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復讐は甘美な………

 あなたにトラウマはありますか?

 「人手が足りなくなったので作ります!」

 ルリハは、声を大にして叫んだ。

 「あれ、なんか人手が必要なことありましたか?」

 しおんが答える。

 「そうなんだよ、どっかの誰かさんのせいで毎回、長時間のずれをなんとかしてるんだけど。お陰で、兼業の研究が進まない」

 ここで言ってるのは、しおんを送り出してレポートすることではなく、実績用の研究のことだ。一定期間、成果を出さないと資金提供が難しくなる。その期限が迫っているのだ。

 「今までのやつじゃダメですか?」

 「君の個人情報がノーベル賞するならいいよ」

 大体が彼の実験記録なので、彼自身のことを詳細に書き記さなければならない。

 「それは嫌ですね。それで何を作るんですか?」

 「人形を元にした高知能、高学習、超戦闘能力の三つを兼ね備えたものさ」

 ガサガサ、ルリハが瞳を閉じている人を背負ってきた。

 「誘拐ですか? 犯罪ですよ」

 「いや、この国の法律は私を裁けないし。そうじゃなくて、これが知り合いに作らせた人形さんだよ」

 人形は精巧な作りをしていて、まるで寝ているように動かない。髪は艶やかなピンクの三つ編み、目は翡翠色。

 窓から日が差して、絵画のような芸術的な光景だ。

 「ところで、それをどうやって動かすんです?」

 あわりがやってきて会話に加わる。

 「そこは企業秘密! と、言いたいところだけど、特別に。わたしが色々弄った人格をこの人形につけておしまい! ちなみに、テーマは復讐かな」

 ルリハが部屋に閉じこもる。ウイーン、ガシャ、クヲュグヲュ、バシン、タンタタンタタタン!!!

 「できた!」

 この間僅か三十秒、自己ベスト更新!


 さっきまで命を宿してなかった人形が滑らかに動き此方に近づく。何故か、端正な顔の眉間に皺を寄せている。そして、

 「死ねぇ! ブリューナク!!」

 熱槍を此方に向けて投げてきた。

 「九天翔星!!」

 鳶目一八の影響で二秒先の未来が見えていたので、槍の軌道に流星を当てて逸らす。

 ドゴォーーン、研究所に巨大な穴が空いた。

 「ちっ、外した。それならアルザト・ア——、いふぁ、いふぁい!!」

 人形のほっぺが摘まれる。

 「ねえ、どうして? わたしの研究所に恨みでもあるの? ねえ?」

 ルリハが満面の笑みで、よく見ると口をヒクヒクと痙攣させている。頭の方には、青筋も浮かんでいる。

 「いひゃい、いひゃいよ。まふた〜!」

 涙目になりながら三つ編みの美女は、謝罪の言葉をルリハに言う。

 「そりゃねー、君のベースとしての復讐というものは自我を引っ張るけど、無差別に襲わないようにセーフティを掛けているはずなんだけどね? そこんところどう? もしかして、天才の、わたしの、セーフティが誤作動を起こしちゃった? それなら仕方ないねぇ〜? さあ、地下の研究室の方に戻ろうかぁ〜」

 「まって、待って、マスター! あんたのシステムは完璧だよ!」

 「じゃあ、余計そのポンコツな頭にメス、入れないとねぇ〜」

 キャーー、と甲高い悲鳴が辺りに響き渡った。


 ◆


 「すみません、こう言うものですが。ここら辺で女性悲鳴を聞いたと噂されてまして、何か知りませんか」

 「いえいえ、知りませんねぇ。うちにはじょしゅとその妹とペットしかいませんから。と言っても、家は三分の一残して崩落しちゃたけどね」

 警察の事情聴取を終えて、家の中、大きな吹きさらしの穴から辺りの更地が見える。

 「はあ、ここら辺が人の住んでないところでよかった」

 ここは殆どがわたしの所有地なので、近所さんまでの距離は遠い。ついでに結界を貼っておいたのが功を奏した。いやぁ、光を喰らう槍とか普通対処できないからね。あの親バカ対策の結界貼っておいてよかった。

 「さて、家どうしようか」

 「ああ、それなら自分に任せてください」

 しおんくんは立派だねぇ。どっかの炎熱バカに垢を煎じて飲ませたいよ。

 「あ、人間喰らぁ——ひでぶっ」

 また、懲りずにやってる。まあでもセーフティも働いてるし、デコピンで黙らせる。

 「いったぁ、すみませんマスター。ちょとあやつを蹴散らして、このホームを直ぐに立て直すよ」

 まあ、このくらいならいっか。セーフティがある限り、生命の危機以外で物を意図的に壊さない。

 それが彼女にかけたセーフティ。いつかは解くけど、それまでに育ってくれるといいな。

 「はいはい、いってらっしゃい」

 投げやりに送ると、向こうではしおんにドロップキックを繰り出していた。

 「平和はいいねぇ」


 途端、光条が視界に入る。光芒が肥大化し、どんどん加速している。ああ、隠蔽したつもりだったが少し結界に綻びが生まれていたのだろう。貼り直さなくては。


 〈ルリハおひいさまぁーーーー!!!!〉

 もはや、一刻、須臾にも満たない。しかし、それを知覚し、行動に出る。

 「世界が砕けるわぁ! このあんぽんたんがぁ!!」

 跳び斜め上蹴りを炸裂させる。ふぅ、これで勢いは殺せただろう。後で、妹を呼ぶか。

 〈おひいさま、ご無事で何よりです〉

 「あんたのせいで余計ダメージが増えそうだったけどね」

 ジト目で見ながら、返答を待つ。

 〈誠に申し訳ございません。此方の最高速度で飛翔したのですが。まだまだ未熟、精進致します〉

 全く察してくれない。相変わらずだ。

 「ほら、こっちになんの問題もないから。早く戻って報告してきな」

 しっし、と手首を振る。

 〈そんな、ご無体な。少しぐらいもてなしてくれません?〉

 図々しいなと思いつつ、仕えてるところがあそこだからなと納得する。

 〈ところで、あの坊主を側に置くとは一体どんなお考えで?〉

 それは少年・しおんをそばに置いていることが問題でははない。正確には、しおんの血筋が問題なのだ。

 〈膺懲の一族とはいえ、元は零落の身。ゆめゆめ警戒を怠らないように、と言伝を〉

 「まったく、心配しなくても傷一本つけられないよ。大体、彼らを招いたのはお父様たちじゃないか」

 いまさらの心配だろう。気にかけるだけ無駄である。

 〈では、領主様にご無事を伝えてきますね。困ったらいつでも呼んでください。おひい様の侍従になる腹づもりはできてますからぁーーーー!!!〉

 そう言って、剣の姿のまま投げ返してやった。


 ◆


 「そういえば、彼女の名前は?」

 家を修復しながらしおんは尋ねる。

 「ああ、彼女の名はリ(ベンジェンス イクスティンクション)・リカ・ドーラ、まあ、リリカ・ドーラだよ」

 ルリハも木を鉋で擦りながら答える。

 「いくらなんでもそれはかかりすぎでしょ」


 工程が何段階か飛ばしてもいい過程を選んでる気がする。

 「そういえば、もう一つ聞きたいことがあるんですけど。ルリハさん、あなたは何者ですか?」

 単純な疑問だ。色々な技術、機械、そしてさっきの光芒は、遠かったので何を話してたのかは把握できなかったが、異様な跳躍力で光芒のいきおいを殺していた。それに——。

 「まあ、前に簡単に自己紹介したけど、もう少し秘密にしようか。でも、君の家については知ってるし、素性もおおよそなら目を通している。正直、君くらいしかこのアルバイト引き受けてくれる子がいなかったんだけどね」

 ルリハは、苦笑いをしながらなんでもないように話す。


 「まあ、それならいいですけど」

 本当なら良くない。でも、動揺しすぎて平静でいられない。

 「君の働きには感謝してるの。だから君を正規雇用します。給料もはずむよ! 残業代もサービス!! 正規雇用されると、今なら石鹸もついてきます。あ、姉に伝えなきゃいけないことが出来てた」


 ルリハは、急いで支度して出掛ける準備をする。

 「じゃ、また明日ね。鍵は残った机の上にでもおいてくれればいいから」

 疾走し、何処かに消えていった。

 復讐それは甘美な果実らしい。

食えるものなら是非食べてみたいものだ。

勿論、フルコースで。(錯乱、ゲシュタルト崩壊)

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