ところで息子は……
息子の元へ行くと決めたシェパードだったが、ひとつ問題があった。
「そう言えばわし、息子の居場所を知らんのぅ」
彼がこの家を出て行ったのはもう何十年も前。昔は錬金術師なる職に就いていると聞いたが、今もそうであるとは限らない。
「ここでこうしてても始まらん。村にでも出て聞いてみるか」
シェパードは思考を切り上げると、いつぶりかの村に赴いた。
「おぉ、シェパード爺さんじゃねぇか。随分顔を見なかったが、どうしたんだ?」
村に出て最初に入ったのは、昔からの顔なじみが営む食堂だった。
「とうとう妻が逝ってしもうてな」
「そうか。大変だったな……」
今はまだ日が昇って間もなく、客はまだいない。
「この際じゃから、息子の所にでも行ってみようかと思うての」
「お前さんの息子って言えば、あの国家錬金術師のシュナウザー博士だろ? どうだろうなぁ」
「どういう事じゃ?」
思わせぶりな言葉もそうだが、自分の息子が有名人っぽい事に、シェパードは違和感を覚えた。
「シュナウザー博士と言えば、今やこの国の最重要人物だ。どこで仕事しているかはもちろん、全ての情報が国家機密並ときた。父親であるお前さんでさえ、会わせてもらえるかどうか」
「そうじゃったのか、まだ錬金術師なるものをやってたんじゃな」
実の父親は、その辺の食堂のオヤジより息子の事を知らなかった。
「絶対無理ってわけでも無いだろうが、あまり期待しない方が良いかもな」
「まぁええ、とりあえず行ってみるわい。とは言え、どこにおるのか」
「おそらく首都のどこかだとは思うが」
「首都か。確か馬車を乗り継いで行くんじゃったか……すまんのぅ、世話になった」
そう言って席を立とうとすると、食堂のオヤジに呼び止められた。
「せっかくだし、何か食ってかねぇか?」
「おぉ、そうじゃな。じゃあ……ここからここまでまとめて頼む」
「おい」
「大丈夫じゃ、金ならある」
「そうじゃなくて。そんなに食えんのか?」
「最近何だか体の調子が良くてのぅ。そんでもって食欲もすっかり戻ったんじゃ」
「戻ったって量じゃねぇぞ……まぁいい、頼んだ以上はちゃんと食えよ」
しばらくして次々と運ばれて来た料理を、シェパードは次々と平らげていった。
そして最後には、空になった食器だけが積まれていた。
「ふぅ、食った食った。お代は置いとくぞい」
「……嘘だろ」
謎の胃袋の容量を見せつけた老人は、今度こそ食堂を後にした。