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積木君は詰んでいる  作者: とある農村の村人
8章 癖アリ女子らのお願い
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51話 臨海学校の話、生徒会長と同一人物、馴染めない一年女子

 自己紹介を終え、本題である合同臨海学校の話に入り、資料を斑田さんから手渡して貰った。


「ざっとだが、大まかな当日の流れを説明する」

「OKOK~」


 資料通りだと、某所の海沿いにある宿泊施設に、西女1年生は120名、北高1年生は200名が参加予定。

 2泊3日であらゆる特別活動で交流を深め、普段体験できない事も学ぶ高校行事だと書かれている。


 主な内容としては、海水浴に始まり、近場の人気水族館や博物館での社会科見学。

 ガラス細工や陶芸などの伝統工芸制作の体験、合同カレー作り、肝試しエトセトラ。


 とにかく楽しみ尽くしのラインナップに、今からワクワクが止まらない。


「と、例年通りの中身だが、北高からは何かあるか?」

「まぁ、要望があるね。1年生のアンケ取ったから見てくれたまえ」


 呉橋会長がカバンの中身を雑に漁り、軽くくしゃくしゃになったアンケート結果を水無月さん達に渡していた。


「ふむ。班決め自由化や、自由時間と消灯時間の延長などなど……お泊り行事ならではのお楽しみ要望が多いな。西女は賛成するが北高はどうだ?」

「いいんじゃない? そもそも勝手に班を決めたらさ、色々と可哀想じゃん?」


 確かにくじ引きやらで勝手に決められた班だと、気まずい班になる可能性はある。

 そこら辺の配慮をしてくれる呉橋会長と水無月さんに、感謝しないとだ。

 

「では、北高も賛成か」

「んだ。けど、班決めの際にさ? 男子生徒は一括りにさせられちゃうと思うんだ」


 男女比率のある北高なら、きっとそうなるだろうと思った。

 未だに同じクラスの男子とろくに話せていない状態だから、もし一括りの班になったら気まずくなりそうだ。


「そういえば、私達の時もそうだったな……」

「でしょ?」

「あぁ。せっかくの大事な交流が妨げになってしまう括りは好ましくないな」


 水無月さんの威厳ある言葉に、本能的に嫌な予感がした矢先。

 黒木場さんが気怠そうに手を上げ、ポッヒーを咥えつつ言った。


「だったらよー北高は女の班に男が1人ずつ、入ればよくねー?」

「お、ナイス明日久ちゃーん♪ それ採用」


 つまり男子生徒は詰み場へ強制的に放り込まれ、臨海学校の2泊3日を共にするらしい。

 どこへ行っても詰みからは逃げられない運命なのだと、今すぐにでも気を失いそうになった。


「ただ実際に臨海学校に行くのは1年生だ」

「だね。1年生の夏洋ちゃんと蛍ちゃんがいるから聞いてみようか」

「では、まずは蛍から頼む」

「は、はい! わ、私は皆さんが楽しんで貰えればいいので賛成します!」


 ここで1人、首を横に振るのはあり得ない話だ。

 僕は覚悟を決め、静かに首を一度だけ縦に振って賛成の意を示した。


♢♢♢♢


 男子強制詰み場の採用後、次なる話として自由時間や消灯時間の延長の件になった。

 早々に意見を述べたのは、綺麗に手を上げる鵜乃浦さんだった。


「わたくしは延長に反対します。適切な休養を取らなければ、確実に後日へと響きます」


 まともな主張に対し、再び黒木場さんが口開いた。


「澪さー去年の臨海学校の時、誰よりもはしゃいで臨海学校終わった直後に丸一日子供みたいに寝ちまったよなー」

「……それは言わない約束ですよ、明日(あす)っぺ」

「知らねーとりま、あーしは延長に賛成ー」


 あの大和撫子風な鵜乃浦さんが去年の臨海学校ではしゃいでいた事実に、思わず笑いそうになった。

 だが、当の本人は両頬を膨らませ、顔を真っ赤にして黒木場さんを睨んでいた。

 さっきまでの涼し気な空気はどこへやら、それぐらいに可愛らしい一面だった。


 すっかり空気は解れ、延長の話もすんなりと採用され、その後も臨海学校の話は順調に進んだ。


「ふむ、話は以上になるな。皆、お疲れ様」

「おつおつ~」

「星、夏洋君。今日はご足労をかけたな」

「もうー堅苦しいなー私と宵絵ちゅわぁんの仲でしょ~?」


 水無月さんに抱き着いて、頬っぺたをツンツンと弄る呉橋会長。

 満更でも無いのか微笑みながら拒む事はなく、弄られっぱなしだった。


 眼福な光景だろうと思い、密かに来亥さんへと会長同士の光景を伝えさせて貰った。

 数秒も経たずに返事が来て、チラッと見てみた。


《最強のカップリングだね♪ 伝えてくれてありがとうね♪ 今日の事はもう気にしないでね♪ 六華♪》


 とりあえず先日の宮内道場での一件は許されたみたいだ。

 逸早く来亥さんのキャッキャウフフな百合情景収集が終わらないかと、心から願った。


♢♢♢♢


 用事も済み帰り支度を済まそうとしてたら、呉橋会長が水無月さんの大机で何かを発見していた。


「おりょ? カバンにラバストかい」

「あぁ、これか? サバイバルブラザーズのメインキャラだ」

「へぇー確か人気ゲームだっけ?」

「そうだ。昔から好きでな、最新シリーズまでやらせて貰ってる」


 水無月さんがサバブラをプレイしてるなんて、ギャップがあっていいなと思った。

 とりあえず帰りの支度を済ませながら聞く耳を立ててみよう。


 どうやらかなりのサバブラ通なのか、かなり熱量でペラペラと語り、呉橋会長は相槌マシーンになっていた。


「それでだ。仲の良いフレンドの中で尊敬して止まないフレンドがいてな……この前のオフ会で本当は会える筈だったんだ」

「筈? どうしちゃったのよ」


 水無月さんがオフ会に前向きなのが意外だったけど、当日に何かあったのだろうか。


「会えるのが楽しみ過ぎて気を紛らわすのに、連日徹夜でサバブラをプレイしていたんだ」

「ほぅ、そんで?」

「当日に寝坊してしまい……オフ会へ行けなかったんだ……」

「あちゃーま、ドンマイ、ドンマイ」


 かなり落胆してしまった水無月さんを抱きかかえて撫で慰める呉橋会長。

 色々と聞く耳を立てていたが、話を聞いている内に額から汗がたらりと流れていた。


 冷静になる為、一度まず状況整理してみることにした。

 僕のゲームフレンドに宵絵というプレイヤー名の方がいる。

 そんな宵絵は以前、サバブラのオフ会に寝坊して結局姿を見せなかった。


 これらの情報と水無月さんの話がドンピシャに重なったが、まだ同一人物かの確信は得られていない。

 何故ならプレイヤーの宵絵はいつも、甘々言葉を使っているからだ。


 だから水無月さんとフレンドの宵絵が同一人物とは考え難いと、そう信じて止まない。


「で、宵絵がそこまで尊敬する方はどんなお方な訳?」

「一言で言うなら頼れる方だ。私はレイブン様と呼んでいる」

「んっ?!」

「ど、どうしました夏洋さん?! あわわわ! お、お水持ってきますね!」


 声を出しそうになったけど、両手で口を塞いだお陰で、一文字ぐらいで止める事が出来た。

 だが、そんな事はいいとして、水無月さんの発言で全てが確信してしまったんだ。


 水無月さんがサバブラのフレンドである、宵絵と同一人物なのだと。


「お、お水持ってきました! ど、どうぞ!」


 斑田さんからミネラルウォーターを受け取り、カラカラになった喉を潤させて貰った。

 頭を下げて感謝したはいいけど、何故かそのまま隣に座って来た斑田さん。

 ソファーが軽く斑田さんの方へ沈み、僕も若干傾いた。


「あ、あの夏洋さん。よ、良かったらなんですけど……れれれ連絡先交換してくれませんか!」


 両手で持ったスマホを僕へと差し向け、プルプルと震えながら頭を下げていた。

 この状況がとてもまずいことなのは分かり切っている。

 だって連絡先を交換すれば確実に本名がバレるからだ。

 断るのは申し訳ないけど、どうにか身振り手振りで伝えてみると斑田さんはとても悲しそうな顔に。


「だ、ダメですか? シューン……」


 今にも泣き出しそうな姿に思わず慌てふためいた僕は、ハッと思い付いた。

 スマホのメモ機能を使って伝えればいいのだと。


 すぐさま文字を入力し、斑田さんの画面を見せた。


《すみません斑田さん。気持ちは大変に嬉しいんですけど、別の機会では駄目でしょうか?》

「……連絡先交換がダメではないんですね?」

《はい》

「よ、良かったです。てっきり、こんなデカ女だから嫌われていると思ってました!」


 パァーと百点満点の笑顔に心が痛い中、斑田さんは言葉を続けた。


「あ、あのですね? わ、私、高校から1人でこっちへ引っ越してきたので、まだ環境にも同じクラスの人とも馴染めていないんです……」

《そうなんですね》

「はい……で、でも、夏洋さんとなら仲良くなれそうと思って、声を掛けさせて貰ったんです」


 きっと僕の詰み体質と女装によって、斑田さんにとって話しやすい雰囲気だったのかもしれない。

 何だか申し訳ない気持ちで一杯だけど、伝えたいことを文字に起こそうとした時、呉橋会長に声を掛けられ手が止まってしまった。


「おーい夏洋ちゃーん。お暇するよー」


 扉前で待ち侘びている呉橋会長に早く来いと手招かれ、急いで斑田さんに伝えたい事を文字に起こした。


《斑田さん。今度会う時、きっと貴方を驚かせてしまう筈です》

「ふぇ? そうなんですか?」

《はい。その判断次第で連絡先交換するかどうかを決めて下さい》

「よ、よく分かりませんけど、私は夏洋さんと連絡先交換したいです!」


 純粋でまっすぐな綺麗な瞳に、女装姿を今すぐにでもバラして土下座の一つや二つをしたかった。

 それ程までに罪悪感が凄まじい中、僕と呉橋会長は西女の生徒会室を出た。

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