覇王の目覚め、戦いの始まり
前々回の続きです。
「成る程、興味深い」
将軍、ズンコリャッタが唸る。
『これは良いですね。似たようなものがあると聞きますが、滅多に戦争などしないもので』
宰相、プルウナァは感心しているようだ。
〈面白い、面白いぞ! 朕は気に入った〉
王子、ランディス・ソル・ブランシュは、存分に楽しんでいる。
「これが将棋、こっちがチェスでございやすね」
あっしは、商品を紹介している。今回は、これが必要だと思って用意した。削るのはいちいち手間だが、工場を斡旋してもらってそれを売るという循環ができれば普及して利益になるだろう。
さて、
「それで、あっしの情報は役に立ちましたかね?」
「…………。まさか、流れる筏を制御仕切るとは。ああ、急いで準備を進めている」
『これからの常識が変わりますね。相手が他の国もこちらが急いで対策をしているということも知らないでしょう』
「そうでやすね。あっしが経営していた店も無惨に潰されやして、積年の恨み晴らしてやろうと思っていてよかったでがす」
数ヶ月前にいた国はもう亡国と化している。海に飛び込み命からがら逃げてきたというわけだ。
〈むう、朕は余り戦争は好きでは無いがのう〉
随分、機嫌の悪そうな声で言う。
「しかし、平和とは戦争の上にあるのが常。特に侵略に対しては国を守る必要があります」
将軍が、苦々しく言う。
『経費もバカになりません。需要が偏り、今までのものは価値が上がる。文化が遅行しやすくなる』
宰相は、淡々と欠点を言う。
「ただ、争いがないと生きていけない人もいるでがす。世知辛いでやす」
戦争自体は、いろんな要素が構成されている。だが、目的が大事なのだ。戦争など手段でしか無い。国を崩す方法はいくらでもある。リソースを国に回して統治するか、国の意識を団結させて他国に対して力を回すかなどが国の違いでしか無い。
〈基本、戦争がないどころか他国とも会わん。会ったとしても、よそよそしく情報交換か、もしくは疫病を嫌って遠ざけるぐらいしかないな〉
うんざりとした声で王子が言う。
敵が自由に動けるようになったのだ、攻めるのも、逃げるのも相手に主導権がある。
はぁ、と全員が溜息をついた。
◇
街をぶらぶら散歩する。
いつだって、新しい街を見るのは楽しい。雑貨屋さん、花屋さん、変わり種でキネマ屋さんを寄ったりしながら楽しむ。
ほっと、息をついた時に感じる寂しさ。一人というものはここまで孤独なのですね。と感傷に浸る。
慣れたので構わないのですけれど。でも、隣にお兄様が居てくれればどれだけはしゃげたことでしょう。
精神的な意味でも、金銭的な意味でも。
きっとお兄様ならお金を稼いでいるはずです。あったらお小遣いをもらえるようにせびりましょう。
妄想に耽っていると、一枚の紙が目についた。
【至急 とある人物を見つけたら王宮にご案内せよ!】という張り紙とともにわたしの、あわりの顔が描かれていた。
「やった! やっとお兄様を見つけた!」
ガッツポーズの後、お腹と服を仕立て貰いに街を駆けていく。
◆
しばらくした後、王宮の応接室で待つことになった。浮かれてしまって、財産の殆どを服に注ぎ込んでしまった。
でも、お兄様に会えば全てが解決する。
「どうも、お待たせしやした」
入ってくる人に丁重にお辞儀をする。
「はい、私は流浪の旅人・ダイス。いえ、ここではあわりと名乗っておきましょうか」
にやにやとした営業スマイルをしながら、
「ええ、存じております」
手でゴマをするように手を動かしている。
「遠路はるばるお疲れ様でございやす」
「それで、貴方は?」
ニヤッと笑って、
「ええ、ラドロと申します。貴方のお兄様とは、商品の顧問兼用心棒をしてもらう間柄でやす」
それはそうだろう。兄ならば、知識も力も持っているのだから、好みの人に力を授けることもある。
この人は、ふっくらした大正の成金のような見た目通りの腕っ節のない人だろう。
「そうですか。兄が世話になったんですね。ありがとうございます」
「いえいえ、友人として当たり前の事を。命の恩人でもありやすからね」
あはは、と同時に笑う。
「さて、腹の探り合いは必要ないでしょう。出てきてください」
ラドロがそういうと暗闇に紛れていたのか、にゅっと出てきて、
「久しぶりだな。あわり」
とお兄様が挨拶をした。
「ええ、お久しぶりです。お兄様」
ああ、久しぶりに言えた。
◆
「ふむ、それでわたしが敵の主力を。お兄様が暗部を相手取るわけですね」
国の現状を聞き、理解する。
「ああ、そっちは頼む。だが、良いのか?」
「ええ、お兄様に会えたので、もう後は好き勝手しますよ。お兄様も宜しいので?」
「ああ、自分は大丈夫だ」
「では、手筈通りに」
話し合いが終わった後、お兄様に振り返る。
ご友人と何かを話し合っている。ご友人は、こちらにウインクをして見送ってくれた。ご友人がいるならきっと最後まで支えてくれるでしょう。
決死の覚悟を固め、戦場に向かう準備をする。
◇
「結局、気づかれませんでしたね」
「そうでやすね」
あわりが去った後を見ながら決死の覚悟を固めてくれた妹に感謝と罪悪感を覚える。こっちで会って、すぐに別れ、戦争で死ぬかもしれないのだ。自分の力の無さを悔いたことも一度や二度ではない。
「あんさんは気張りすぎでがす。あっしなんて暗部なのに見た目通りの力しかないんでやすからね」
そう、ラドロも、同じ暗部の一員なのだ。
「では、行きやしょう。祖国の仇討ちに」
◇
話は最初に戻る。
「それでは、あっしたちと妹ちゃんが引っ掻き回しますので。その間に制圧し切ってください」
「ああ、任せろ」
『我らを誰だと思ってるんですか』
〈其方らの志に最高の謝辞を〉
親和武功の剣、国を導く智慧の賢者、魔王にして覇王にならんとする、今はまだ無名の王子の言葉を受けて、
「はは、責任重大ですな。では、御武運を」
王子は少し悲しそうな、されど相手の覚悟を受け止めて、
〈ああ、御武運を〉
◆
駆け抜ける影、闇に塗れ敵を翻弄する。
「死ねぇ!」
おお、怖い怖い。でも、まだやらる訳にはいかんでさぁ。
ズブリ、と顔を貫かれ一つの影が海に消えていく。
「少しは、警戒してくれよ」
頼もしい相棒が、背後を守ってくれる。
「ほいほい、ほいっとな」
爆弾を設置して爆破、それを繰り返して敵国を疲弊させる。
「ちっ、囲まれた」
そろそろ時間稼ぎは終いかな。そんな事をぼんやり思う。
「あはは! 最期に大きな花火をお上げましょ!!」
体に巻き付けていた手榴弾を四方八方にばら撒ける。瓦礫が崩れ、敵さんが巻き込まれてゆく。もう、これであっしの敵討ちはもう済んだでしょう。
数多の幾重にも弾丸がこちらに放たれる。この後は、
ドン!
という音がして、
あっしは海に落ちた。
「あんさん! あんぶぉふぁ!」
口に海水が入り、口が塞がれる。手を必死に伸ばす。
あんさんは、こちらに口を歪めて、
「生きろ」
と言って無残な肉塊に成り果てた。
体は流れに沿って王国に流れてゆく。
◇
朕は、鞘から出て宣言する。
「此処に、第百十七代魔王、ランディス・ソル・ブランシュが宣言する。この国、フルヴィスブィルトに、将軍の勇猛さを、宰相の智略を持ち、導こうぞ!
だが、忘れてはならない、我らは世界の安寧のために存在している事を。かつての災害、それを跳ね除け、世界を照らす光とならんとするために力を持つという事を! 皆の者、我が覇道についてまいれ!!!」
ウオオオ、と歓声が聞こえる。振り返り、背後に居た宰相と将軍、あともう一人に声をかける。
「さあ、我らが恩に報いる時がきた。将軍、宰相、たとえ体がボロボロになっても動けなくなるその日までついてきてもらうぞ!」
「太子様、いえ主人様。我らが騎士団は主人に剣を」
「まったく人使いが荒いですな、我ら文官は主人に紀章を」
「では、頭領、お主はどうする?」
頭領はニヤッと笑って、
「あっしをここまで召し抱えるとは。なれば、我ら暗部は主人に名を」
「「「賭けて着いて行きます」」」
此処に、新たな時代の始まりを告げられた。
世界は、いろんな糸が絡んで回っている。
きっと、たぶん、おそらく?