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積木君は詰んでいる  作者: とある農村の村人
2章 休日での出会い
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☆9話 生徒会長とギャルの修羅場

※2021/11/1 文末に星と千佳[モノクロ・セリフあり]イラストを追加しました! 

※セリフなし・カラー版は『みんみん』の方で上げてます!

※苦手な方はスルーでお願いします!

 隣町行きの車両に乗車したはいいけど、呉橋さんの距離間がどうもおかしかった。


「呉橋さん……近くないですか?」

「全然。普通だよ普通」


 そう言いながらも座り直し、更に近付いてくる。

 空席も沢山あるのに、なんでこうも端の席に座って密接なんだろう。

 距離間をこれ以上詰められたら、左半身にしか意識が向かなくなってしまうよ。


「ねぇ洋君」

「あ、はい」

「いつ頃から、ぼっち町ブラしてる訳?」

「えーっと、中学に入ってからですね」


 中学の時、帰宅部で趣味もゲームぐらいしかない、少し味気ない生活を送っていた。

 他に何かあればいいなって、軽い気持ちで趣味探しをしに、外出を頻繁にするようになったんだ。

 その趣味探しがいつの間にか町ブラに変わって、今に至る訳だ。


「へぇー生粋のプロぼっちじゃん」

「ちゅ、中学はちゃんと友達いましたから」

「じゃあ、何で友達を誘わないのさ」

「む、無理に付き合わすのも、あれだったんで」

「ふーん……自分からぼっち沼にハマったんだ」


 沼は言い過ぎな気もするけど、確かに町ブラを始めてから1人の時間は多くなった。

 それでも友人関係を続けてくれた中学の友達には、感謝の言葉しかない。

 今度久し振りに連絡するのもいいかも。


「そもそもさー洋君が誘ってくれれば、私が付き合うのに」

「い、いやいや。今年受験ですよね?」

「だからこそじゃん。町ブラなんて息抜きにはピッタリじゃん」


 町ブラはリフレッシュに最適なのは保証できる。

 でも、わざわざ僕と一緒でなくとも、気ままに1人でもいいし、別の誰かでもいい筈。

 今日の町ブラ次第で判断するのがいいと思う。


「それにさ、お互い連絡先知ってるのにさ? 私ばかり連絡とってさー……一方通行じゃん」

「な、何を連絡すればいいのか分からないので……」

「難しく考えすぎ。洋君のことなら何でも来いだから」


 聞き役に徹するって意味合いだろうか。

 相手に会話の主導権を握って貰えるよう、そっと支えるのが聞き役の役目。

 普段から聞き役に徹するのを心掛けているから、いざ逆の立場になるとなれば絶対に戸惑う。


「あれ? 1年生君?」

「え? あ」


 知人で1年生君と呼ぶ女性は、あの人しかいない。

 ホットパンツとタンクトップの物凄いラフな姿、吊り革ギャルこと千佳さんだ。

 昨日出会ったばかりの顔見知りだけど、優しい人だと分かったから今はそこまで緊張せずにいられる。

 それでも、目の前でその恰好は刺激が強過ぎて、自然と顔が赤くなる。


「ん? 1年生君のお姉さん?」


 呉橋さんは姉さんと雰囲気が近いし、密接の距離間もあるから間違われても無理はない。

 ただ、姉だと誤解された事に嫌な思いをされてるかもしれない。

 誤解が広がる前に、しっかりと事実を伝えないと。


「い、いえ。この人は……」

「年上の友達です」


 友達と言われて嬉しいのだけど、妙に年上を強調してた気が。

 どことなく見つめ合っている2人の空気間が、ピリピリし始めていた。


「……西女(せいじょ)の2年、白石(しらいし)千佳です」

「北高の3年生徒会長、呉橋星よ」


 お互いの第一印象を外見で確認し合ってたから、じーっと見つめ合ってたのか。

 性格も格好も真逆な2人だから、相性的には少しマズい気もする。


「白石さん……でしたっけ? 洋君とはどんな関係で?」

「通学の時に車両内で、たまたま知り合っただけです」

「へぇーまぁ、そんなもんか」


 随分と余裕そうな声で、ご満悦な顔で僕に肩を組んできた。

 より一層空気がピリつき、千佳さんの細い眉毛がピクついてる。


「……まぁ、連絡先は知ってますけどね」


 余裕のあった空気が一変、呉橋さんのご満悦な顔が止まった。

 それでも組んでいる手は離さないみたい。


「へ、へぇ……私もプライベートで洋君と連絡してるし」


 グイっと抱え寄せられて、とってもけしからん感触が左半身に広がって行く。

 落ち着くんだ、動揺してはならない。

 これはただの仲良しアピールを装っている風であって、呉橋さん本人はどうとも思ってない筈だ。


「……あ、大事な事を言い忘れてました」

「大事な事? 何?」

「1年生君の顔を、私の胸で優しく埋めてあげた事があります」

「ふっ?!」


 事実ではあるけど、語弊のある言い方はちょっと止めて下さい。

 決して笑顔を崩さない呉橋さんだけど、自分の太ももを抓って穏やかじゃなくなっている。

 空気も肌身に伝わるぐらいにビリビリし、近接距離にいる僕から言わせれば怖くてしょうがない。


「へ、へぇー……本当に仲良しさんだー私も洋君の腕に抱き着いたり、振り向き指ツンツンする仲だし」

「まるで恋人ですね。ただ私も不躾ながら飴玉を食べさせてあげました。二度も」

「や、優しいじゃん。けどまぁーぼっちな洋君と楽しく、お昼をいつも一緒に食べてる私が、ここにいますけどね」


 空気が完全に凍り付き、僕は冷や汗を流すしかなかった。

 逃げ出そうにも肩を組まれて密着され、目の前には刺激の強い千佳さんがいる。

 何がどうなってこんな風になってしまったんだ。


 そもそも2人の会話ワードに毎度、僕が入ってるのは何でなんだ。


 両者の間に沈黙が生まれ数秒経過、緊張感が張り詰める中で、先に口開いたのは千佳さんだった。


「1年生君」

「は、はい」

「私のこと、どう思ってる?」


 しっかり者なイメージがあって、2つの意味で包容力のある人かな。

 素直にありのままを伝えるのはアレだし、的確且つデフォルメした言葉で伝えるなら、これしかない。


「や、優しいお姉さん……ですかね」


 反応は嬉しそうにニマニマ顔、どうやら正解みたいだ。

 流れ的にきっと、呉橋さんからも印象がどうとかこうとか聞かれる筈だ。

 

 チラッと横目で様子を窺ってみたら、カッと大きな目を見開き見つめていた。

 答え次第ではあんなことやこんなことをする、視線の意味合いはそれだ。


 とりあえず無難で安全な言葉をチョイスし、2人に落ち着いて貰わないと。


「洋君」

「は、はい」

「私って、頼れる心優しい先輩で(くく)られないでしょ?」


 無難で安全な言葉が見事なまでに撃沈。

 捻り出す呉橋さん関連のボキャブラリーは、モテない、口撃、美人ぐらい。

 どう組み合わせても悪いようにしかならない。


 何か別のワードがないか、死に物狂いで脳内検索した結果、どうにかそれっぽいモノが組み合わさった。

 この言葉の組み合わせを伝え、空気を元に戻そう。


「た、確かにそれでは括れないです。もっと相応しいのがあります」

「言って」

「く、呉橋さんは後輩思いで皆から慕われる、僕も大好きな人だと思ってます!」


 これが最大限の贈る言葉、直球の言葉を乱投されても後悔はない。

 自然と閉じていた眼をゆっくり開き、呉橋さんの反応を窺った。


「へ、へぇーソウナンダーう、ウレシイーアハハー」


 口調が完全にロボット化、顔もかなり赤面。

  

 後輩思いなのはしっかり実感済み、慕われ度合いなら生徒会の皆さんで知っている。

 人としては大好きだから、呉橋さんがこんな反応をするなんて予想外だ。


「あのー……呉橋さん? もしかして癇に障っちゃいました?」

「べ、ベツニーアリガトウー」


 原因が分からない以上、首は突っ込まず自然に治まるまで待つしかない。


 それよりも、さっきから念仏みたいなのが耳に入って、背筋がぞわぞわするんだ。

 念仏の方へ視線を向けると、眼の光が消えた千佳さんがブツブツ何か呟いていた。

 さっきまでのニマニマ笑顔とは正反対だ。

 

 一体何があってこうなったのか皆目見当もつかないでいると、目的の降車駅のお知らせアナウンスが耳に入る。

 このまま2人を放って置けないし、早く正気に戻って貰わないと。


「く、呉橋さん! そろそろ降りる時間です! しっかりして下さい!」

「は。私は何を?」


 我に返って安心早々に、千佳さんの変容に気付いた呉橋さんは、急に真剣な顔に。

 組んでいた手がスルりと離れたと思えば、向き合う様に両肩を掴み掛かられた。

 息が触れるぐらいに顔も近くて、思わず息を呑んでしまう。


「洋君ごめん。私、白石さんとお話ししないとなんだわ」

「あ、え?」

「私の分まで町ブラ、楽しんできて」


 状況を理解できないまま送り出され、2人は車両に残ったまま、進路先へと去って行った。


 何が何やらさっぱりなまま、しばらくホームで立ち尽くすしかなかった。

挿絵(By みてみん)

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