奪われた者達
謎の武装集団は、シェパードを含む観覧客全員を一ヶ所に集め、その周囲を囲んでいた。
さらに別動隊がおり、館内で何かをやっているようだが、シェパードからは見えない。
「こんな所で何をする気なんじゃ?」
銀行や役所ならともかく、博物館を占拠する理由は彼には理解できない。
そして良く見ると、程度の差はあれ全員が人間離れした姿をしていた。流暢に会話をしている所をみると、元々人間ではあったようだが。
「な、何事です!」
建物の奥から一人の男が出てきて、状況を見て驚いていた。その口ぶりから、この館の主と思われる。
「ようやくお出ましか」
別動隊が戻って来て、その中の一人が館長に話しかけた。
「誰かね? 君達は」
「我々は"奪われた者達"。かの大変異を引き起こし、多くの命を弄んだ国家錬金術師共に裁きを下すために活動している」
「国家錬金術師が大変異を引き起こしたって? 何を根拠にそんな事を」
「まぁ国が丁寧に情報隠蔽しているだろうからその疑問は当然だが、我々は目撃したのだ。奴らの配下が、大変異の元となる何かをばら蒔いていたのを」
「それが何故、大変異の元だと分かるんだ?」
「蒔かれた地点に近い程、早く、そして大きな変異が起こっている。我々は偶然その近くに住んでいたために、より凄惨な現実を目の当たりにしてきたのだ」
「……」
「あらゆる生命が、急速に狂っていった。その大半があらぬ姿で死に絶え、生き延びた者達も無事では済まなかった」
「し、しかし……」
「我々の要求は二つ。博物館をただちに終了し、展示物すべてを焼却処分せよ。錬金術師を讃えるなど言語道断!」
「やれやれ、黙って聞いてれば随分勝手じゃのぅ」
奪われた者達代表(?)の語りに痺れを切らしたシェパードは、彼の方に向かって歩き始めた。
「動くな!」
ドンッ!
立ちはだかる見張りを殴り飛ばしながら。
「誰だお前は?」
「ワシはその国家錬金術師の一人、シュナウザーの父親じゃよ」
「何だと!?」
「お前さんが自身の理屈でワシの息子を害するのであれば、ワシもワシの理屈でお前さん達を叩き潰させてもらうぞい」
「上等だ! 者共かかれぇぇ!」
かなりの数にのぼる異形の群れに対し、たった一人で挑む老人。結果は……
「ふぅ。こんなものか」
明らかに普通の人間より強かったはずのそれらは、一人の老人の手によって、今やほぼすべて物言わぬ肉塊と化していた。
「お母様。我は……」
唯一生き残った代表も、もはや虫の息である。
「その恨みだけを糧に生きていくつもりじゃったのか?」
「当然だ。我にとって、お母様は生きる意味そのものだった。奴らは、大変異は、そんなお母様を……世にもおぞましい形で奪っていった」
「そうか。ワシも大変異の結果妻を失ったが、だからと言って誰かを恨むなんて無駄な事、しようとも思わなんだがのぅ」
「例え無駄でも、それしか道の無い者、も……」
彼はそこで事切れた。
「あの~」
すべてが終わった後、シェパードに話しかけて来たのは、ここの館長だった。
「おお、騒がしくして済まなんだ」
「……私は何も見なかった事にします。後始末もこちらでやっておきますので、どうか早々にお引き取りを」
「うむ。仕方ないのぅ」
その後、博物館は本来の期日を待たずして、唐突に閉館した。
しかし、その理由を知る者は誰もいない……事になった。