表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第三話

〇箱庭階級第69位:フルカスの箱庭→リヴァストの街


 1日目。血眼で街中を駆け巡った。ルシアとイチちゃんを探すためだ。結果的に2人を発見することは叶わなかった。いくら広いとは言え、この街が占める面積は高等学校の3つ分程度。1日中探索していれば、探す場所も尽きてしまう。姉と妹はこちらに来ていないという受け入れがたい現実が、目の前にただただ存在していた。

 2日目。仄暗い不安感と孤独感が胸中に渦巻いていた。しかし、昨晩は意外にもあっさりと寝付いてしまった。脳を酷使したためか、日中に多くの戦闘を行ったためかは分からない。だが、疲労が表面化した結果だろう。俺はぐったりとして、目を擦りながらも、街の小さな図書館に籠って本を読んだ。初めにこの世界の知識をつけようと考えた。気がついたら、いつの間にか図書館の椅子に腰かけたまま眠りに落ちていた。

 3日目。図書館のテーブルで目を覚ます。早朝だというのに周囲には数人ほどいた。彼らも読書を行っていた。俺と同じように、この世界について、まずは知るところから始めようと考えた人たちだろうか。自身も寝食を忘れて一日中本を読みふけった。体感では19時間か20時間程度読んだ気がする。正確な時間は分からなかった。


 7日目。図書館のテーブルで目を覚ます。連日椅子での睡眠を繰り返しているため体が、主に腰と背中が痛い。そしてこの頃には様々なタイプのプレイヤーがいることが分かった。

まず約半分のプレイヤーはこの時期にはリル――この世界の通貨の単位――が尽きていた。外界からの救援に期待し、街の中で通常の生活をしていた者たちだ。だが、この世界では不思議なことに腹は減るし、眠くもなる。

 寝食をせずとも死ぬことは恐らくない。しかし、人間はその欲求に簡単には逆らうことが出来ない。眠る、食べる、眠る、食べる。そうして生活していれば自然と初期にあった資金は尽きてしまう。そうなった連中は、仕方なく外出し、モンスターとの戦闘を避けつつ、植物や鉱石の採取をして、それを資金化する形で細々と生活を送っていた。慣れない野宿している者が大半になっていた。

 残り半分のプレイヤーは外界からの救援を期待せず、自身の力で生き残ろうとした者たちだ。そのうちの2割は積極的にフィールドエリアに出向き、徒党を組んで周辺の弱いモンスターを安全に狩り、資金を調達し、生活をしていた。採取よりも狩りの方が金策の効率は良いため、その部類に属する者たちは安価ではあるが危険と引き換えに宿での寝泊まりを可能としていた。

 更に1~2割ほどのプレイヤーは驚くべきことに攻略を進めていた。並の人間の感覚ならば生き永らえることを優先しそうなものだが、どこに行っても一定危険を顧みずに行動する者はいる。周囲のモンスター、マップ、フィールドを研究し、レベルを上げ、スキルを取得していく。それらをゲーマーの勘と根性によってこなしていた。総プレイ時間2万時間以上の猛者揃いなだけあり、牛歩ではあるが着々と攻略は進んでいた。しかし、死者が――正確には植物人間にされてしまう人間が――最も多いのもこのグループであったことは言うまでもないことだった。

 残りの者たちは他のプレイヤーを対象に盗みを働く者、協調などしたくはないと独りで生活を繋ぐもの、俺のように図書館に籠り知識をつけようとする者、情報を販売する者……詐欺の場合もあるが。など様々だった。


 15日目。俺はどのグループに属しているかと言えば所謂「攻略組」に所属していた。噂によるとこの時点で既に400~500人ほどのプレイヤーが死亡しているらしい。最も低いレベルである“Lv1”の場合、一瞬の油断で周辺の弱いモンスターにも負ける。ゲーム慣れしている人物ばかりではあったが、それはコントローラーを持ちモニターでプレイするゲームの話だ。体を動かさなければならないこの世界とは根本的に異なる。

 俺は図書館でひたすらに本を読み続け、着実に知識を増やしていった。狂ったように机に向かった。片時も本を離さなかった。辞書のような分厚い本3冊を一日で読んでしまったこともある。生活資金が尽きたので、図書館で得た重要な知識をピックアップして教えるという形で授業料を取り、そのような形で生活していた所、その知識が買われ、攻略組に誘われる運びとなった。

 寝床と食料は攻略組で共有され、特に困ることは無かった。攻略していればもちろん死者が出ることもある。しかし自分は知識を教えているだけで戦闘は殆どしていない。死者が出ようともまるで対岸の火事のような気分でしかなかった。


 それでいいのか、とは思っていた。しかし恐怖が勝っていた。植物状態になることが個人的には本来の死より恐ろしかった。死んだら何も残らない。ゼロに還元されるだけだ。しかし植物状態とはどういうことなのだろう。記憶を抹消され、何も覚えていないまま生き続ける。五感は働いているのか? 自分はそうなったら何を感じて生きるのだろうか? 赤ん坊に戻されるということなのか? 永久の暗闇に閉じ込められたまま無意識を過ごすような感覚になるのではないか? 自我と感覚と精神をはっきり残したまま、何もできない体になるのではないか? そう考えてしまうと共に前線で戦おうと言う気持ちにもならなかった。

 だが、命を張って戦っている人たちに申し訳ないという気持ちが、俺を図書館へと運ばせた。自分が今できることはこれしかない。とにかく知識をつけ、それを共有することで価値を生み出す。読書をしている間は自分の臆病さを忘れることが出来た。死んでいった人たちに対する罪悪感が払拭されて没頭できた。現実では殆ど勉強しなかった自分が恐怖に狩られ、馬鹿みたいに本を読みふけっていた。俺は俺に出来ることを考えなければいけない。考え続けなければいけない。

 しかし、自分が臆病風に吹かれて逃げているだけであるという現実は、どうしようもなく目の前に存在し続けるのであった。





 22日目。攻略組と呼ばれる人間は、既に元の人数の半分を割っていた……。


24日目。夜中。煌々と光る蝋燭と月の明かりを頼りに厚い本の1050ページ目を読んでいた。周囲モンスターの図鑑であった。残りたったの430ページ。今日中に読み終わることができるだろう。

 ぺラリと本を捲る音、サラリと指が紙を撫でる音が、静寂を計る図書館に反響する。

 ……腹減ったな。コマンドから時刻を確認すると既に11時を回っていた。昼から何も食べていない。もう1ページ読んだら何か食べよう。そう思って本を捲った。すると


 フォン。


 通知音だった。


「なんだ……?」


 疲れ目を擦りながらメッセージを開く。そこにはいつもは見ない青色のフォントでこのように書かれていた。


『以下の称号を獲得しました。【ザ・ガイドⅠ】』


「……なんだこれ。あ~称号、称号か」


 眠気のためにすぐには理解出来なかったが、ゲーマーなら誰しもが分かるだろう。なにかしらの条件をクリアすると手に入る、地位などを表す呼び名だ。なんだかわからないが称号を手に入れた。なんとなくその称号か書かれている文字をタップしてみた。


『【ザ・ガイドⅠ】』

『取得条件:合計350時間の読書』

『称号をセットしますか?YES/NO』


 ……そんな本読んだかな。いや読んだわ。そんで、セットしないよりはした方がいいのかな? っていうか試してみないと何とも言えないか。とりあえず俺は『YES』を選択した。

 すると自身のプレイヤーネームが表示されている横に称号が追記された。


 フォン。


 再び通知音だった。


『運営より:初の称号獲得、おめでとうございます。それに伴い注意点を記します。

1,称号の取得方法は公開してはならない。公開した場合即座に対象を終了する。

2,称号により得られる恩恵は様々なものがあるが、セットするまで効果はわからない。

3,付けられる称号は1つのみだが、着脱は可能

以上となります。引き続きSolomon World Onlineをお楽しみください』


「何がお楽しみくださいだよクソが……。はぁ」


 自然とため息が漏れる。いや、怒ったって仕方ない。

えっと、なんだって。称号の取得方法を教えてはいけない……教えたら終了……恐らく死ぬということだ。知識を共有することで生きている俺がこれを人に教えてはいけないというのは苦しいが。

 恩恵……恩恵ってなんだ? 先ほど称号をセットしたはいいものの、その効果が分からない。とりあえずコマンドから見るのが早いか。【ザ・ガイドⅠ】の効果がステータスの部分に書かれていた。


『以下の知識が自動で手に入る。

・10レベル以下のモンスターの特徴

・階級第72位~階級第67位までの採取物の出現場所と特徴』


 ……なるほど。しかし、実感が湧かない。つまりどういうことなんだ? 考えても答えは出ない。そう思い、手元の本に目を移してみた。すると驚愕の事実が判明した。


「……! そういうことかよ」


 思わず笑みを浮かべてしまう。同時に鳥肌が立った。目の前にある図鑑の次のページはまだ目を通していない。それにも拘わらず、そこに書いてあることが“既に知っているかのように”脳に入ってくる。次のページも、その次のページも同様だった。

 知識が脳内に自動インストールされたということを感覚で理解した。


「……」


 その感覚と同時にある感覚がもう1つあった。そして、あることが思い浮かんだ。

俺はしばらく使っていなかった片手剣を背負い、暗い夜のフィールドに出ることにした。


・レベルアップの仕様

レベルアップ毎に“現在装備している武器に見合う”ステータスが上昇する。

例:大剣クラス装備ならSTRが上がりやすい。ワンドクラス装備ならMPとMATKが上がりやすい。

また「ステータスポイント」と「スキルポイント」がいくつか貰える。

ステータスポイントはSTRやAGIなどのステータスに割り振るポイント。

これにより特化型にしたりバランス型にしたりできる。

スキルポイントはスキルを取得するために割り振るポイント。

スキルポイントをいくつ割り振ることで何のスキルが手に入るのかはプレイヤー側からは分からない。

スキルポイントは99まで割り振るといったん止まる。そこから100以上のスキルポイントを振ると、以降その武器クラス以外の武器を使用できなくなる。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

もし、あなたがなろう小説をたくさん読む方でしたら、よろしければ以下の基準で評価の方をお願いします。


ストーリー、文章共に平均より良い→☆5

ストーリー、文章いずれかが平均より良い→☆4

ストーリー、文章いずれも平均的である→☆3

ストーリー、文章いずれかが平均より悪い→☆2

ストーリー、文章共に平均より悪い→☆1




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ