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医師の感とエビデンス

新川先生はミネラルウォーターを飲んでいることが多いです。喉の保護のためです。

 カルテを書きながら、もう一度ミネラルウォーターを一口飲む。


「月曜日のカンファレンスで検討しようと思っているの、葉山医院長にも意見を聞いてみたいし。小早川先生にも相談しておこうと思う。」


 田島さんはそうですよね、とうなずき、隣のブースの小早川先生の診察介助にむかうため、手指消毒を行いながら立ち上がる。

「新川先生の感が正しいのは私たちもよく分かっています。林田さんの診断がはっきりするといいですね。」


 そう言ってから田島さんは隣のブースへ移動した。彼女は手を動かしつつ、話もできる、仕事がよくできるタイプだ。彼女の勤務日はたとえ難しい患者が受診したとしても、仕事がいつも以上にスムーズに進む。

もっとも当クリニックは、医院長が採用した出来る看護師がそろっている。



 ・・・医師の感、というと聞こえはいいが、感の根拠(エビデンス)をしっかり見つけて、証明することこそが、現代医学だ。感だけでは医学とは言えない。 目の前の患者(クライアント)|から病歴を確認し、診察し、そこから適切な検査を行い、余談なく検討して確定診断を行う。


 皆が同じものを見て、聞いている情報の中から確固たる証拠を拾い上げて、推理し、事件を解決する名探偵のように。


 その後は予約の患者さんを診療し、カルテや書類をまとめていると、16時過ぎに検査会社からメールで林田さんの迅速検査結果が送られてきた。ごく軽度の鉄欠乏性貧血以外は、肝機能や腎機能などにも異常はなかった。この程度の貧血で、息切れして歌えないとは考えにくい。しかし鉄剤を内服して貧血を改善した方がいいだろう。甲状腺などの特殊検査は来週にならないと結果がでないので、そこからまた検査計画を考えることになる。



 当院は東京の複合ビルの一角にあるSinger・Vocalistのためのクリニックである。保険診療による標準的な治療も行っているが、一般診療の枠に入らない、発声を含めた声の調節やセカンドオピニオンには一人30分以上時間をとり自由診療による診療を行っている。私は昨年まで大学に勤務していたが、耳鼻咽喉科専門医を取得後、今年4月からこのクリニックで勤務している。


 医院長の葉山先生はボイスドクターの中でも歌の指導に特化した、ボーカルドクターの草分け的な存在で、10年前当院を開業した。火曜日は出張(往診)で、ステージや舞台に診療に出向いている。頼りになる頼もしい医院長だ。


 副医院長の小早川先生は美しく優雅な女性医師で時々テレビのコメンテーターを務めることがある。臨床の診断と仕事の処理能力の高さを兼ね備えた優秀な医師だ。水曜日と木曜日は研究日で大学で、研究と学生教育を行っている。


 そして私の後輩で、週一回外勤(アルバイト)で月曜日に来るさわやかイケメン系の武藤先生の4人がメインのスタッフドクターである。 


 入院設備のないクリニックではあるが、専門性が高く歌手や芸能人も多いため、あえて目立たない複合ビルの5階のオフィスエリアと商業エリアの間に位置した部分に入り口がある。将来にわたってSinger・Vocalistに貢献するため、研究や学会発表も積極的に行っている。高度な医療を提供するため、症例のカンファレンスは月曜日に行い、皆で共有し、見落としのないように検討していく。


 さあ、来週のカンファレンスに備えて、林田さんの経過をまとめてProblem Listをまとめておこう。



ボイスドクターという言葉はありますが、ボーカルドクターは私の造語です。

読んでいただき、ありがとうございます。

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