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Let’s 離婚パーリー

作者: 葉月あかり

「結婚生活最後の離婚パーティしようよ」

 そう言って私は元夫になるべきひとへ笑いかける。

 一緒に暮らした狭いアパートの玄関先で夫は苦笑しながら首を横に振った。

「いや、そういうのじゃなくて、もっと普通にただ一緒にメシ食おう」

「普通って言われても。友達としてってこと? じゃあもう離婚届に印鑑押してくれるの?」

「だからそれはできないけど」

「じゃあやっぱり離婚パーティだね。結婚生活最後の食事会ってことならいいよ」

 私が離婚を決意してから一年、別居を始めてから半年が経った。その間に私は何度も話し合い夫に離婚して欲しい旨とその理由を説明してきたつもりだが、夫は未だに納得できずにいる。未練があるならあるなりの行動をすればいいものをそれもないまま、ただずるずると別居を続けていても仕方ないので、離婚パーティを提案したのだが。

「パーティって言ってもそれぞれの友人集めてドレスアップするわけじゃなくてさ。もっと気軽にお酒飲んで笑って二人の門出をお祝いしようよ」

 夫の目を見ても、その視線は私に返ってこない。聞きたくないことを聞かされているときの夫の癖だ。嫌なことと興味のないことには目を向けない(物理)。

「門出じゃないでしょ、祝い事でもないんだから」

「門出だよ。離婚してそれぞれ新しい人生を歩んでいくんだよ。わくわくするね?」

「しない」

「もう何度も話し合ったよね。私の意思は変わらない。私の望みは貴方が離婚届に印を押してくれることだって」

「気持ちの整理がつかないから押せない」

「いつまでもこの部屋に住んでるから気持ちの整理がつかないんじゃないの? 引っ越しするか実家に帰ってみたら?」

「仕事を辞められるタイミングじゃないとできないでしょ。この部屋の契約更新だってあるし」

「部屋の違約金なら私が払うよ。仕事だって辞めますって言ってひと月もすれば辞められるじゃん。違約金のことは気にしなくていいから印鑑押してくれない?」

 ため息をつく夫。

 ため息をつきたいのはこっちだ。一体何度こんな会話を繰り返すつもりなのか。印鑑押せないなら押せない理由を説明してくれと頼んでも、納得できない気持ちの整理がつかないの一点張り。では気持ちの整理をつけるために貴方の思うことをなんでも聞いてくれと問うても質問のひとつも来やしない。

 貴方のそういうところに私はもう限界なのです。わかりますか?

 会話のキャッチボールができているようで本質的なところがかみ合っていない。結婚してから5年間、ずっと。言葉の上辺だけの会話に、私はもう疲れた。

 持ち家もない、子どももいない、共有財産なんてものもない。私たち夫婦にあったのは付き合っていた頃にあった好きという気持ちだけだった。それが結婚して5年の間たくさんの上辺だけの会話の中ですり減ってすり減ってついにはすり切れてなくなってしまった。

 好きだった、はずなんだよなあと思う。

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