エタられた主人公の叫び「夜逃げすんな」
頭を空っぽにして読んでください
俺ってさ、もう何年も年をとってないんだよね。
俺だけじゃない。
俺も彼女も彼もあの子もこの子も、みーんな年取ってないんだよね……。
「年をとらないなんて、めっちゃいいじゃん!」って思う人もいるかもしれないけどさぁ……、全然嬉しくないよ?
だって明日どころか、1秒だって未来に進めないんだから。
この世界は神様がいてさ、俺らはその神様の描いた世界の中で、生きていて……。
――『その時』が来るまでは、結構充実した毎日を送っていたんだよ、実際。
恋人もできたし、修行もしたし、魔訶不思議な体験だってしたし……、中々普通の人なら味わえない羨ましい日々を送っていたんだと思うよねぇ……。
でもさ、ある時、こんな噂を酒場で耳にしたんだよね。
『観光客が訪れないと、その世界は時計が止まる』って。
まぁ、その時は比喩だろって思ってさぁ……、特に耳にも止めてなかったんだ。
後で後悔することになるけど。
俺は、その噂にもっと耳を傾けるべきだったんだよね。仕事なんかよりも優先してさぁ……。
俺は俺の好きなように生きていたし、神様も黙ってそれを見てくれていたんだ……、何も言わずに。
そして、そんな事すっかり忘れて、時は経って、俺は仕事の大詰めに入ったんだ。
そこまで行くのは……まぁ苦労してさぁ……、結構苦しいこともあったわけよ。
だから、俺はその仕事を終えることに対して、結構感慨深いものがありながら、挑んだ訳。
え? その仕事?
順調だったよ。これといって、大きなミスもなく、我ながらやるなぁ、とか何だ思いながらしてたし。
……問題はさ。俺が魔王……。あ、俺勇者だよ、言うの遅くなったけど、魔王に最後のとどめを刺すときに起きちゃったの。
完全に魔王に対して、振り下ろした剣の刀身が魔王にぶっ刺さる直前に、俺……、止まっちゃったんだよね……。
最初はさ、「あれ?」って思ったよ。「俺、どうしちゃんたんかな……」って。
何とかして、剣を振ろうとしたけど全く、びくとも動かないの。
そんな事、今まで一度もなかったのにさ。
魔王の精神魔法か?、なんて思ったけどさ、そいつにそんな高度な魔法技術があるわけでもないしさ、何より、そいつの顔みたら、ぽかーんって何とも言えないマヌケな顔をしてやんの。
魔王も困惑したんだろうねぇ。
俺に殺される!って思っていたのに、全く斬られないから。
で……さ。
俺と魔王、それからずっとそんな調子。
何が楽しくて、可愛い美少女の顔ならいざ知らず、不細工なむさ苦しい魔王の面を何年も見なくちゃならねぇのかって話だよ。
何コレ? 何かの罰ゲーム?
口は動かねーから、心で何度も自分に突っ込んでたけど、「あ、これ詰んだわ」、って絶望してる。
(ダレカタスケテ)
って、もう勇者とかどうでもいいから、誰かに助けを求めていたら、ふと思ったわけ。
「アイツ、どこ行った?」
よ~く、考えたらアイツがいたら、この状況が起こるわけないんだよね。
だって、神様だもん。
時間の軸を動かしているのはアイツなわけで……つまり……。
その時、気がついちゃったんだよね。
(やべぇ……。アイツ……逃げやがった)