プロローグ
私は龍に憧れていた。
いや厨二病的なあれでなく、S級冒険者の龍神族、カムイに私は憧れていたんだ。
あのあの勇者のパーティーやS級パーティーなど、様々な所から招待されたにもかかわらず、全て断り、誰もが諦め、誰にもクリア不可能と言われたクエストをたった一人で達成させ、国家が勝てなかった化け物、【真紅龍】スカーレッドドラゴンを単騎で討伐。
誰もが彼女を英雄と呼んだ。最強と呼んだ。救世主と呼んだ。
───そんな彼女でも、病には勝てなかった。
病名【不明】
特効薬【なし】
治療法【なし】
前例【なし】
そもそも龍神族と言う種族すら稀も稀。太古の古文書に龍神族はいた、それくらいしか記録がないため、そもそもカムイのそんぞい自体がまだ分からないことだらけなのだ。
初めてカムイが病気で倒れたと聞いた時、何も出来ない、そもそも他人の私にはどうすることも出来ない現実に、悔しかった。
他人
冒険者でもない、家族でもない、ましてや話したこともない自分が、誰にも治せない病気を治せる訳もなく、そもそも自分は冒険者とよくいがみ合っている軍人だ。
軍人と冒険者は昔から犬猿の中で、目が合っただけで大乱闘になる始末。
私が心配できる訳もなく、ただただカムイの治療法が見つかるのを祈るばかりだった。
そんな日常の中、彼女は現れた。
『ベット借りてるわ』
心臓が爆ぜる音がした。
いつもどうり訓練と王の護衛を終えて家に帰ったら自分のベットの上であの憧れのカムイが寝ていたのだ。
下手したら心臓発作起こして死んでた。
オタクで言うなら推しのキャラが朝起きたら隣で寝てたくらい驚く。
そんな感じで私とカムイの奇妙な同居生活が始まった。どっちかって言うとカムイさんが勝手に家に住み着いてるだけだけど
ちなみに私の家に住んでるのは誰にも言ってないそうです。
§§§
「宮島軍曹」
「なんだ」
私は今日の新人の軍人を私たちの部隊に迎える入隊式に参加していた。
そしてそれが終われば個人的な歓迎会、要は飲み会がある。新人達に先輩が酒や飯をご馳走様する、そんな決まりが私の部隊で勝手に決まっていた。
「この後1杯どうですか?実は新人の歓迎会がありまして··········」
「悪い、このあと用事があるんだ。少ないが歓迎会で使ってくれ」
私はそそくさと服を着替えると、現金を少なからず渡してそそくさと家に向かった。
「軍曹最近ノリ悪いな」
「元々飲み会とかに参加するような人じゃないもんな」
「いや、最近上官の誘いも断っているらしい」
「なに?あの軍曹がか?」
「実際わしも断られたしの」
「「「元帥!?!?」」」
陸軍最高司令官、伊藤元帥。
思わずそこにいた全員が頭で理解するより体が先に動き、素早く敬礼する。
「あー良い良い。元帥と言っても今はただの老耄。銃も打つことすら難しい男に、敬礼などせんでもいい」
嘘である。この男の策略は敵国との戦争で味方の軍人を数人の被害で勝利し、交渉の場に経てば自国に有利な条件で成立させる。
彼ほど敵に回したくない男は居ない。そして先程の宮島軍曹はこの伊藤元帥の懐刀である。
宮島軍曹はいくつもの戦争で決死隊として何度も敵に突撃し、刺されようが撃たれようが殴られようが止まることなく鬼のように戦い続け、仲間からも敵からも【不死身の鬼軍曹】と恐れられている。
本当ならば階級も上がっているのだが、「私は軍曹のままで構いません」の一言で昇進の話を一刀両断したらしい。
「ホッホッホッ。そのうち子供でも連れてくるんじゃないか?」
「···············おいお前らっ!!今から合コンだ!!!」
「俺達も軍曹に負けてらんねぇぞ!!!」
「「「うっしゃオラァッッッ!!!!!!」」」
「···············今の若いのは随分と元気じゃのぉ」
雄叫びを上げる軍人達。
それもそのはず。冒険者と違って軍人は圧倒的に女がいないっ!!しかも女絡みのことも少ない!!冒険者が姫様を助けて結ばれる話は多いが、軍人が姫様を助けて結ばれる話がないように、軍人に女絡みの話は少なく、「軍人になったら婚期を逃す」と言われるほどだ。
(宮島かぁ。あんな硬い男も色を知る年になったか。嬉しいような寂しいような···············ホッホッホッ)
そんなことを思いながら、これから国王と将棋に誘われてることを思い出し、城に向かう元帥であった。
§§§
「よっ、おかえり」
「ただいま戻りました。こちら頼まれていた薬草です」
「敬語はやめてくれよ。ここはお前の家なんだぜ」
ベットにもたれる女性。
かつて英雄と呼ばれたS級冒険者、カムイ。しかし今は昔とはまるで別の姿だった。
肥大化した角。人とはかけ離れ、鋭く長い爪に、獣のような足。体の所々に見える、鱗。
既に手足は鱗に覆われ、肩から頬にかけて鱗が出てきている。
しかし、それでもその美しさは本物だった。鋭く輝く龍のような紅蓮の瞳。白くシミひとつない肌。体の所々に描かれる刺青。まだ幼さの残る可愛らしい顔。エルフを思わせる長い耳。細い手足。絡むことがないサラリとした白い髪。
どれをとっても美しさは当時の、いやそれ以上の美しさだ。
そして私は未だ彼女のその美しさに魅了されている。
「いいえ。貴方には国を救ってもらった恩がります。それに冒険者を辞めたとはいえ、元この国の英雄。どうかご自覚ください」
「かってぇこと言うなって」
「····················申し訳ありません」
「つれねぇな」
そう言って私の反応を楽しむように笑うカムイ。
「なぁ、今日はどうだった?」
「··········入隊式がありました」
私はベットに座り、カムイに背中を見せるようにして座る。
私の日課のひとつだ。いつの間にか始まった日課。
今日あったことを伝える。ただそれだけ。私はいつも背を向いてそれを伝える。その時のカムイの顔は見えない。
気にならないといえば嘘になるが、顔を見ようとして尻尾ビンタくらった。
カムイ
■一人称:私
■歳:約3000歳
■身長:165cm
■得意なこと:棍棒、トンファー、大太刀、薙刀
■必ずやること:特になし
■状態:白血病
■好き:特になし
■嫌い:勇者
■見た目:元々は鱗は尻尾以外になく、体の所々に現れている鱗は病による生存本能により先祖返りをしたため現れたものだと推定される。
片方の目も白くなり失明。手足は完全に鱗に覆われている。他にも角が肥大化し、犬歯も大きく鋭く、獣を思わせる牙へと変化している
白血病
その名の通り血が白くなる病気。この病気は前例がないため、血が白くなる以外わかっていない。
彼女の身体的変化はあくまで彼女の先祖返りに起因するものであって、白血病とは何も関係がないが、それでも彼女の体に害をもたらしていると言う事実は変わらない。
治る見込みは今のところなしと考えられている。