歌う時の心得
お疲れ様です。
須藤は、私がステージで歌うことで、また昔のようにshow businessの世界に戻ってくることを期待しているのだ。
つい目立った歌い方をしてしまった自分は、ライブハイになっているのかもしれない。楽しくないと言ったら、嘘になるだろう。
ライブはKANA3001の存在する場所なのだから。
それでも、今の私は、医師としてSingerを裏方で支える仕事に誇りを持っている。ボーカルトレーナーをやっている須藤も同じだろう。
次は『go!go!PLUS』を歌うと須藤が号令をかけると、メンバーは自分の立ち位置へ移動する。
立ち位置の確認中に林田さんと視線が合ったとき、林田さんの目が大きく開いた。目線が私から動かないことから、私の存在に気が付いたことが分かった。牧野マネージャーもいて面倒なので、私の存在は出来れば秘密にしたい。林田さんには口の動きとジェスチャーで”内緒”と伝えた。
林田さんは、周りのメンバーに分からないようにゆっくりと大きく頷いた。
『go!go!PLUS』はクリニックで林田さんに歌ってもらった曲の一つだった。一度生歌を聴いていたので、イメージしやすかったので、バックコーラスは適切なバランスで合わせられたと思う。特別な違和感を感じずに曲が終わった。
その後、ギターとキーボードのチューニングと照明の調節のため休憩が入る。
ステージ上で、牧野マネージャーが水分補給用にペットボトルを配り始めた。
「ストップ、何、飲もうとしている?。」
須藤が牧野マネージャーの持ってきたスポーツドリンクを見て、声をかける。
「休憩の飲み物です。何か?。」
「うーん、ダンスするからスポーツ飲料は必要かもしれないけど・・・糖分が入っているから、歌いにくくなるし、虫歯にもなるし、水がいいよ。」
「水ですか?。」
じゃあ・・といって、牧野マネージャーはスポーツドリンクを片付けて、舞台裏からミネラルウォーターを持ってきた。牧野マネージャーは須藤に対しては高飛車な感じはまるで見せない、きっと須藤に怒られたことがあるのだろう、と思った。
ボーカルトレーナーとして、怒った須藤は怖い。
「水かあ、まあいいんだけど、常温だとおいしくないよね。」
リリアがぼそっというと、
「本当はね、歌うには常温の水が一番いいんだけどね。」
いつの間にか須藤はリリアに歩み寄っていた。自分の独り言を聞かれていたリリアはほんの少し後ろにさがった。
「歌うということは全身に気をくばらないとね。飲むものも味がないものにするとか、食事も歌う前2時間は食べないようにして、歌う前の喉のコンディションを一定に保つ。」
自分の首の部分に手をあてて、
「若いうちは、ある程度無理が効くけど、壊しやすくもある。だからこそ環境を整える。」
”そうでしょう、KANA。”
須藤はちらりと私を見て、心の中で話しかけたのが分かった。
「それによって、より歌が上手くなって、長く続けられるようになるのよ。」
須藤の視線はメンバーに向いていたが、私に向けてのメッセージだと気が付いた私は、誰にも分からない程度にゆっくりと頷いた。
私は声楽を習っていたので、歌う前2時間は飲み食いしないように言われてました。
カラオケボックスでも水分補給だけにしています。(今は行けないですが・・・。)




