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ごめんねが欲しいんじゃない

そんなこんなでカフェに来た僕ではあったが、カフェなどというものとは無縁の生活を送ってきたものだから何をするのか、何を頼めば良いのか全く分からず途方に暮れている。

いっぽう長谷川さんは慣れた様子で抹茶フラペチーノとかいうものを頼んでいた。

「巴瑞季、何か頼まないの?」

「ぼ、僕は、いい、かな」

「えー。なにそれ。つまんないよ。何か頼みなよ」

そういった彼女は僕にメニュー表を渡してダルゴナコーヒーを指さし僕に勧めた。

「え、えと、ど、どうしようかな」

「あー。もう。じれったいなー。すみません!ダルゴナコーヒーください」

勝手に注文された。

「あ、ちょ、ちょっと」

「いいの。後悔しないから」



「コホン。今日なぜカフェに巴瑞季を誘ったか分かる?」

抹茶ラテとダルゴナコーヒーが来るまでの間、唐突にそんな質問をされた。

「か、カフェに、い、行くことに、り、り、理由はないんじゃなかった、の」

「理由なしで行くわけないじゃない」

さっきはカフェに行くことに何で理由を求めるかなとか言ってたくせに。

長谷川さんは数分前に行ったことを忘れてしまうのだろうか。

「そ、それで、り、り、理由って何」

「それはね、巴瑞季がいろんな人と喋れるようにしよう作戦の作戦会議をするためだよ」

巴瑞季がいろんな人と喋れるようにしよう作戦か。なんだそれは。

そもそも、僕は好き好んで人と話さないのに、それを崩そうとするなんて。

それだけは阻止しなければ、僕の高校生活がいつかの地獄へと化してしまう。

「そ、そんな作戦、き、聞いてない、よ」

「知ってるよ」

何だって?てことは、長谷川さんは明らかに意図的にそうしようとしているってことだよな。

悪魔か、こいつは。

「そ、それなら、や、やめて、よ。そ、そんなのしても、君へのメリットは、な、ないだろ」

「なんでやめないといけないの?私は自分のメリットなんて求めてないよ?むしろ、巴瑞季のメリットを求めてのことだよ?」

「ぼ、僕へのメリット?」

そんなことしても、僕のメリットなんてみじんもない気がする。

僕が誰かとしゃべれば笑われて、馬鹿にされて、喋ったことを後悔する。

僕の吃音症はそんな日ばかりを引き寄せた。

そんな日々の何所にメリットなんてあるのだろうか。

「そう、巴瑞季のメリット。巴瑞季って誰ともしゃべらないでしょ?そのせいで友だちなんて私以外にいないでしょ?」

ほっといてほしい。

というか、誰が僕と長谷川さんが友だちなんて言ったのだろうか。

「た、確かにそうだけど、き、君と、と、友だちに、な、なったつもりはない、のだけれど」

「え!うそ!ひどいよー巴瑞季ー。ピエン」

そういって彼女は目を潤ませた。

そういう目にはめっぽう弱いんだよな。

「ご、ごめん。べ、べつに、傷つける、つ、つもりはなかったんだ。た、ただ、友だちかどうかき、気になっただけ、だよ」

「ほんと?」

「う、うん」

「それなら私と巴瑞季は今からともだちだよ」

彼女は万遍の笑みでそう言った。

友だちか。

そんな言葉何年ぶりに言われただろうか。

長谷川瑞希はそんなに悪い人人じゃないのかもしれない。

「ダルゴナコーヒーをご注文の方」

そんな時彼女が勝手に頼んだダルゴナコーヒーなるものが来た。

待てよ。

他人の注文を勝手にする人はイイ人だといえるのだろうか。

やっぱり友だちは難しい。

「巴瑞季のだけ先に来て良いなー」

「しょ、しょうがないだろ。さ、先にき、来たのは」

「そうだけどー。私の抹茶ラテと巴瑞季の奴が一緒に来ないとなんかヤダ」

なんだそれ。

友だちだったらそう思うのは当然なのだろうか。

「抹茶ラテをご注文の方」

「ほ、ほら。き、来たよ」

「あーん。やっとキター。感動の再開」

別に再開はしてないだろ。

ほんと長谷川さんは.....

「ニコニコ.....してる」

「何?巴瑞季」

「え?な、何もい、言ってないよ」

「うそつけー。ゼッタイなんか言ったー」

「う、嘘じゃないって」

「えへへ」

楽しいな。

そう初めて思えた。

友だちも案外悪くないのかもしれないと。

「お、長谷川じゃん」

僕の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「あ!山本君じゃん。ヤッホー」

長谷川さんはそう山本圭太に言った。



山本圭太という男は僕が一番嫌いな人間だ。

なんせ、この男は一年のころのあの地獄を作り出した張本人だ。

いつもクラスの中心にいて多くの人から慕われる。

おまけに、スポーツも出来てルックスも良い。

ファンクラブがあるらしいなんてうわさが学校内に飛び交うほどだ。

つまり、山本圭太と僕は正反対の人間なのだ。

そんな人間が今僕の目の前にいる。

しかも陰キャの僕が陽キャの長谷川さんとカフェにいる。

こんな最悪なシチュエーションあるか?

こんな状況で山本に絡まれたらひとたまりもない。

「山本、なんでここにいんの?」

「え、べつに。長谷川もなんでここにいいんだよ」

「えー。内緒」

長谷川さんは山本と仲がいいらしく楽しそうに話している。

この隙にこの場から離れよう。

僕はそう思い、飲みかけのダルゴナコーヒーと二人分の料金をテーブルに残しそっと席を立とうとした。

そのとき

「東雲、なんでお前もここにいんだよ。しかも長谷川と」

不運にも山本に絡まれた。

「べ、別に。と、とくには」

「あそ。てか、その変なしゃべり方変わってねーのな」

「.....」

「え、無視?ひどくね?」

「.....」

「まさかお前、長谷川といるからって調子乗ってんじゃないよな?」

「べ、別に」

「別に、ね。適当に返事してんじゃねーよ」

「.....か、関係ないだろ」

「は?」

「ど、どっか行けよ」

「てめぇ。ふざけんなよ!」

「山本!もうやめて!」

唐突に長谷川さんはそう言い放った。

「なんだよ長谷川」

「巴瑞季をいじめないで」

「別にいじめてなんか.....」

「いじめないで」

「分かったよ.....」

「ありがとう」

「なんか俺なえたわ。じゃあな」

そういって山本は僕の前からいなくなった。

そうだよな。

僕はこんなとこにいていい人間じゃないんだ。

教室の隅でボッチで陰キャのままいるべきだったんだ。

それなのに。

それなのに僕は長谷川さんとカフェなんかで笑っていた。

場違いだ。

場違い過ぎた。

「巴瑞季ごめんね」

「な、なんで、は、長谷川さんが、あ、謝るんだよ」

長谷川さんは何も悪くないだろ。

「その、私がカフェに行こうなんて言ったから」

なんでだよ。

僕は長谷川さんに誘われたことがうれしかったのに。

「べ、別にそんなこと言ってないだろ」

「ごめん」

僕を誘ったことを後悔しているのかよ。

結局.....

「ぼ、僕を誘ったのは、お、お遊びだったんだ」

僕は抑えきれずにそう言ってしまった。

「そんなことないよ!だって」

「だって?な、なんなんだよ。そ、そうやって、そうやって良い人ぶっって何がいいんだよ」

違う。

僕が言いたいのはこうじゃない。

そう思っても僕は長谷川さんにひどい言葉をかけることしかできなかった。



そのあと僕はその場の空気に耐えられずに代金だけを置いて逃げた。

逃げたのは良いものの家にそのまま帰る気にもなれず暗くなり始めた空の下ボッチで歩いていた。

ボッチでいれば何も考えなくていい。

誰にこんなことしたな。

あんな言葉言ってしまったな。

今どう思っているかな。

そんなふうに考えなくていい。

だって誰ともかかわらないのだから。

でも。

でも、今はボッチじゃなくなってしまった。

長谷川さんが僕に話しかけてきたから。

長谷川さん怒ってるだろうな。

きっと僕に友だちだなんて言った事後悔してるんだろうな。

あんな奴友達なんかじゃないって。

ボッチのままいたらいいって。

別に良いさ。

僕はその方が楽だから。

寂しくなんて.....

「言えないな.....」

せっかくできた友達を些細なことで失って。

「なんで」

なんでこうにも長谷川さんのことを気にかけているんだろう。

分からない。

僕が僕じゃないみたいだ。

前の僕は

長谷川さん嫌われたかもとか

悪いことしたなとか

あんなこと言わなきゃ良かったとか

もっと仲良くしていたかったとか

そんなこと思わなかった。

僕は弱くなってしまった。

気を紛らわそうとポケットからスマホを取り出そうとした。

でもスマホはポケットにいなかった。

どうやらあのカフェに忘れてきたみたいだった。

どうやら今日はとことんツイていないらしい。

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