カンファレンスの後
働き方改革で、私の勤務先でもカンファレンスは早く終了するようにしています。しかし、検討することが沢山あると時間がかかりますね。
その日のカンファレンスは、検討する患者さんが多かったこともあり、20時過ぎまでかかった。カンファレンス終了後、葉山先生は医院長で書類のまとめをするといい、退室した。
私は、事務さんと看護師さんが帰った後、静まり返ったカンファレンスルームで片付けをしていた。
「新川先生、片付け手伝います。」
私は、机の上にあった薬剤説明会の資料をまとめて、資料ごとに分別していたところに武藤先生が手伝いに来てくれた。
「ありがとう。急患さん大丈夫?。」
「ええ。落ち着いたので帰りました」
武藤先生は資料をまとめてくれた。
「カルテ記載終わった?明日大学でしょ?。私は大丈夫だから帰っていいわよ。」
机の向きを元に戻しつつ振り返ると、資料を片付けていた武藤先生が、林田さんの資料を読んでいた。
「気になる点がある?。」
私の質問に武藤先生は資料から目をそらさずに、
「新川先生は、林田さんの症状、精神的なものを疑わないですか?。」
「精神的なもの・・・どうして?」
「うーん。喉がつまるって、よく心身症でもある症状ですよね。いろいろ調べても原因にたどりつかないというのも・・・・。」
資料を見ていた武藤先生は、ゆっくりわたしのほうを見た。私はカンファレンスで使った電子カルテをシャットダウンして、プロジェクターのリモコンの電源ボタンを2回押して電源を切る。プロジェクターの電源が切れると一瞬部屋が暗くなり、ダウンライトだけが点灯していた。
「芸能の仕事にストレスを感じているとか・・・。」
武藤先生は私がどう思っているのか確認するようだった。
「確かにに、『喉がつまる感じがする』という精神症状、よくあるよね。」
私が同意するように返答したため、武藤先生はでしょう?という顔をする。
「患者さんは・・・どんな精神状態の時に、声がでにくくなるかな?」
私からの逆質問に武藤先生は若干面食らったようになった。
「ストレスとか・・緊張とか・・・、歌いすぎもストレスですかね。」
武藤先生の答えに私は、
「いろんな原因で、ストレス性の発声障害はよく見ますよ。でも林田さんの場合は。」
そこで3秒ほど間をおいて、
「精神的とか、ストレスと言われて、器質的な疾患をしっかり鑑別されていないことが問題なのよ。」
武藤先生は暗くなったカンファレンスルームのドアを開けた。
「しっかり話を聴いて、診察して鑑別診断をあげて、検証するということですね。」
「何より、あのまっすぐなアイドルオーラには闇がないよ。」
それを聞いた武藤先生は吹き出すように笑い、
「新川先生の感ですか?」
そしてさりげなく私の耳元でささやいた。
「先生が、歌手だった時の実感ですか?」
私はゆっくり距離をとりながら、
「武藤先生も、読者モデルやってた時、ストレスあった?」
聞いた私に、武藤先生は、
「僕は・・・そんなにやってなかったですよ。新川先生の足元にも及びません。」
苦笑したように首を竦めた。
武藤先生は大学時代、イケメンの男子がいると、上級生の中でも話題になった。『笑顔のさわやかな医大生』として、雑誌のモデルをやっていた。モテるが女遊びするわけでもなく、バスケ部の主将で、学園内でも人気があった。
武藤先生と私はカンファレンスルームから出て、ドアを閉めた。
「僕にとっては、新川先生はあこがれの先輩で、顔を隠した美人歌手、KANA3001ですから。」
私は空虚に笑うしかなかった。
「まあ、大学の後輩だから、私の学生時代の素顔を知っているとは思うけど・・・、元読モのイケメンがそれを言う?。」
「僕はずっと憧れてますよ、新川先生に。・・・今度、飲みに行きませんか?。」
武藤先生は、イケメンだし、いい後輩だとは思うが、残念ながら付き合う対象ではない。
「・・・機会があったらね。」
武藤先生は笑って、お疲れ様です!といって帰っていった。
その軽い感じが武藤先生のいいところだ、と思いながら、私もクリニックを後にした。
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