老人、ふと思う
その日を境に、世界中の生きとし生けるもの達に、原因不明の突然変異が起こった。
ある者は魔法のような特殊能力を身に付け、またある者は容姿を全くの別物に変えていった。
生態系はぐちゃぐちゃになり、人類もまた大きな転換を余儀なくされた。
この現象は"大変異"と呼ばれるようになった。
大変異発生から十年近く経ったある日。
とある辺境の村外れに、一組の老夫婦が住んでいた……ついさっきまでは。
たった今亡くなった妻を抱え、夫が埋葬の準備をしていた。
死因は大変異による身体の変化。彼女の場合はその変化が悪い方に出てしまった。
足先から徐々に、まるで樹木のように硬く節くれだつようになり、最後には全身がそんな状態になっていた。その死体は人間だった面影は形のみで、むしろ人の形をした木だと言われた方がしっくりくる位だ。
このように大変異は、生物として強化される事もあれば、逆に生命活動が脅かされる事もあった。
ちなみに夫の方に体の変化はなく、普通の人間のままだ。他の部分で言えば、以前より感情の起伏が平坦になった位か。
妻の葬儀も終わった後、一人残された老人シェパードは……
「暇じゃのぅ」
暇をもて余していた。
彼には都会に出て行った息子がおり、もう何十年もの間帰って来ない代わりに、結構な額の仕送りを欠かさず送ってくれていた。
そのため、仕事をせずとも日常生活に不自由する事は無い。
さらに妻が死んでから妙に体の調子が良く、まるで若かりし頃に戻ったかのように身体能力が向上していた。
時間、財力、そして体力。
偶然、その全てがそろった今の彼には、何も無い日常は退屈だった。
「そうじゃ、シュナウザーの所にでも行ってみるとするかのぅ。今頃何をしとるんじゃろうか」
特に深い考えがあった訳ではなく、何となく息子であるシュナウザーの所へ行く事にした老人。
だがこれが後にとんでもない大事になるとは、この時はまだ知る由もなかった。