壁の村
悩んだ末、シェパードは自分で猪車を運転してみる事にした。
「見よう見まねじゃが、案外何とかなるもんじゃのぅ」
猪車は安定した走りで街道を進んでくれていた。
ちなみに後ろの車には、出発前に捕った肉を積んでいる。彼が徒歩ではなく猪車を選んだ決め手はこれだった。
「食糧も持ち運べて、便利なものじゃわい」
街道沿いに進んで行くと、やがて大きな壁が見えてきた。
壁の側まで来てみると、その大きさが見てとれる。
高さは老人の背丈の優に五倍はあろうか。丈夫そうな木造の壁が、大きな何かを取り囲むように続いていた。
「誰だお前は!」
突然、上から声が聞こえてきた。
シェパードがそちらを向くと、男が一人、壁の上からこちらを見ていた。
「ワシゃ旅の者じゃよ。これから首都に行くんじゃ」
「そうか。ここから首都に行くなら、村の反対側の街道をさらに進めば良い。その先にある街からなら、首都へ行けるはずだ」
「おお、わざわざすまんのぉ。それにしても、ここは村じゃったのか」
「ああ。大変異以降、こんな壁でも無いと生活もままならないんでな」
よく見ると、壁のあちこちに傷が見える。おそらく凶暴化した野生生物の襲撃に晒されているのであろう事が窺える。
「村の規則により、残念ながら中を通してやる訳にはいかないんだ。だから壁沿いに向こう側に出てくれ」
「あい分かった」
シェパードが言われた通り壁沿いに進み始めたその後。
「おい、外に誰かいるのか?」
また別の男が壁の上に現れた。
「ああ。首都まで旅してるって爺さんが来た」
「で、どうしたんだ?」
「壁沿いに進んで反対側の街道に出るよう、教えてやったぜ」
「はぁ? 何やってんだお前は! そいつがただの旅行者かどうかわかんねぇだろうが」
「いやいやお前、それは考え過ぎだって」
「今の俺達に考え過ぎは無ぇ、そんな事お前だって分かってるだろ!」
「だからって、無闇に突っかかって敵を増やす必要も無いだろ?」
「いい加減分かれよ、そんなヌルい事言ってたら死ぬんだよ俺達は! 俺達の後ろには守らなきゃいけねぇ家族がいるんだ、生き延びる為に手段なんて選んでられねぇ。そのジジィを殺るぞ」
「まったく。そんな敵意全開の方が早死にしそうだと思うんだが……」
壁の内側で、たった一人の老人を仕留める為の準備が始まった。