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魔王城天守閣で想いを馳せる

記念すべき二話めぇ! ドキドキする。

 朝から鍛錬をする。腹筋、背筋、腕立て伏せを何セットか繰り返し、ランニングに移ろうとして、壁に立てかけてある刀に目をやる。黄色の布に包み、手で持って走り始める。


 『朝から運動なんて感心ねぇ』

 「目立つからあまり声を出さないでくれよ」


 手に持ちながら、川沿いを駆けていく。


 ◇


 「ん、次のテーマは天守閣です。」

 「はい?」


 「詳しく言うと、天守閣に擬人化した存在になってもらいます。前回は、鯉口になってもらいました。だから、ほらすごい抜刀術が出せたでしょ。あれは鯉口を担っていたおかげです。今はあの必殺技は出せないでしょう」


 『いやぁ、アレは流石に全力でできないけどあの流派の技なら、彼は再現できると思うけど』

 「九天翔星」

 コツン、と流れ星の一部が、コップに当たる。


 「いやいや、そんなはずは――。そもそも持ち越せる記憶に限度を持たせてましたよね?!」


 「最後の時、殆どの技を放っていたので」

 「だとしても、何で流れ星が出てるんです?」

 ルリハは、混乱しながら「いや、まてよこうすれば。——いやいや、そうでなくて」と思考に没入していた。


 「まあ、とりあえず行って来ますね」

 [起動——こまちログイン。試作β型への定着、確認。テーマ、天守閣の擬人化。転送シークエンス3.2.1.——]』

 覚悟を決めた目でしおんの意識は遠のいた。

 [0.——それでは良い旅を——]


 ◇


 この世界には、魔力がないはず。それは、この世界の概要を見た時確認した。

 でも、割とお父様も、お母様も、抜けてるからなー。

 あ、メッサライサからhorizonだ。何々、

 

 お前のところの坊主、なかなか面白かった。途中で、我も負けてしまったが、アレほどの血が滾る勝負も、なかなかない。坊主をこちら側に転移させてくれたことへ感謝を。

                   メッサライサより

 

 あいつも負けたんだー。まあ、神としては中堅がいいところだしね。でも、デスポーンなんてあんましないだろうに。普通に死に抗ってるなー。まあ、私たち、基本は全能だからね。全ては知らないけど。

 んー、次はテーマどうしよっか。偶には、抽象的なものでも良いかもしれないか。


——————————————————————————


 少女は問う。


 「貴方は、世界を支配して何を望むの?」


 少女は答えた。


 「わらわは、誰もが幸せになる世界。傷ついて、傷つけられても、笑って許せる場所。華が咲き誇り、風が頬を撫でていく。川では、せせらぎと小鳥の囀りが聞こえて家族がピクニックをしている。誰もが笑顔で野原を駆ける。下の子が転んで、泣いてしまったなら、そっと近寄り、慰めるそんな世界にしてみせる」


 髪が解けて、額にある角が存在を主張する。赤黒い赤暗色の髪に対して、爛々と輝く青色の黄玉を嵌めたような瞳。少女こそが魔王。世界を侵略たらしめんとするもの。


 対して、もうひとりの少女は黒髪緋目。黒と赤を基調としたドレスは濃紫の帯に絞められて、風にたなびいている。


 此処は、魔王城天守閣。貴方の想いを聞いて、馳せる場所。そして、想いの果てを見送る小高い丘の上。全ては此処から始まった。


 ◇

 

 魔王の生涯は、生まれから壮絶だ。そもそも、この星は、あらゆるところが枯れ果て荒野となっている。砂塵が人々の目を曇らせ、枯れ果てた土地が、飢えと渇きを刺激して、人々の貧富の差は留まることを知らない。


 魔王は、生まれた時から一人だった、否、正確には一人になった。戦争中に妊娠していた母親は軍の仮設テントで食料の配給を行っていたらしい。しかし、この野営地も敵にばれてしまい、出産直後で死んでしまった。敵も味方も屍が築かれるだけだった。このままでは赤ん坊は死を待つだけだろう。それが魔王でなければ。


 魔王は素養に死霊魔術を持っていた。それは、役割として刷り込まれた本能的記憶だ。魔法の一つに、死霊を体に取り込むと言うものがある。魔王は、本能的にそれを実行した。辺りが暗くて冷たい、しかし仄暗く暖かい感覚を受ける闇に包まれた。


 それは、草臥れた生きる者たちにとっての安らぎだったかもしれない。宵が明け、世界が中央に立つ五歳くらいにまで成長した魔王を幽かな月光が祝福しているようだった。


 ◆


 童は、まず住む場所を探す。不思議とお腹は空かない。たぶん、さっきまで取り込んでいた魂がエネルギーの補給として機能しているのだろう。魂はまだ、大丈夫。


 それでも雨風が凌げる場所が欲しい。風邪がひかないように、と言う意味もあるが、胸の奥から誰かが告げてくるのだ。そちらに行った方がいいと。


 ◆


 しばらく歩いていると、多くの屍が築かれた大きな城があった。しばらく此処の魂を吸い、過ごしていこう。城門は、赤黒く、ナニカがぶちまけられている。扉は、打ち破られていて、先に人気はない。


 凱旋道路の真ん中を裸足でペタペタと歩いていくと、靴屋や、服屋を見つけた。裸なので、折角だからと寄ってみた。やはり、殆どの品が略奪されているが、少し残っているものを着る。下着に、ブカブカのコートを羽織って、布の切れ端を服にする。


 そんなことをしていると、店内にあった死体が微かに動いた。最初は小刻みに、途中から要領を掴んだようで立ち上がった。胸に穴が空いているが、顔は特に大きな傷はない。のっそりとこちらに向かって来た。


 童が、

 「とまって」

と言うと、ピタッと止まった。少し考えてから、

 「覚醒して」

と言うと、少し唸った後に、

 「うーん、あれ?! 俺はいま死んだはずじゃ」

困惑してから、童の方を見て聞いてきた。

 「嬢ちゃんが起こしてくれたのかい?まあ、何か力の繋がりを感じるし、もしかしてこれ死霊魔法かい?」

 「そう。貴方がたぶん童の力を近くで浴びたせいでそうなったのかも、貴方は、少し未練も強そうだから、かも?」

 コテン、と首を傾げる。

 「そうか…………。まあ、なっちまったんじゃ関係ないな。よし、嬢ちゃんがリーダーでいいから、嬢ちゃんについて教えてくれねえか。俺の名前は、エルビセス・レドハイナ、服屋の倅だ。気軽にエビナと呼んでくれ」


 互いに握手を交わした。


 魔王がエビナと城に入ると、中を物色する為に一階から順に見ていく。やけに赤を基調としたものが数多く並んでいる。

 そして、最上階に出ると

 「おわ、おっとっと、やあ、待ってたよ」


 同じくらいの背、目を引く漆黒の髪と自分を見つめる紅い緋目。金魚と雲海をあしらった着物を着て、ひらひらと宙を浮かんでいる。

 「貴方、だあれ?」

 「私は、この魔王城、いや元か。私は、城の天守閣の精霊みたいなもの。名前は、チェディー。貴方は、この魔王城で何を望む? 名声? 力? それとも金かね?」


 「まだ、童には、よく分からないけど。取り敢えず食料と寝床」


 魔王城は、こうして再興が始まった。

 

 ◇

 

 私、しおん、いや今はチェディーか。


 最初は、この天守閣から外に出ようと思ったが、制約によってここから出られない。この城の主人は、私のことを感知できてないらしい。まあ、天守閣自体は元からあるもので、私自身は生物でもなければ姿を出そうと思うほど目立ちたく無い。

 どうやら、この世界では勇者と魔王がいるファンタジー世界らしい。前回の世紀末、超人剣客流浪譚みたいなものでは無いので、魔王を遊客するほど切迫してないし、ついでにお腹も空かない。

しばらくステルスして情報を蓄えようと思っていた。


 事態が急転したのは、十年後。世界が干上がり、草原が砂漠や荒野に、湖や川は干ばつさせられていった。原因は、魔力の偏りによって、密度が上がることによる大魔災害。それが運悪く、この魔王国と聖王国の間に起きて、互いが影響を大きく受けた。

 しかし、魔王と聖王が手を取り和平を結びことの解決にあたっていった。魔王、いや魔人王はその生まれながらにして保有している魂の力で霊廟に眠る賢者たちから対策を聞いた。聖王改め聖人王は修験の果ての法を掌握する魔法で治安の安定を図った。

 国は、安定して危機は去ったかに見えた。


 しかし、隙を突いた第三国・鷹王の率いる張天国が両国を攻め、魔人王と聖人王を殺し、征服する。

 だが、聖王国と魔王国の住人は反抗し続け、虐殺された。その後、張天国も内部から瓦解し、世は混沌の時代へと突入した。


 私は只、見ているだけだった。

 

 ◇

 

 それから月日が流れ、八年後少女の問いと答えに戻る。

 魔王は、城下町の死体をアンデットにして、覚醒させる。それを労力として動かして、驚異的な速度で国を開拓していった。世界で国は殆ど地図から消えてしまった。貧困で、人との争いで。そんな中で、魔王城は目立った。宗教や、国を巻き込み暗黒の時代になった。


 そんな中、勇者が生まれてしまった。勇者は、魔王と違い、相応しいものがその役割を引き受ける。勇者もまた、国を興し魔王城との緊張を高めていった。


 「これから歴史から消えない戦争が起こるの。この爪痕は必ず残る。もし、童が死んだら——」


 「大丈夫! リリスはきっと生きて帰る!! 

絶対に!!!」


 この五年で、私に名前がつけられた。

 リコリス・ラジアータ、赤い彼岸花。まさにピッタリ名前だ。死者の生命を紡ぐ華。いつかこの世界が天上の花畑のように美しく咲き誇るように、童は、祈る。神ではなく、この想いを育ててくれたみんなに。


 そして、童は、勇者との決闘に向かう。


 ◇


 舞台は、魔王と勇者が戦っていた時の魔王城。


 「ちっ、この時に攻めて来るとは。奴等、どうやら私達の願いを踏み躙りたいようだな」


 私は、激昂する。この場所を、魔王の楽園を破壊せんとする愚か者どもに。


 ゴォーーーン、ゴォーーーン


 と大鐘楼を鳴らす。国民たちが慌てて、準備をしている。向こうは、三日ぐらいかかるだろう。此方は、接敵まで後四時間と言ったところか。


 私は、この場所から動けないので、此処から大強弓を引く。相手がギリギリまで接近したら放つ準備をして、弓を射る。


 ピューー、ドッガガガン、と地面が抉れる音が聞こえる。


 戦いが始まった。


 私達の軍は、アンデットの強者たち。今回は、主に籠城戦なので、食料を必要とせずに昼夜活動できる私たちの方が有利だ。こちら側は人口が七万、相手方は十五万。


 数で負けているが、城下町は城壁と組み合わされ、迷宮のように入り組んでいる。勾配も、強めになっていて岩石を向こう側に転がしていく。対して、相手は着実に物量を活かしながら、ジリジリと魔王城に近づいていく。国民は、もう魔王城のシェルターまでに避難している。


 十五万の軍勢は、せいぜい五万まで減ったところで城門前までついた。此方は、残り三万。しかし、彼らは王城の守護騎士、守りに特化しているので守りが簡単に破られることはない。故に攻めて来るのなら、


 「さあ、奴さんたちが来なすった。魔王城に仇なす有象無象。此処から先は一切の希望を捨てて、果てろッ!!」


 さっきまで投げていた石を、適当に放り投げてやる。背に背負った、棘と六角棍でできた漆黒の金棍棒、大きさ一メートル五十センチの黒い塊の名を呼ぶ。


 「響け、哭き緋瑪(なきひめ)! 万釣張磊ばんきんちょうらい五郭稜ごかくりょう!!」


 侵入者に向けて放つ剛の一撃。烈風だけで侵入者を吹き飛ばす。辺りに積んだ岩が侵入者を押し潰したり、砕けて石片が脳漿をぶち撒ける。

 しかし、

 キィーンと甲高い音がして弾かれた。


 「やるじゃない、同胞。でもね、アンタが魔王についた時点でわたしたちの勝ちよ。千糸盤降せんしばんこう!」

 数多の糸が、あたりを包む。糸は落ちたものを、掴み、絡んでいる。


 「貴様が勇者の物見要塞、レイバー・スタンピードか! いざ尋常に勝負!!」


 火蓋が入って落とされた。


 ◆


 グウオッ、


 と音を立てさせながら哭き緋瑪を振り回す。今回、使える技は数少ない。


 まず、殆ど昇竜舞刃流は使えない。両手が塞がれているのと、あれは技の大半が抜刀術であるからだ。

 いかに相手に刃を届かせるかというのが主なので、他には、回避する技法、気を混ぜて強化するぐらいしかない。


 「轟き万物を揺らすモノ(ラット・チャリオッツ)!!」


 破壊の衝撃を拡散させる。少し天守閣にヒビが入ったが許容内。相手は、間合いを取りながら糸を編んでいく。


 「再臨して廻る輪(ウロボロス)!!」

 千切れた糸が再生して中心にいる私を捉える。


 「死ねぇ! 私が紡ぐ糸(フィレールデュフィル)!!」

 幾重にも重なる白銀の糸が私を包んで――――。


 ◆


 天守閣は、戦いの余波でボロボロになって、そこに佇むのは、唯一人。



 「ふふふ、こんな激戦になるとは。これでも強くなったつもりなんだけどな」

 ボロボロになった着物が、血を吸ってなお、その美しさを際立たせる。


 相手の攻撃をギリギリで実体化を解いて、避けた後に渾身の一撃を叩きつけた。要約するとそれだけの事なのに。


 あの刹那に意識を研ぎ澄ませ、相手の裏をかいた。しかし、反応され相打ち。


 しばらくすると、一つの影がチェディーに近づいた。


 「童が勝利したと思ったら、やはりこうなってしまったか」

 リリスは、片膝をつくチェディーに自分もあわせてしゃがむ。

 「あはは、もう時間がないな」


 ゴポリと、血を吐き出す。腹には、致命的に抉れた傷と、大きな血溜まり。


 「そうかぁ、チェディーにも平和になった世界を見せたかったなぁ」


 魔王が目尻に涙を溜めながら言う。


 「大丈夫だよ、リリス。私は貴方の努力を見て来た。それに、いま貴方の世界が、この眼に見えて」


 霞む光景の中、プツンと糸が切れて、動かなくなった。


——————————————————————————


 「ということです。報告したので例のものを」


 ルリハは、しおんに一枚の写真を渡す。

 そこには、角の生えた女性が小さな少女を抱擁している姿が。周りには、彼岸花が咲き誇り、一面の青空の下に墓が建てられている。


 「しっかり見てるよ」

 魔人の王が描いた光景を、此処で思い馳せる。

 魔王の活躍はまだ続く!

 因みに、エビナはまだいる。

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