対応方法
牧野マネージャーはメンバーの喉の調子が良くなるように、果物や蜂蜜などを入れたデトックスウォーターを作っていた。ネットや本も購入して、熱心に勉強していた。
「いや・・・そんな、だって喉の調子が良くなるように作っていたのに。」
ああそうか・・・。もしかしたらマネージャーは喉の調子が良くなるように作っているデトックスウォーターを、飲んだ後に調子を崩す林田さんに、無意識に嫌悪感をもっていたのかもしれない。
「デトックスウォーターの中には何を入れていました?。」
私はマネージャーが責められていると思わないよう、細心の注意を払いながら話しかけた。
「・・・その日によって違いましたが。リンゴの皮やオレンジ、レモンやライム、ユズなど柑橘類を入れたり、季節によってはブドウやイチゴを使っていました。」
「その日によって、レシピは異なっていたんですね。いつ、どのレシピで作ったかわかりますか?。」
「・・・それは、わかりません。」
私はタブレットに「プラス plus」の事前に調べてまとめておいた、ブログや写真投稿アプリの画像を表示した。楽屋でとった写真にはデトックスウォーターがうつりこんでいるものもあった
「ネットの画像を拾ってみたのですが、ピントが合わなかったり、症状が出た日の画像はアップされていないので、どの成分が原因かは絞れませんでした。」
私が画像の一覧を見せたときにマネージャはその画像を凝視していた。準備された大量の写真はまるでストーカーのやり口に見えたかもしれない。
「どうしたらいいんですか?。薬はあるのですか?」
立ち上がって、やや興奮した様子で聞いてくる牧野マネージャーに私は落ち着いて、ゆっくりと答えた。
「果物を食べないようにすればいいんです。飲まないようにすれば大丈夫。」
「ああ・・・そうですね・・・。」
牧野マネージャーはへなへなと力なく座って、大きく息を吐いた。
林田さんがこちらを見て、
「アレルギーがひどくなったりはしないですか?。」
その質問に答えるため、オーラル・アラジー・シンドロームについての資料を見せながら説明する。
「一般的には口腔や唇がピリピリしたり、腫れたりする症状がメインです。その後、皮膚症状、咽頭部の浮腫、腹痛や下痢、悪化すると血圧が下がって、意識を失うことがあるアナフィラキシーショックを起こすことがあります。・・・念のため今日はアナフィラキシーになったときに対処するための治療薬、アドレナリン注射液自己注射キット製剤を処方しますね。」
アナフィラキシーショックについてパンフレットを使って、マネージャーと林田さんに説明した。二人とも半信半疑だったが、徐々に症状が悪化しているようだったので、ショックを起こしていないものの、アナフィラキシーになっている可能性は高いと判断しての説明だった。
アナフィラキシーを起こした時に有効なエピペンを処方し、田島さんに自己注射の指導をお願いした。役に立つときが来ないといいと思うが、緊急時に備えることに意義がある。
「日常生活においては、食事の時に生の果物の接種に注意してください。熱が通っていれば問題がないことがほとんどです。皮膚を通じてアレルギー物質を取り込むことがアレルギーを悪化させるので、化粧品の成分にも注意が必要です。」
林田さんは、はい!はい!と熱心に聞いていたが、マネージャーは心ここにあらずという感じで椅子に座っていた。
診察が終了し、二人は外に出た。
「すみません。いいですか。」
すぐにドアをノックしてマネージャーが入ってきた。
「はい、何か?」
牧野マネージャーは椅子に座らずに私に話しかけてきた
「自分が良かれと思ってやってきたことが、原因だったなんて・・・。」
私は椅子を回して、正面からマネージャーを見つめ、そして
「だから、林田さんが具合悪くなるとイライラしていたんですよね。」
「え?」
動揺するマネージャーに声を続けた。
「これだけ自分が気を配ているのに、体調が悪くなる林田さんにイライラしていたんですね。」
マネージャーは瞬きせず、目を大きく見開いて、それを私は黙って見つめていた。幾ばくかの沈黙の後に、
「・・・そうだったかもしれません。先生に気が付いていただいて、本当に良かったです。」
マネージャーは二回頭を下げてそれから部屋から退出した。




