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5話 末路

 まるで津波が通り過ぎていくような凄惨な様相の渋谷に、巨大な水のドームが立っている。高さ6000メートルの海に人々も、ビルも蹂躙されていく。ひかりは、その水のドームからの脱出試みるが、まるで洗濯槽の中の様に渦が巻いている。その結界を抜くのはS級魔導士たるひかりにとっても難儀だった。

その巨大な洗濯槽に取り込まれたビルの残骸や、車が暴力の渦となってひかりを襲う。

「やつはどこ?」

 ひかりは濁った水に目を凝らし、魔力反応を探す。公孝はちょうどこの結界の中央に居る。

「Efreguran-Arteguran-Bal-Gumu-海の覇王、リヴァイアサンよ、汝が力をもってこの海を散らせ、ベルハ・ムート!」

 ひかりはこの結界を海の魔王たるリバイアサンの力で散らそうとする。だが、この結界の中央に奴、神衣公孝は居るのだ。彼の得意魔術は水属性であり、相対効果でこの魔力で編まれた海も、公孝も強化されている。

「だめか! ならば!」

 ひかりは両手をクロスさせて次の呪文の詠唱に入る。

「Belstar-Clastar-fifstomelin、血よ、嘆きを炎と変えて。舞え、飛びかうは金色の女王の涙。デイザスター・レイン!」

 ひかりの背後に女性器めいた魔術文様が浮かび、そこから無数の赤い怪光線が飛び、海のドームの中のデブリを破壊していく。だが、それを待ってましたとばかりに公孝は笑った。

「くく、初見相手にためらわず全力を出すのはいいが、伝説のディザスター・レインは、もともと娼婦女王、レインの切り札、ノベンバーレインの模倣でしかない。無知とは罪。罪あるがゆえに我が左目は泣き、罪なきがゆえに我が右目は怒る! 喰らえ! 狙い穿つは万軍の敵! そのものの名は、罪! ノベンバー・レイン!」

 すると公孝の背後にも無数の女性器めいた魔術文様があらわれ、そこから赤い怪光線が飛ぶ。自由自在にコースを変えて、ひかりが放ったディザスター・レインを相殺するように。

「やられる? 対抗呪文は……」

 ひかりは半ばパニックになりながら有用な呪文を探す。水属性は彼女の得意分野ではなく、切り札としていたディザスター・レインは、公孝の唱えたノベンバー・レインの下位呪文でしかない。諦めかけたその時に、唐突に海の結界は崩れ落ちて、公孝はノベンバーレインを霧散させた。

「終わりだ」

 そう告げる公孝に戦意満々でひかりは言った。

「どういうことよ」

「そもそもだ、天軍の依頼は伊達成美の始末であって、お前の討伐ではない。そういうことさ。お前、どこに伊達成美を置き去りにした?」

「それは! あんたの作った魔導……迷宮。まさか!」

 ひかりは公孝の言葉の意味を理解して、その魔導迷宮まで飛ぼうとした。だが、素早く公孝は後ろからそれを抱きとめて言う。

「行くな! リュミエール。行かないでくれ」

「はなせ! 成美ちゃんは! 成美ちゃんは!」

「お前の手持ちのアーティファクトを用いても、いや、最早神の子の奇跡力でも、成美はもう戻らない。もう、これでやめにしよう」

 ――同時刻――

 喫茶店リュミエールにほど近い通りに、煮えたぎる水の球が湯気を立てている。その中で、伊達成美はゆっくりと煮られていった。

「ゆるさない、ゆるさない、絶対にあんただけは赦さない! 神衣ぃ! 公孝! 覚えたわ。そして忘れない。この憎しみを」

 公孝はまるで恋人との別れを惜しむように切なげにひかりを見て、コートのポケットからたばこを出してジッポーライターで火を付けた。


 ひかりは、ものの1分でリュミエールの前の通りにまでたどり着いた。そして、煮られた親友、いや、愛人の伊達成美の頭を抱く。

 触れるだけで肉は崩れ落ち、彼女が伊達成美だと証明するものは、いつも首に下げていた金の十字架のメンズネックレス。そのネックレスの詳細はひかりは知らない。『明日のおじさん』からもらった約束の宝物。


「絶対に、こんなことは認めない! 絶対に、あいつだけは赦さない! 必ず殺すわ」

 ひかりの周囲の重力が歪む。ぶううん、という低音を響かせて、もはや肉塊となった成美とひかりを黒い球が覆っていく。

 シュイーン、という高音と共に、二人の姿とその球は消え去った。

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