須藤先生の生徒
ちょっと短めです。
「時間ね、今日はここまで。」
時計はすでに、20時を過ぎていた。
「ありがとうございました。時間超過しちゃったけど・・・。」
須藤は大丈夫と手をひらひらさせて、予定の管理をしているタブレットを持ってきて、部屋の奥にある椅子に座った。
私はカバンからミネラルウォーターを取り出して、一口飲む。
次回の予定を確認している時に、私は今日一番初めに、須藤と話さなければいけなかったことを思い出した。
「林田さんに私のこと、どこまで話したの?」
須藤はピアノの横の椅子に座りペットボトルの紅茶を飲んでいたが、驚いたようにはっとして、取り繕うように、
「林田さん、何か言っていた?」
「・・・私が、須藤先生からボーカルトレーニングを受けていることを知っていたわ。」
しばらく沈黙があった。
「もう、病院に受診するの嫌だっていってたから、KANA・・・新川先生は私の生徒だから信頼できるよって伝えたの。」
今度は私が沈黙した。
「もちろん、新川先生が歌手だとは、言わなかったけど。」
「・・・須藤先生に教わっていると言うことは、」
私がつぶやくように言うと、
「私が教えているのはプロか、セミプロだけだからね。・・・新川先生がKANA3001とは言っていないよ。話の流れで・・・。」
須藤は詫びるわけではないが、いつもより口数多く話していた。私はミネラルウォーターを飲んだ。そして、遠くを見るように、
「まあ、10代の子はKANA3001を知らないし、活動していたのは、何年も前だから。」
という私のその言葉に、須藤は首を振って
「今は動画で見れるから、若い子もみているよ。」
私はそういうこともあるかもね、とうなずきながら、ペットボトルのキャップをしめて、カバンに閉まった。コートを羽織って、マフラーを肩にかける。そして。
「林田さんは、なにかあると思うよ。しっかり診ておくから。原因は私が見つけるわ。」
須藤の目を見ながら伝えると、須藤はわかっているわ、と軽く微笑む。
次回の課題を確認し、部屋を後にした。
ビルの外は寒かったが、歌った後は体が暖かい。代謝が上がっているのだろう。
今日は充実して歌うことができたことに満足しつつ、私は帰りを急いだ。
KANA3001は、ネット上にはフォロワーは多数いるのです。