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リハーサルに入り込め(須藤視点)

「ありがとう、須藤は業界に顔広いから、いつも頼りになるよ。」


「・・・まあ、元々は私がお願いしたことだから。」



 後でまた連絡すると言って、電話を切った。

 KANAは私のことを顔が広いというが、KANA3001だって当時の人脈を生かしていると思うのだが・・・。


 アイドルの練習にさりげなく参加するという、KANAの無茶ぶりに呆れていた。

 それと同時に、とてもワクワクしていた。


 理由はどうであれ、メインボーカルでなくても、ステージで歌うKANAをみることができるかもしれない。

 それは私にとって、言いようのない魅力的なことだった。KANAは今まで私がいろいろ持ちかけても、ステージにだけは立たなかったのに。


 ネット配信だって、3年間以上途絶えていたのを、1年以上かけて説得して、3か月から半年に一度は新曲かカバーをUPするようにした。でもステージへは上がってくれなかった。



 これはKANAをステージに上げるチャンスだ。一度そのスポットライトを浴びたものは、一度退いても、またその魅力に触れたら、抗えない。






 携帯の住所録を確認して、上原専務の連絡先を調べる。たしか、以前もらった名刺を、スキャンしていたはずだ。


 私は上原専務に電話をかけた。

 名刺はもらっていたが、こちらから連絡したことはないので、少し緊張した。


 電話に出なかったら、メールしよう。



「もしもし?」

 もう出ないかなと諦めかけた、20秒の呼び出し音の後で、上原さんは電話に出てくれた。場違いにワクワクした自分を悟られないように冷静に電話しないといけないと、できるだけいい声で話し始めた。


「お久しぶりです。昨年の夏フェスでお世話になった、ボーカルトレーナーの須藤です。」

「上原です。須藤さん久しぶりです、何かありましたか?。」



 2週間後のリハーサルに入れることになったのは、奇跡のタイミングだった。

 新曲の発売と、それに伴うリハーサルと歌の練習、そして、林田さんを指導していること。すべてか上手くはまっていた。



「須藤さん、すごくありがたい話だよ、できれば他のグループも見てくれると嬉しいけどね・・。それにしても、スケジュール詰まってるのに、どうしてうちに、それも『プラス plus』に声かけてくれたの?。」


 自分で言うのもなんだが、ボーカルトレーナーとしてはそれなりの知名度があり、教わりたいという歌手はたくさんいる。それなのに自ら『プラス plus』の指導がしたいといったことに、上原が疑問を抱いてもおかしくはないだろう。

 上原は、須藤に素朴な疑問をぶつけてきた。きっと理由を聞かれるだろうと、私はその際の答えをあらかじめ想定していた。


「ゆきのさんのボイストレーニングをしていて、グループ全体のバランスも一回見たいと思っていました。私に機会をもらえれば、もっと良くできますよ。」


 そういわれると悪い話には聞こえなかったのだろう。

 また、(自分で言うのも恥ずかしい話だが)須藤は天才肌で、自分でいいと思ったsingerには、正式契約がなくとも、その場で急に指導を始める、というきまぐれなところがある、というのは業界のうわさになっていたので、違和感はなかったようだ。上原は翌週の木曜日のリハーサルはどうかと提案してくれた。


 急なスケジュールではあったが、リハーサル日は木曜日だったので、須藤のレッスンの予約は夜間のみで、その予約も生徒のスケジュールの関係(地方でのライブ)で休みだった。そして東京ボーカルクリニックも休診日であり、新川の月2回ある当直バイトもない週だったのは幸いだった。





 そしてリハーサル当日。

 ステージ上で歌う『KANA』に誰より感動していたのは須藤自身であった。

自分を天才肌というのは・・・私には恥ずかしくて言えないですが、芸術家はこのくらい強くないとダメかも知れないですね。

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