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4話 暴力の海

 リュミエールは飛翔呪文を唱え、男が激突した渋谷109の最上階を見下ろす。しかし、そこで彼女は奇妙なものを見た。男が激突したであろう渋谷109の最上階は、まるでアイスクリームを掬い取った後の様に滑らかな曲線を描いて、その断面は濡れている。

「どういうこと?」

 リュミエールは着地して、右往左往する人込みを押しのけ、渋谷109正面口に向かう。その先から現れたのは例の喪服の男。男は片手にキンセンカの花束を持ち、それをブーケトスの様にリュミエールに投げてよこす。キンセンカの花言葉は、別れの悲しみ。

「なんのマネよ、花束なんて」

「俺としても今回の天軍の作戦は本意ではない。罪なき伊達成美は本来、主のみ名によって保護されるべき存在だが、ユーミルの首の未来演算では、伊達成美の憎悪の原罪宝冠は103パーセントでベルゼブブ、ないしは奴の嫡子、イエス・フェイゲンバウムの手に落ちる。それをわかれとは言わない。俺は泣く女が嫌いだ。だが、ほんとうに嫌いなのは、女を泣かせる仕事しかできない、始末屋の自分さ」

 喪服の男を風が撫でる。サングラスの隙間、左目から流れ落ちるのは間違いなく、涙だった。

「どうあろうと! 成美ちゃんは殺させない! 成美ちゃんを泣かせる奴は殺すわ!」

 そう毒づくリュミエールを、喪服の男は笑い飛ばす。

「悲しませる奴は殺す? だったら……だったらなぜ」

 先ほどまで左目で泣いていた男は哄笑して言い放つ。

「だったらなぜ! 最上ひかり! お前がまず死んでしまわない! なんの情報も調べずに来たと思うのか? 知っているぞ。お前と伊達成美の父、松平成雄との関係も! その結末も!」

 男の笑みに狂気が浮かぶ。最上ひかりは、松平成雄とは不倫の仲だった。そして破局は訪れた。成美がまだ6歳の頃だ。成雄は、ひかりと成美を引き合わせて、プロポーズをした。だが、それが悲劇の呼び水となる。ひかりは成雄との離別を選択し、そして成雄は……自宅で首を吊って死んだ。

『コイツは! 知っている! なにもかも!』

 ひかりは魔術兵装、ダークディライトを展開し、黒いドレスのように見えるローブを身に纏う。そして、異次元に納刀してある魔剣、レザースエッジを抜き放ち、言った。

「お前は殺す!」

「それが可能ならばな。俺の最大魔力は2億4千万オルゴン。調査が正しければ、君の魔力量は1億8千万オルゴン。装備次第で埋められない差ではないが、俺は神羅舞心流の戦士だ。近接戦闘では君の勝機はない。そしてっ! 見るがいい! Satan級魔道災害指定魔術師の、真の暴力というものを!」

 神衣公孝は無造作に両手を天に掲げる。なにやら呪文を呟きながら。そして、空からにわか雨の様に落ち始める水滴、そして、周囲に響く轟音。公孝が唱えたのは召喚呪文。そして、彼が召喚したのは、半径一キロ、鷹さ6000メートルの、海だった。

「沈めっ!」

「やめろ!」

 海は轟音を轟かせながら渋谷の街に降り注ぐ。まるで巨大な洗濯機の中に放り込まれたように、渋谷の一角と無数の人間が6000メートルの海に蹂躙され肉塊と化した。 

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