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擬人化世界のその裏で

 丑の日は好きです。

 帰り道、買い物をして帰宅する。何人かの子供が笑顔ですれ違うのを目で追いながら自分の実家のことを思い出す。


 ◆


   宗教の中心地。数多の文化が、悲劇が、信仰が生まれた地。歴史を感じさせる街並み。ステンドグラスから光が漏れている。頬に垂れた明かりを眩しく感じ、目を窄める。自分には、眩し過ぎる景色だった。其れを、家族全員が街を眺めている。

 それが自分の、原初の光景。


 ◇


 ルリハは妹を連れて姉の元へ急ぐ。

 「全く、騒がしいな」

 一人の女性が近づいて来る。髪は、全てを吸い込むような漆黒、眼は角度によって虹彩の色が変わる金剛石のように美しい瞳だ。この女性こそが姉の天弓あまゆみ 氷雨。基本は、顔を崩さずにいる冷徹な女神様だ。

 「若干危なくなってね。報告に来た」

 あの光芒は向こうからも見えただろうが、情報共有のため報告だ。というか、彼の時間の差をなんとかして此方の時間を停滞させてもらっているから二時間で戻るという荒技に成功している。感謝してもしたりない。向こうは嫌がるが。

 「ほら、こまちー、ヒサメ姉ちゃんがいるぞー」

 [む、早めに起こしてくれてもよかったよ?ルリハお姉ちゃん]

 こまちが電脳空間から目を覚ます。

 「まだ、こまちちゃんの肉体を作っていないのですか、愚妹」

 ヒサメ姐は、わたしには厳しいが小町には優しい。まあ、わたしだから愚妹と呼ばれてるのだろうが。

 そういえば、こっちの世界に来る以前からわたしの怠け癖に小言をよくもらってたな。こまちちゃんの偽名の苗字とついでにあなたの苗字も考え直しなさいと言われてたな。適当に鉛筆転がしたけど。


 確かに、この世界でこまちちゃんには電脳生命としてのポジションにいてもらってるがそろそろ現実で動かせる人間の肉体が欲しいだろう。

 「そろそろ作ろうとは思うんだけど、納得できるのがなかなか。以前作った試作も彼が壊しちゃたしね」

 彼のお陰で何回も姉の世話になっている。今まで、年に数日会うぐらいだったのに。

 「ああ、これからも時間管理お願いするよ」

 「貴方がやりなさい」

 [お姉ちゃん、ルリハ姉ちゃんがそんなに細かい調整ができないと思うの、お願い!]

 「妹の頼みなら、このぐらい受け入れんとな」

 胸を叩いて、フフンと鼻を鳴らす。

 ちょろ。あ、こっち睨んだ。目をフッと逸らす。

 ヒサメ姐は溜息をして、

 「お前も誠心誠意込めてやれば、頼まれんことないのだぞ」

 「ええ、ではお願いしますね。では、わたしは昼食を取りに行ってきます」

 鼻歌を歌いながら、わたしのパラダイスに向かって行く。


 ◇


 全くあの子は変わりませんね。ヒサメは肩をすくめる。

 [ほんと、ルリハ姉ちゃんは、楽しく生きてそうだよね]

 最愛の妹の言葉に首肯する。

 ルリハは、やればできる子なのに何に縛られることなく生活している。

 故に、めんどくさいものも背負っているが。気長に待つのも割と楽しい物だ。小さい時はあんなに可愛かったのに。今も、愚妹とはいうがやはり妹は可愛い物だ。

 「一応、仕事もしてもらってるからとやかく言い過ぎない程度にしてるけど。こちらの仕事も一緒にやって欲しいわ」

 [ヒサメ姉ちゃんは、結構言ってる気がするけど。まあ、たまには家業を手伝わしてもいいと思うよ。ヒサメ姉ちゃん喜ぶからね]

 やはり、家族と合わないと少し肌が恋しい。

 家族は特別なのだ。神であるが故によく感じる。そういう意味では、多少力を使う代わりに、妹たちが聞けくれるという点では少年に感謝している。


 ◇


 はあ、危なかった。さて、どうせなので実家の近くにある店、レイサンとか? あんまコンビニって好きじゃなぁ。

 とか、考えていた。うなぎがいいかな?


 ◆


 ふぅ、食った食った。やっぱジューシーなうなぎだよね。口でタレとうなぎの油とご飯がかき混ぜられて、うぅ、思い出すだけで——。やっぱり、最後はカツオだしのひつまぶし。さぁいっこぅー。

 腹も満たされた事だし、小町ちゃんを回収して、家に帰るかぁ。

 

 にしても、あのの忌々しい凶星やろー、気付くのが遅ければまた、ラボが爆散するとこだった。大切なものがいっぱいあるのに。本とか、ゲームとか、気に入った小道具も詰めているから。稀覯本や絶版本とかもあるから無くなったら、発狂するかもしれない。もういやぁ。


 ただ、心配してくれるのは素直に嬉しい。限度も、爆散させることを除けば、あるから。親バカと違って。あんぽんたんは、小さい時から家族以外で私を気にかけてくれる。帰省の時、お土産をあげるかぁ。しょうがない、と思う。


 本当に、わたしは恵まれていると思う。だからこそ、目に止まってしまうのは不幸の嘆き。誰もが幸せになればと望む。でも、それを無理にするのも、わたしのルールに引っ掛かる。そもそも、人によって幸福は違う。


 昔の人類の流行は、生きる為に必要なモノだった。奴隷とかの制度だって、人を生かすための措置だ。措置がなければ、幾人かが路頭に迷う。そういう時代には、単純に自然を恵んだり、力を譲渡するだけでよかった。


 そして、人類の今の流行は、自由。好きに行動する、何にでもなれる、昔の人が羨んだ世界。でも、最近は自殺が増えている。比較的に自由を重んじる日本。差別や偏見の目で人を見ないという理想を掲げ、世の中を動かしている。

 わたしも、差別なんてせずに好きに暮らせばいいと思う。でも、差別をするということは相手を気にしているということ。相手を心の中で認めていること。そして、それ自体はきっと悪いことじゃない。そうやっていないと、それは素晴らしいハリボテだから。


 人は誰かと居ないと生きることが出来ない種族だ。故に、人は集まって暮らす。そして、衝突し合い理想郷を共有していく。しかし、今では理想を持つ人が、夢を持つ人が少ないと思う。

 現代では、呼吸をしても、それに生命の力を感じない。だから、むさ苦しい現代より生きるのに必死な時代の人々は輝いて見えるのだろう。多少の不自由があったとしても、今を生ききれてないから。


 だから、だけれども、この世界は素晴らしいのだと知ってもらいたい。わたしたちを照らす日も、流れる水も、天地は美しく、世界を彩っている。人々は弱いけども、わたしたちが精一杯祝福してるから。どうかこの世界話を楽しんで欲しい。自由は貴方の手にもうあるはずだから。


 それがわたしの願いの一つ。


 ◇


 主人の居ない部屋で一人黙々と作業をする。あたいが壊したのだ、あたいが直そう。あんな、ヤツに任せちゃられない。

 ギーコ、キコ、ギギーコ、ギュルン、ギカッ。

 やったことのない作業ゆえ、かかなり大雑把だ。取り敢えず家の内部を野ざらしから防ぐ。

 「うーむ、彩りがなぁ。そうだ買い物に行ってこよう。マスターから貰ったお金を持って、花でも植えようさね!」

 マスターは内部を飾るのは好きなのだが、外観にこだわりがない。ここは、あたいの腕の見せ所! と息巻いて、道の途中子供もぶつかってしまった。

 「いたっ」

 「すまんね、よそ見をしてたものだから。怪我はないかい?」

 銀髪の少女を抱き起す。ん? どこかで会った?

 でも、あたいは生まれて間もないし。どうして?

 「ええ、大丈夫です」

 少女は立ち上がる。

 「嬢ちゃん、兄妹いるのかい?」

 いつの間にか、口に出ていた。

 「ん? しおん兄様のことですか? それともあのボンクラ兄?」

 ああ、あやつの縁者か。しかし、少女に罪はない。どんなに人が憎かろうとも! 小さい子があたいたちを想ってくれる貴重な存在だから。

 大きくなるその日まで、あたいたちは一緒に居ねばならん。そして、見届けるのだ。その時まであたいたちを覚えてくれたら尚良し。子供に渡すのも、人形魂に尽きるだろう。


 「えっと、あたいは最近マスター、ルリハのところで生まれたんだよ」

 「ああ、同胞の方ですか。私の名前はあわり。ところで何しにここまでいらしたんですか?」

 なんと、同胞であったか! ならば話は早い。

 「マスターの庭の土いじりをしたくてね。花を植えようと思ったんだよ」

 その言葉にあわりは顔を輝かせながら、

 「そうですよね! あんな広い庭があるのならもっと活用してもいいですよね!!」

 おお、賛同してくれるとは。ならば、

 「一緒に花屋に行こうかね。ついてきな」

 一応、生まれは向こうのほうが早いが、精神の成熟度はマスターに手を施された私の方が上だろう。道を先導しようとすると、


 ガシッ!!


 「花屋、反対側ですよ?」

 胡乱な目で見られる。苦しい。小さい子にそんな目で見られるのは。

 「はぁ。私が先導するのでついてきてください」

 あわりに手を引かれながら、


 「あい、…………ひっぐ」

 涙目ながらついていった。

 〆は大事。

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