ボーカルトレーニング
やっとクリニックの外にでました。
夕方は急患がいなかったので、クリニックの終了時間である17時の定時で業務は終了した。紹介状の返事や診断書の記載も終えたため、電子カルテをシャットダウンして帰ることにした。
先に着替えた田島さんが、”子供のお迎えがあるので!”と走るように帰っていった。私はロッカールームでスクラブを脱いで私服に着替えて、髪を下ろした。眼鏡をコンタクトに変えて、マスクに水分を吸われた唇をワセリンで潤した。いつもよりもしっかりとアイメイクをすると、仕事からプライベートに気持ちが切り替わる。
コートを羽織ってクリニックを後にした。
クリニックのテナントの入ったビルのから出るころには、空はもうすっかり暗くなっていた。外の空気は、肌が引き締まるように寒かった。喉を傷めないようにマフラーをしっかりと巻き付けた。
今日は家に帰る前に、ボーカルトレーニングに車で向かう予定だった。クリニックのスタッフ用駐車場は少し離れたところにある。前回のボイトレでスマホに録音したデモ音源をイヤホンで確認しながら、歩いて移動する。まだ未編集の自分の歌を聴くのは、気恥ずかしくなかなか慣れないが、これからのボイトレに集中するためのトレーニングになると自分に言い聞かせる。
車に乗ってからは、イヤホンを外し、暖気運転中に発声練習にAmazing Graceを歌い、その後に車を発進させる。今日はまあまあ調子がよく、初めから声のかすれもなくスムーズに発声できた。スマホからデモ音源をBluetoothでカーステレオに飛ばし、車中で課題を聴きながらスクールへ向かう。
たいした渋滞もなく、車で15分ほどでスクール近くの駐車場に到着した。私が通っているボーカルトレーニングは、HONDAミュージックスクールの中にある教室の一つで、私の友人でありボーカルトレーナーの須藤先生のボイトレだった。
人気のボーカルトレーナーの須藤先生は年齢こそまだ35歳と若いが、業界では有名人で、プロとその卵しかトレーニングをひきうけない。誰でも受けられるわけではなく、彼女の目にかなったSingerしか教わることは出来ない。須藤のトレーニングを受けられただけで、業界内での評価が上がるとまでいわれている。
HONDAミュージックスクールに入ると、受付に軽く挨拶して、ボーカルトレーニング専用の3階奥の教室に向かう。
機材を運ぶため広めに作られたエレベーターの中はひんやりとしていた。
スクール内でトレーニングを受けているであろうアーティストのライブ告知のポスターが壁に貼ってある。エレベーターが3階に到着して、ドアが開いた。
正面にある部屋のドアを3回ノックして、ゆっくりとドアを開ける。
「須藤、お疲れ。」
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