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ごめんねが欲しいんじゃない 2

「ハァ.......」

私は一人巴瑞季の置いて行った代金を眺めて溜息をついた。

そうやって良い人ぶっって何がいいんだよ。

その言葉が耳でいつまでも繰り返されていた。

私はただきみと仲良くなりたかっただけ。

それなのに、きみを怒らしてしまった。

私の配慮が足りなかった。

きみがどれだけしんどい経験をしてきたのか。

それを知らない私はいつの間にか土足できみの心に上がり込んでいたのかもしれない。

私と話しているときのきみはとても楽しそうだった。

私がきみのかけがえのない友だちになったんだって勘違いしてた。

きっと私が話しかけたのがいけなかったんだ。

もう話さないでいよう。

そう思うとなぜか心が痛んだ。



きみと出会ったのは二年生になってからだった。

きみはクラスではあまり目立たない方できみが自己紹介するまではきみに気づいてすらなかった。

自己紹介の時きみはぎこちない喋りでおかしなしゃべり方だなって思った。

でもそれと同時に、一生懸命に話すきみは誰よりも輝いていた。

自分の伝えたいことを伝えようとする姿は何所かかわいかった。

男子に向かってかわいいなんて言うのは少し失礼かもしれないけれど。

それから私はきみに興味を持ち始めた。

というより、誰とも話さないきみの最初の友だちになってみたかった。

きみに何度も話しかけてみた。

でもきみは無視してばかりだった。

でもこの前ようやく反応してくれた。

な、なんで、そ、そ、そこまでするんだよ。

それがきみから聞いた初めての声だった。

君はきっと優しい人だ。

わたしが下の名前で呼んでも、きみは少し嫌な顔するだけで受け止めてくれる。

誰も知らない巴瑞季を知っているわたし。

優しいきみの初めての友だち。

そうでいたかった。




時計を見ると巴瑞季が去ってから相当な時間が経っていた。

そんなに私はしょげていたんだ。

あまり長居していてはお店の人に迷惑だろうと思い、私は席を立った。

巴瑞季のお金はどうしようと一瞬悩み、明日返せばいいかと思い自分の財布へしまう。

ふと、巴瑞季が座っていた席を見ると見覚えのあるスマホが転がっていた。

巴瑞季のスマホだ。

忘れて帰ったみたいだった。

巴瑞季、取りに来るかな。

そうだとしたら、わたしが預かっておくのは迷惑かな。

でも、お店の人に預けておくのもな。

不思議だ。

きっと、このスマホが友だちのだったら、私はお店の人に預けておくだろう。

でも、今はそうしたくなかった。

いつの間にか私は巴瑞季のことで頭がいっぱいになっていた。

どうにかして、また巴瑞季と会おうとしていた。

どうして巴瑞季に会いたいって思うのだろう。

ごめんねって謝りたいから。

友だちをなくしたくないから。

何を考えてもその理由は分からないままだった。



結局のところ、私は巴瑞季のことをカフェで待つことにした。

おそらく今の私は迷惑な客の一人だろう。

でもそんなのはお構いなしだった。

巴瑞季に会ったらまずどう言うべきなのだろうか。

答えは分かっていてもそれだけじゃ何か足りない気がした。

「どうしたんだい、暗い顔して」

そうこうしてるとこのカフェのオーナーらしき老人に話しかけられた。

「あ、ごめんなさい。こんなに長居してたら迷惑ですよね」

「いやいや、そんなことはないさ。ただ、暗い顔した嬢ちゃんが少し心配になってね」

で、どうしたんだい、と老人はつづけ、ちょっと失礼と言って私の目の前に座った。

「今さっき、友だちとケンカしちゃって」

「あの男の子かい? 」

「はい。私が良かれと思ってしたことが彼には嫌だったみたいで。それでその子に良い人ぶって何がいいんだよって言われちゃって」

「そうかい。ちょっと待っててな」

そういうと老人は席を立ちどこかへ行った。

そうかと思うとしばらくして老人はミルクコーヒーを二つ持ってきて自分と私の前に置き、まあ、飲みなさい。代金はいらないから、といった。

「そんな悪いですよ」

「良いからいいから。こんな老いぼれと話してくれるんだ」

「ありがとうございます」

「嬢ちゃんはその男の子に何をしたんだい? 」

「友だちになろうとしたんです。彼、話すのが得意じゃなくて友だちが一人もいなくて」

私は老人に巴瑞季と出会った時のこと、今日あったことをほぼ全て話した。

「きっとその子は本気で怒ってないと思うよ」

「えっ、どうしてですか」

「きみはなんでそのこと友だちになろうとしたんだい?」

「それは.....」

「良い人ぶりたかったから?自分の好感度を上げたかったから?」

「そんな」

そんな理由じゃない。

ただ仲良くなりたかった。

巴瑞季の一番になりたかった。

「そうじゃないんだろう? なら、怒ってなんかないさ。」

「じゃあ」

なんで巴瑞季はあんなことを言ったのだろう。

「うれしかったのさ」

「え?」

「嬢ちゃんに話しかけられて、友だちになって。カフェに誘ってくれて。うれしかったんだろう。でも、嬢ちゃんがそれを謝るから」

彼はきっと謝られたことが嫌だったんだよ。

老人はすべてを見晴るかしているかのように言った。

「彼はとても臆病だ。そしてとても不器用だ」

確かにそうなのだろう。

誰からもその喋り方一つだけで馬鹿にされ、格好の的になって心を閉ざした。

そのせいで他人とのかかわり方が分からず、自分の本当の気持ちさえも上手く伝えられない。

巴瑞季とうまくやるには巴瑞季は巴瑞季として他の人とは違う接し方をするべきなのだろう。

「でも、彼を特別扱いしちゃいけない」

心の内を見透かされていた。

「特別扱いしない姿勢こそ、彼の求めるものだよ。たぶんね」

「めんどくさいんですね」

「たいていはそんなもんさ」


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