私が思っているのは
林田さんは天性のアイドルという設定です。
1曲目が終了した。ガラス越しに外から見ていても、特別変わったことはなさそうだが、念のため確認した。
「林田さん、声や喉の調子はどうですか?」
「特に・・・何もないです。普通です。」
やはり、異常はなかったという。反対に林田さんからこちらに質問があった。
「私の歌い方、どうでしたか?」
1曲終わり、声がかれたり、息が乱れた感じはない。
普段のように、ダンスもしながら歌っていたが、息が上がっている感じもない。無理のない歌唱だったと思われる。
私は笑顔で林田さんに答えた。
「良かったと思います。」
私のその言葉を聞いて、林田さんも笑顔になった。アイドルスマイルではなく、彼女の心からの微笑みだと思う。
「じゃあ、次の曲流すから、また同じように歌って下さいね。」
激しいドラムロールとともに始まる元気なダンスミューッジック。彼女はきっちりダンスしながら、いつも通りに歌っている。インカムではなく、マイクに向かって歌っているので、時に声が入らない時もあったが、レコーディングをしているわけではなく、歌唱法を観察しているので、それは大きな問題ではない。
その後も、何曲か歌ってもらったが、それによって声がかすれることはなく、本人からも「喉がつまるような」訴えはなかった。医師として彼女の歌い方は、特に問題はない、歌唱方法が症状の原因とは考えにくかった。
「声帯に負担はかかっていないと思うから、歌い方にも問題はないですよ。」
私は軽く汗をかいた林田さんに常温のミネラルウォーターを渡した。林田さんはそれを飲みながら私の評価に安堵していた。
その後に呼吸機能検査を行うため、別室に移ってもらうことを説明し、野中さんが呼吸機能検査の機械のセッティングを行うため、ぱたぱたとスタジオから出ていった。
私と林田さんが、スタジオに残る形となった。
録画されたデータの確認を行っていつつ、スタジオ機材の電源を切って片づけをしていると、
「先生、私・・・・今日、実はずっと言おうかどうか、迷っていたことがあって・・・。」
林田さんが思いつめたように私を見ている。今日はずっと、何かを言いたそうにしていたことが気になっていた。やっとその何か、を伝えてくれようとしていると感じた。
「疑問な点や気が付いたことは、なんでも言ってください。」
こういったときはオープンクエスチョンで話を聴くのが医師の鉄則だ。
林田さんはとても思いつめた表情をしていて、何度も何度も躊躇するようにしていた。私は片づけの手を止めて、彼女が話してくれるまで、沈黙して待つ。
しかし、次の言葉は、私にとっては予想もしていないものだった。
「私・・・・もしかして、毒を入れられているのではないか?と思っていて・・・。」
・・・・毒?。
ここから物語が展開します。




