楽屋で(須藤視点)
「私にもボーカルトレーニングを願いできないでしょうか?。」
さながそう私に言ったときに、ゆきのが気まずそうな顔をしたのが分かった。
さなは、ゆきのだけがボーカルトレーニングを受けているのはずるい、と思っているわけではない。もっと単純に、自分が教わりたいという気持ちがさなは強いのだ。ゆきのがどう思うかは、眼中にないのだろう。
個別練習で、さなには初回としてはかなりハードな指導をした。歌が上手いだけに、基本は分かっているし、センスもある。でも自己流なので今のままでは、どこかで喉を壊してしまう可能性がある。あと、耳コピが上手いので、自分の歌い方でなく、誰かの歌い方になっている。
今、どんな歌声が要求されているか。
グループでやっていくとしたら、ニーズにこたえられる歌を歌えれば重宝されるだろう。でも一人ででやっていくなら、もっと個性がないと難しい。
短時間でそれを伝えたからこそ、さなはもっと学びたいと思っているのだろう。
私自身は、歌手個人や事務所から、強引にトレーニングの依頼を頼み込まれることがあり、それを受け流すことはもう慣れている。
しかし今回は、自分から声をかけてリハーサルに参加していることもあり、受け流すのも不自然に思われるだろう。
「事務所と相談するけど、個別でのボーカルトレーニングを受けることは、難しいかもしれない。でもまた、リハかライブ本番前にくるつもりだから、その時またトレーニングしましょう。」
私は一人でもできる歌のトレーニング方法をメンバー全員に伝えることにした。
「いい?まず発声練習としては・・・。」
今日リハーサルを始めた時よりも、さらに皆が集中しているのを感じた。
メンバーの視線が私に集中したため、KANAは私から少し距離を取るように壁際に離れて、不自然にならないようにゆっくりと部屋の中を観察し始めた。
もともと部屋に入る前にKANAから、部屋の観察をするので時間稼ぎして。とは言われていた。
しかし、私が見渡す分には、女性アイドルグループのなんの変哲もない楽屋の光景だった。
KANAは何を見ているのだろう。
短くてすみません。
この後新川先生(KANA)の視点になります。




