《伏せろ》


その言葉に従い、頭を下げた彼の頭上をまた何かが通り過ぎる。


しかし、今度は轟音を伴ってそれは現れた。


背後で爆発音が聞こえたと思いきや目の前の魔物の体が吹き飛び肉片と鮮血が混じり合った液体が辺り一面に飛び散った。


上半身を失った魔物は暫くのたうち回るとすぐに力尽きて動かなくなった。


残された足元の魔物の下半身を見たケントは前方のエイウルを見た。

丁度そこには町の中でも特に大きなビルが建っていた。


「まさか…!?」


《お前の逃げ道は私が切り拓いてやる》


ビルの屋上で、僅かにスコープの反射光が見えた。



プロットも作っていない者ですが、いつかは必ずロシア軍と中国軍を登場させたい所です。

ロシア軍のパーンツィリS1でドラゴンを撃ち落とすシーンとか、巨大な魔物を中国軍の98式120mm対戦車ロケット発射器で吹き飛ばすシーンとか書きたいですね。

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