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風に揺らめく儚さ

 「こまちちゃん、起きてー」


 ルリハの言葉を聞き、意識を覚醒する。


 [——起動。思考同期問題なし。 おはよう]


 パソコンのデスクトップから声を出す。


 「こまちちゃんさあ、そろそろメインボディ欲しくない?」


 側から見たら、研究者と観察対象だろうか? と思いながら口を開く。


 [今は、要らないよ。別に肉体がなくても苦労しないし。最近は、彼のサポートに回っていたから、退屈もしてないしね]


 アルバイトの彼・しおんについて考える。彼は、頭の回転が速く、適応能力も高い。向こうでの生活も満喫しているし、これは補助のしがいがあると思ったほどだ。


 まあ、割と体の方に侵食されていたり、性格面でも残念なところもあると思うが。


 「へえ、そっちは楽しそうで安心。でも、困ったらわたしに連絡するんだよ?」


 いつもルリハは心配性だなと思う。それ以上の親バカもいるのだが。


 [別に大丈夫だよ。————。]


 ◆


 『ねぇ、ルリハ』


 「なんだい」

 研究所では、穏やかな時が過ぎていく。建物に入った日がこちらまで溢れてくる。コーヒーの香ばしい匂いがあたりを包む。


『旦那が、向こうに行ってる間、暇なんだよね』


「何が言いたい」

若干、殺気が漏れながらルリハは答える。


『私も向こうについて行きたいんだけど』


「無理だね、諦めてね」

間髪入れずに放つ。取りつく島もない。


『じゃあさ、体を作ってくれない?』


「厚かましいにも程がある!! そもそも、君の魂は、その刀の歯車みたいなものだから、肉体を作っても刀が壊れて君は壊れるし、刀込みで作るのはめんどくさいんだよ!!!」

 凄い剣幕でルリハは答える。


 『なんでそんな嫌うのさ』


 「君と似たようなやつが知り合いにいてね。いつもこちらに鉄砲玉のように飛び込んでくるものだから、わたしの周りが散らされるのよ! 君を見てるとああぁぁぁぁ!!!!」


 ルリハは、髪を押さえて振り乱す。ブンブン、と音がした後。


 「そうだ、京へ行きたいな」

 ルリハは一種の悟りに至った。



 京に行く為にまず、分身します。


 次に、片方を残して京都まで走ります。


 最後、着いたらどちらも京にいる。


 今度は、北京にも!

 

 

 ん? あれ? 何やってるんだっけ?

 トライアスロンだったかな?



 朝日が、窓から漏れてベットを冷たく幻想的に照らす。窓からは、葉が枯れた木が風に揺られて落ち葉を落とす。生まれてから、何千回も見て来た光景。


 カラカラと、音を立てて扉が開く。入って来たのは、僕の恋人の茉穂まほ。小さい頃からの付き合いで、隣人。七歳のころからの約束をまだ守ってくれていいた。髪は、蒲公英色たんぽぽいろに染まっている。目は、ペリドットのような優しい瞳がこちらの様子を伺う。


 「おはよう、茉穂」


 「お、おはよ、う。別にただのお見舞いよ!」


 茉穂は、何も考えずズケズケ進む癖に、土壇場になったらひよる。

 昔から変わらないなあと思っていると、

 「んん、躱された」

 義妹が、ずっと現れて抱きつこうとしてくる。

 彼女は泡莅あわり。つい最近、加わった家族の一員だ。背丈は、中学生ぐらい。髪は、キラキラと輝く銀色。瞳は、琥珀のように透き通っている。


 「ちょっ、離れなさいよ」


 茉穂が慌てて、妹を突き放す。妹は、ニタニタ笑いながら、


 「へへ、じゃあ。あとは若い者、水入らずで」


 口で笑いを隠しながら出でいく。なんて下世話な。


 妹が出ていくといつものように語り出した。


 ◇


 漕ぎ出したカヤックはーもうだれにもとめられなぁーい。


 ランランタタタ、ランランタタタ


 カヤックを漕ぐルリハ。


 ザッパーン


 高層ビルのように高い波がカヤックを揺らす。


「いやぁ、偶にはハードワークにかまけるだけじゃなくて体を動かさないとなぁー! いやぁ、いい汗かいて!! 天然のシャワーに洗い流される!! 自然の醍醐味よね!!!」


 90度の波を漕いでルリノハ号は新大陸を目指す!


 ◇


 はぁ、としおんはため息をつく。


 よりにもよって、現実世界で姿を変えることになるとは。確か、今回のテーマは、風に揺らめく儚さだったか。なんで抽象的なんだよ! 俺の生命も風前の灯だし。


 ただ、テーマ用の肉体を用意せてもらったおかげか、今回は、儚い雰囲気に敏感だ。前前回とかは、刀をどの方向からでも抜ける。前回は、馬鹿力と移動の誓約、そして実体化と精神体化。


 それにしても、ルリハさんの人脈すごいよな。病院の院長の養子になるとは。兄と妹とを養子をとるここの院長は富豪なのか?

 まあいいや。茉穂とも会話できたし。取り敢えずレポートをどうまとめるか考えよう。


 ◇


 そういえば、彼がしている事の為に色々いじったなぁ。とルリハは思い出す。


今は分身体を回収しに奔走中。ルリノハ号は座礁。


 錯乱しすぎたなぁ。と思いながら、道に迷って南極についた。ボスっと、音を立てながら雪道を歩く。いつものに別の機能を搭載したりとか。私が考えた面白そうな兵器とか。まあ、使っちゃったらしいけど。


 あれって、非殺傷だけど、あまり使わないと思うんだけどなぁ。切れてるらしいけど、まあ彼なら大丈夫でしょう。


 少し後付けしちゃた状況適応演技装置とか、あれは確か演じているものに本気になるという効果だったと思う。


 頭を冷やしながら、経線を一周する。


 ◇


 図書館に向かう途中、お兄様について考える。

 ぶっちゃけて言うと、お兄様のことは好ましくは思うが、好いてはいない。会ってから、数週間だしね。


 お兄様は、茉穂に一途だけど、他者からよく好かれる。しかも、自身は気づかない。

 義妹になった私からすれば迷惑この上ない。病院で見たあの様子なら茉穂は、告白するのだろう。というか、確認をしないで恋人扱いとは如何に。


 まあ、言葉にしなくても互いに伝わっているぽいけどね。

 いつか、まほねぇと呼ぶ時も来るのかなぁ!


 「お兄様に悪い虫がつかないように守らないと」


 全く私がいなければどうなっていたことやら。

 全く、私が居なければダメなお兄様。

 あ、わすれものした。


 ◇


 妹が去り、しばらく他愛のない会話が続く。

 しばらくして、茉穂が屋上に来て欲しいと言い出したので、ついて行く。


 ヒュオー、と春明け前の冷たい風が吹く。夕焼けがあたりを照らす。茉穂の表情は逆光で見えない。


 「いままで、いろんなことがあったよね」

 「うん。家族が一家離散したり、養子に拾われたり。今までいろんなことがあった」


 「そうだね。ところでさ、今まで私たち告白もしてなかったよね。だから、恋人同士と言っても、証拠がないよね」

 「ああ、まあ。伝えなくても互いに伝わっていると思ってるからね」


 「だから——」


茉穂が近づく、右手には果物ナイフ。


 「私と一緒に死んで」


 ドン。


 何かが腹に打ち込まれた音が聞こえる。

 

 そこには、

 「全く! どこにいったかと思ったら! 逢引きだと思ったのに!!」

 泡莅が僕をつき飛ばし、茉穂の果物ナイフを弾いていた。


 「どうして、どうして邪魔するの? ——まさか! 貴方も!!」

 茉穂は、激昂しているようだった。ゆらりゆらりと立ち上がって、泡莅に突進して行く。


 「昇竜舞刃流無手、紫煙鎮火(しえんちんか)!」


 パン、というこけみ良い音がした後、茉穂は倒れる。混乱して状況が理解できないでいると。


 「全く、いい加減にして欲しいよぉ。全く、が癖になってしまいそうだよ。はぁぁー」


 泡莅は、こちらに手を差し出した。


 ◇


 「その後は?」

 ルリハは、泡莅。いや、しおんに問う。


 「ちゃんと仲直りさせましたよ。それにしてもあんな状況になるんですね」


 もちろん、あの心中未遂だけのことではない。しおんは、泡莅だった時に幾多もの刺客を防いできたのだ。数週間程度の間で。


 「あの人、大体誰かを庇って病院送りになるんですよ。しかも、基本助けたのは女の子で。ラノベですかね」


 厄介なのは、必ず落としていく彼の行動だ。無自覚だろうとも、助けた少女が放った刺客や自ら飛び込む輩を防ぐためだけに命が風前の灯だった。

 自分は儚いのでは? と思うほどに。仮の肉体とはいえ、何回も死んでやりたくない。


 「では、そんな君には、これさ!」

 目の前には、腰くらいの高さの少女が


 「お兄様、宜しく」


 その顔は、間違いなく泡莅のものだった。ただ、背は縮んで小学四年生ぐらいだ。


 「え? これってどういう」


 「それはですね、貴方が私に入っている間の人格をコピーしたのです。ちなみに、また入ることもできますよ、お兄様?」

 美しいカテーシーを見せられる。


 今日、自分にもう一人妹が出来た。

ヒロイン像が頭の中で大崩落。

ヒロインの冒険はこれからだ。

なお、頭を冷やして家に戻った模様。

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