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立ち上る煙は貴方を見守る

 意識がハッキリすると、其処は瓦礫に埋もれ、焼け焦げるやけに赤く染まった紅蓮の花園。流れる水は赤く、紅く、辺りを染める。死体が至る所にあり、そのどれもが苦悶の表情や、助けを乞う表情、そして憤悶の表情をしている。倒れた死体の先には、赤黒く、生々しいナニカが鼓動を打っているのか体を上下に揺らしながらも、貪欲にむさぼり喰らっている。ソレは、決して存在してはいけないモノ。人々の狂気、幻影、絶望を内包する正真正銘のバケモノ。

 「ウグアアア!!」

 腹を満たしてもなお、腹を空かせる人の業に向かって、自分は——————。


 ◇


 台所から、トントントンと音がする。味噌汁の匂いが充満する。そういえば、昨日妹が出来たな。

 「お兄様、おはようございます。朝ごはんの支度はしていますので、朝の鍛錬頑張ってください」

 「お前、家の方は良いのか? というかお兄様なんて言わなくて良いぞ」

 「はい、家に居続けても命の危機を感じるだけですから、朝鍛錬のついでです。あと、貴方をお兄様と呼ばないと、あの兄につかいそうですし」

 「そうか、まあこの家は好きに使ってくれて良いから」

 朝食を食べ終え、妹と一緒に鍛錬する。


 ◇


 「おや、馴染んでるようだね」

 しおんがあわりを連れて研究所に来た。

 「はい、親しみを込めてお兄様と呼ばせていただいてます。ちなみに、庭には何か植えないのですか?」

 「うん、そうか。でもお兄様というよりお父様じゃない?ちなみに庭には特に植える予定ないから使いたかったら言ってね」

 「それを言うなら、おまえはお母様だろ。」

 そんな会話をしながら、中に入っていく。

 「そういえば、あわりちゃんはここのこと把握してる?」

 「お兄様の知る限り、全部把握できてると思いますよ。あ、一つ頼みたいことがありまして」

 ルリハはニコニコ微笑みながら、

 「何かな?」

 「私も一緒に研究に参加したいと思いまして」

 「いいよー、そんなことならバンバン言ってよ。じゃあ、もう一個転送機作っとくか」

 ルリハは、胸を叩く。

 『あんた、私の願いは聞きもしないくせに。よく言うよぉ』

 「あんたは例外。取り敢えず実験させてもらうよ。今回のテーマは狼煙だよ! ちなみにあわりちゃんにはその間オレンジジュースあげるから、ゆっくりしててね」


 ◇


 鉄臭い匂いが鼻につく。辺りには、人、人

 人が横たわっている。キン、と甲高い音が至るところからして、ドーンと大砲が火を吹く。少し凹んだ場所には血が池のように溜まり、雑草は血を吸い、その葉を赤く、紅く染める。争いの止まない修羅の世界に、一本の狼煙が上がる。煙は人型になりそこに鎮座する。ただ、此処が責められてると伝令するのみで、動くことはない。ただ、少しの名残りが兜の尾としてゆらゆらと熱気で揺れている。戦場はあたりが焼け野原になって、木は折れ、人が丘のように重なり、怨嗟の叫びが、絶殺の雄叫びが、救いを求める悲鳴が矛の打ち合う音と重なり戦場の四重奏を歪に奏でる。


 突然、キュオーーン、ドドドドドォーン。と一条の光が戦地を切り裂いた。死屍累々の丘を、四つの不協和音を全てをかき消した。それは、大きな円盤状の鉛色の物体だった。よく見ると、細かく彫られた線が幾本も流れ、光を循環させている。恐らく、先の一発を打った砲台は、その身を赤熱させ、煙を上げている。

 『今此処に、某との交渉の用意をせよ。期日は三日間。異論は認めない。さもなくば、貴様らの居場所が地獄の蓋窯が開くと心得よ』

 要望と忠告をして、帰ろうとする円盤に一声かけるものがいた。

 「待て、吾輩は紙鳶しえんと申す。名をなんと言う」

 下界の雑兵、有象無象ではない。鎧に身を包み、顔まで仮面をつけて露出しない。そう、それは狼煙によって召喚された巨人だった。

 『貴様らに名乗るななどない。と言いたいところだが、お前さんの心意気に免じて特別に名乗ってやろう。某は、天蓋てんがい。貴様らの上から見下ろしていようぞ』

 そして円盤は姿を消した。


 ◇


 ジュースをチューとストローで吸いながら、私はお兄様について考える。

 あの人は、基本的に人を信じようとするが、反面臆病だということを私は知っている。故に、裏切り者には、容赦のないことも。

 「ルリハさん」

 「なあに?」

 彼女はそういう点で見れば、裏切るとかそんな無用なことをしないだろう。それに、お兄様はルリハさんに心を少しずつ許している。

 「お兄様を大切にしてくださいね。まあ、どちらにせよルリハさんには無用の心配でしょうけど」

 「あはは、別に彼のことは気にはかけているよ。あくまでわたしにできる範囲内でね。彼のことは一通り見ているから、多分大丈夫」

 苦笑しながら、隣に座ってもらう。

 『あらぁ、私だって居るから大丈夫よぉ』

 確かに、九天さんもお兄様を支えては居るのだろう。でも、

 「それが杞憂で済むのなら、それで構わないのです」

 きっといつかは解決すること。でも、それが私たちの誰かであるのなら。

 全く、どちらのお兄様も手の掛かりますね。そうあわりは肩をすくめたのだった。


 ◇


 紙鳶、しおんは、己の力を確認した。狼煙の体は、相手の攻撃を通さずに一方的に蹴散らせる。ただし一度霧散すると元に戻るまで時間がかかるのと、もう一つの弱点もある。鳶目一八えんもくいちやという先見通す目と仮想世界を作る。そして鳶魚(とびうお)という奥の手。


 ◆


 紙鳶がまだ燃えている焼け野原で佇んでいると、円盤が現れた。

 『ふん、この世界には腑抜けのみか? お前さんは此処にいるみたいだがな』

 「いざ、尋常に勝負」

 紙鳶は、手を持っていた法螺を吹く。ブオォーン、と開戦の合図をする。法螺の出口から大量の煙が放出される。一八と鳶目兎耳の合わせ技で、この先の勝機を演算する。ここら一帯は、煙に包まれて見えない。

 「法螺天珠(ほらてんじゅ)!」

 この法螺には、仮面を変えて能力を付与する効果がある。

 ブオォーン、と音を出して仮面を般若にする。空間を支配し、風の斬撃、衝撃波を絶え間なく四方八方から浴びせる。

 「真蛇焚刑しんじゃふんけい

 風の蛇が絡みつき、罪科を燃やす焔が天を衝く。何回か、バックドラフトを起こさせる。円盤は地上に着地した。

 『ふむ、中々やりおる。しかし、その図体で某を捉えられるか?』

 天蓋が円盤から出て此方に疾走してくる。進行方向に拳を一撃。砂埃に紛れ隠れられてしまったが、決してこの場では吾輩の目からは逃れられない。勝利は確定している。

 勢いよく飛び出してきた天蓋を合わせて拳を叩きつける。決して手を緩めることなく、腕を振るう。 回避され、至近距離から連打を喰らう。

 「ぐうう。だが捕まえたぞ!」

 風穴が至る所に空いた体を動かして、天蓋を両手で押し潰さんとする。

 『まだまだぁ!』

 手で受け止めたため、骨が複雑に折れ、血を噴き出しながらも、こちらに進む。

 『うおお! 天地に抗う唯の漢(アトラース)!!』

 体からオーラが迸り、吾輩の体を背負い投げした。

 ドッボォーン、と音がして、地面に大きなカルディナが出来る。

 『消し飛べぇ! 天返し解ける死の定め(レクス・タリオニス)!!』

 咆哮しながら、体に纏うオーラが肥大化していき、吾輩に向かってくる。バゴォー、光の軌跡には何も残らない。

 『やったか?』

 「お前の後ろだ、鳶魚!!」

 背後から組みつく。そして、最高威力の自爆技。江戸っ子魂が巨大な花火となり空中で咲いた。


 ◆


 『紙鳶、お前やるなあ』

 「ああ、お前もな天蓋」

 互いに杯を交わす。

 『なあ、兄弟。何で今回俺と戦ったんだ?』

 その言葉を頭で反芻しながら、何故だったかなと。確か最初は、狼煙として呼ばれたときに現れて自然消滅するつもりだった。しかし、いきなり現れた天蓋に吾輩は正直希望を見出したのだ。この世界を平定してくれるのではないかと。ただ、どんな奴か分からないから肉体言語を通して測った。それだけだ。

 「お前に託したいことがあるからだ。この世界は安定してるとは言い難い。確かに、そういう時代だからだろう。だが、この世界は禁断の一歩まで踏み出そうとしている。幾分か前、吾輩が出てきた最初の狼煙。それは、国一つを潰すほどの悍ましい怨念、呼ばれた吾輩は持っていた数多ある武器を使い潰して撃滅した」

 吾輩が呼ばれたときには、生存者は居なかった。自分の足元にはアレを伝えるために狼煙を上げたのだろう死体が。全て丁重に埋葬した。

 「そんなことが続き、世界は荒れ果ててしまった。だから、天蓋、お前にこの世界が少しマシになるように働きかけてほしいんだ」

 『それは、兄弟がやればいんじゃねえのか?』

 ああ、それが出来ればどれほど良かっただろう。しかし、

 「この手を見ろ。もう火種がないらしい」

 そう、活動時間が決定的に少ないのだ。今回は、戦場が一つの狼煙として焼け野原になってくれたことでまだ存在できている。ただ、さっきの戦闘で吾輩を構成してくれた煙も霧散してしまっている。また、風穴の空いた部分は元の煙では復元できない、という弱点によって活動時間も大きく削られている。今は、残り火からの煙で体を構成している。

 『そうかい、まあ安心しろよ兄弟。某が適当に脅しをかけに行ってやるからよ。元々そのつもりだったしな』

 それに安心したのも束の間、体が風に溶けていく。きっと狼煙を上げた彼らの意思も攫って――――。

 『じゃあな、楽しかったぜ』

 「ああ、吾輩はいつまでも空の上から見守るよ」

 消える寸前、天上の光が世界を照らしていた。


 ◆


 「今度は友情ものと」

 ボリボリと煎餅を食う。

 「そうですよ。いい友と巡り逢えました」

 「あれ〜? 兄弟じゃないの〜?」

 「ただでさえ最近妹が増えたばかりですから」

 トテトテとやってきたあわりがしおんにお菓子を配る。

 「まあ、お兄様。私はよけいなものですか?」

 あわりは少し目尻に涙を溜めている。

 「い、いや、結構助かってるよ。余計じゃない、余計じゃない」

 しおんが慌てて宥める。

 「しおんが妹泣かせたー」

 『情けないわねぇ』

 追撃を打ち込む。

 「くそ、ふざけるなよ?!」

 狼狽したしおんが、空に向けて悲鳴を上げた。

個人的に泡莅に力を入れている。

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