須藤のお願い
金曜日の夜に、須藤行きつけのバーで待ち合わせた。このバーは、マスターが昔からの知り合いで、たまに私が弾き語りをする代わりに、アルコールを飲まない私を受け入れてくれている。
音楽関係の人間の隠れ家的な存在の店だった。
「ゆきのが元気になって良かった。KANAのおかげだよ。」
須藤はおいしそうにキールを飲む。私はレモンウォーターを飲んでいた。
マスターはグラスを拭きながら、須藤に見合った酒のつまみを用意してくれていた。
つまみをつまんでいる須藤の前に、林田さんからもらったチケットを置いた。
「今度の林田さんのライブ・・・林田さんの誕生祭は、東城くんの曲も入るんでしょ。」
「東城君から聴いた?。私がセットリスト決めているわけじゃないのよ。たまたまよ。」
須藤はお酒が入って、いつもより饒舌だった。艶っぽい。
私はレモンウォーターをかきまぜた。
「林田さんから聞いて、東城君に確認したわ。仕事の契約の話は普段は話さないから。」
「ふうん・・・。」
須藤は上機嫌に頷いて、
「それはそれとして・・・。KANAにお願いしたいことがあるんだけど・・。」
何?嫌な予感がする。
「ゆきのさんの誕生祭、バックコーラスとして参加できないかなあ。」
私は、グラスを持ったまま、ため息をついた。
「やっぱり、言われると思ってたわ。」
「でしょでしょ。せっかく、歌覚えたんだからでてもいいじゃん。MARINA先生からも手まわしてもらったから。林田さんも喜ぶと思うし。」
はしゃぐ須藤に、私は
「そのせいで、誰か下ろされたりしてない?。」
もともと歌う予定のSingerが下ろされてしまったとしたら、本末転倒だ。
「ないない、もともとは、誰も出ない予定だったし。KANAのためにバックコーラス枠作ってもらったの。」
須藤は私にいろんな条件を伝えてきた。
「出場は最後のころの1曲だけだし、ゆきのの誕生日サプライズにしたいから、リハーサルもでなくていいから、本番に来てくれれば。」
須藤には無理を言って、バックコーラスに入ったし、MARINAさんにも迷惑をかけたことは分かっていた。断るのは心苦しい。
「分かったわ、須藤にもMARINAさんにも義理があるし、林田さんの誕生祭だしね。」
「やったあ、KANAありがとう。」
「でも、リハーサルなしで本番に入るしかないの?。私暫くステージに出てないのに、いきなりぶっつけ本番は不安なんだけど。」
「だからこれから歌の練習ね。」
はしゃぐ須藤に、マスターはお祝いだといって、キールを差し出し、私にはレモンミントアイスティーを出してくれた。
「KANAさん、よければまたうちでも歌ってくださいね。」
マスターが低音で私にささやきかけてきたので、
「マスターにも義理返さないとね。」
私は微笑んだ。




