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ハンデがあったっていいじゃん!

南第一高校の男子高校二年生、東雲巴瑞季(しののめはずき)はコンプレックスがある。それは一般的に吃音症(きつおんしょう)と言われるショウガイである

 言葉が上手く出ず詰まってしまい声が出にくいのである。

 吃音症にはいくつか種類があり、音を繰り返してしまい「ぼ、ぼ、ぼく......」となってしまうものや、音が伸びてしまい「ぼーーくーー......」となってしまうもの、のどに引っかかったみたいに言葉が出てこず、「......ぼく......」となってしまうものがある。

 僕の場合、音を繰り返してしまうことが多い。日によっては調子が良く上手く喋る事ができる時もある。それでも大体は音が詰まってしまう。

 去年の春、入学式直後の自己紹介の時吃音症のせいでクラスメイトに大笑いされた。

「ぼ、ぼ、ぼくの、な、名前は、し、し、し、東雲、は、は、巴瑞季で、す」

 確かこんなふうに言った記憶がある。

 正直自分でもおかしいという自覚はあった。とても恥ずかしかった。でも、そんな笑うことじゃないだろうと思った。


 しょっぱなからそんな大恥をかいたものだから、僕は以降なるべく無言を貫くことにした。僕が何か喋ればまた笑われるから。もう二度としゃべらないと強く思ったから。

 それでも何もしゃべらず学校生活が送れるわけがなく先生に当てられれば言葉を発さずに過ごすなんてことは出来なかった。

「せ、せ、先生。ぼ、ぼくだけ、じゅ、授業、ちゅ、中、あ、当てないで、く、くれませんか」

 一度先生にそう言ったことがあった。

「なんでそんなことしなきゃならんのだ」

「き、き、吃音、しょ、症なんです。こ、言葉を、だ、出しに、くい、んです」

「吃音症だかなんだかしらんが、そんなもんは自分に甘いだけだろ」

「で、で、でも......」

「こっちは忙しんだ。教室に帰りなさい」

 先生は僕の考えを尊重することなく冷たく僕をあしらった。

 あの先生だけは一生恨んでやると思ったのは秘密。



 僕は仕方なく授業の時だけ喋ることにしたのだが、そのたびにクラスからはひそひそと笑い声と侮辱の言葉が飛び交った。

 学校に行かないという選択肢だってあった。でも、それだけは絶対にしたくなかった。

 こうして僕はボッチとなった。

 独りぼっち。それは僕にとって安泰の瞬間だった。

 誰ともかかわらず、喋らない。それが僕にとって一番楽な道だった。

 そんな僕も、健常者とともに進級することができた。

 この一年もボッチでいよう。

 そう思っていた。

 そう思っていたのに、長谷川瑞希(はせがわみずき)というギャルはそんなものお構いなしに話しかけてきた。

 吃音症が僕の個性だと言って。



「東雲君だよね。一年間よろしく!」

「......」

「え!無視?!」

「......」

「むう......困りましたな。東雲君が喋ってくれるまで話し続けよー」

「な、なんで、そ、そ、そこまでするんだよ」

「やっと相手してくれた!」

「ぼ、僕の、し、し、質問に答えてよ」

「理由なんてのはどうでもいいの!」

 それよりさ!と言って彼女、長谷川瑞希は僕の手を引っ張りギャル軍団の中に引き込もうとする。

「ちょ、ちょっと!」

「何よ。そんなに焦って」

「そ、その、ま、ま、まだ、こ、心の準備が……」

「そっか」

 その手前で阻止した。

「ひ、人と、は、話すの、に、苦手、だから」

「ふーん。じゃあさ、私と話して克服しよ!」

「い、い、いやだから、ぼ、僕は人と、は、話すの……」

「私とも喋りたくないと」

「う、うん」

「今日、あの子達と話してくれるならそれでもいいけど」

「……」

「ねーねー!東雲君がアンタ達と話したいってー!」

「い、いや! そ、それは!」

「嫌なんでしょ」

「う、うん」

「それなら決まりだね!」

 正直、普通の人と同じように接してくれた事はとても嬉しかった。

 でも、それが逆に怖くもあった。

 甘い言葉で誘って貶める。

 イジメの始まりだと思って。

 そんな僕の考えとはうらはらに彼女は

「私達、友達じゃん!友達が友達をイジメたりしたら、それはもう人間として失格だよ。少なくとも私はそんな失格者じゃない!だから、安心して!説得力ないかもだけど……」

 そう爽快に笑ってみせた。

 それが長谷川瑞希というギャルとの出会いだった。




 それでも、いくら話す運命(?)になったとしても僕はできる限りボッチでいることを選んだ。

 基本、休憩時間だったり昼食時間だったりはボッチ。

 ちなみに今は昼食時間である。

 朝から昼まではボッチで過ごすことができた。

 このまま、このままボッチを続けて……

「やっほー!シノハー!」

「……」

 どうやらボッチは続けられなさそう。

「ねーねー!」

「……」

「おーい!」

「……」

 せめてもの粘りで無視をする。

「無視?!またー?」

「……」

「シノハー!」

「し、シノハって、だ、誰」

「おお!やっと反応した」

「そ、そりゃ、は、は、反応する、よ」

「でも、今さっき無視したじゃん。シノハ」

「そ、その、し、し、シノハって、だ、誰なんだよ」

「うん?それは東雲巴瑞季君に決まってるじゃん!」

「な、なんで」

「東雲巴瑞季を略してシノハ。可愛くない?」

「ど、どうだ、ろう」

 ギャルのセンスは分からない。

 すぐ可愛いとかエモいとか言うんだから。

「そうそう!シノハ!」

「し、シノハって、よ、呼ぶの、や、やめて」

「えー。じゃあさ、巴瑞季って呼んでもいい?」

「え、い、いや……」

「オッケーなんだね!」

 いつ僕がオッケーしたのだろうか。

「ま、まぁ、い、いい、けど」

「巴瑞季! 放課後開いてる?」

 放課後か。

 一応空いてはいるが、極力ボッチでいたいからなぁ。

「あ、空いてる、よ」

 でも、嘘をつくのは性に合わない。

「マジ!じゃあさ、じゃあさ、放課後カフェ行こ!」

 なぜ、放課後にカフェなんかに行くのだろうか。

 コーヒーとかカフェラテとか飲みたいなら家で飲めばいい話なのに。

「い、いや、や、や、止めとく」

「なんでー!」

「い、行く、り、理由が、無いから」

「なんでカフェに行くことに理由を求めるかな」

 なんで理由を求めないのかな。

「わ、分かったよ。い、い、行く、よ」

「やったー!」

 どうやら今日の放課後はボッチではいられないみたいだ。

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