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積木君は詰んでいる  作者: とある農村の村人
7章 昔馴染みのお姉さんと再会
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☆41話 昔馴染みの現役女子大生

※2022/3/3文末に宮内宇津音のイラストを追加しました!

※イラストが苦手な方はスルーで!

 休日に入り、趣味で楽しみの一つである町ブラへと向かおうと、僕は気分良く最寄り駅へと歩いていた。

 そんな道中、偶然宮内のお婆さんと会い、軽く立ち話する事になった。


「洋坊や、1人でお出掛けかい?」

「はい。少し遠くの町までブラブラするだけですけどね」

 

 普通ならもっと休日を有意義な時間に使った方がいいと、思われるに違いない。

 ただ、それでも町ブラにしかない楽しみ方があるから、有意義な時間をどう捉えるかは結局はその人次第だ。


「カッカッカ。何もしないよりマシさ」

「ですね。宮内のお婆さんの予定は?」

「そうだね……見て貰った方が早いか。ちょっと待ってなさい」


 話の意図が分からないまま、宮内のお婆さんが手提げバッグを漁り、一枚の紙を手渡してくれた。

 達筆な字で宮内道場体験会と書かれ、開催日が今日の午前10時と既に30分を切っていた。


「じ、時間大丈夫なんですか? 準備とか色々ありそうですけど……」

「平気さ。けど、肝心の男手が足りなくてね……」


 だからこうして宮内のお婆さんが直々に、男手をスカウトしに来ているのか。

 僕が一人で納得している中、宮内のお婆さんの眼鏡がキラリと光り、目にも止まらない速さでガっと手を掴まれていた。


「洋坊や。バイト代出すから今から来れないかい?」

「え、えっと……つまり助っ人ってことですか? 僕にできますか?」

「体験者のサポートに回ってくれるだけで十分さ。どうだい?」


 宮内のお婆さんにはタイムセールの時でいつもお世話になっている。

 それ以外にも昔から可愛がってくれて恩は返しきれないぐらいだ。

 今回は本当に困っていそうだし、町ブラは何時でも出来るものだから行かせて貰おう。


「僕なんかで良かったら力になります。あと、バイト代は結構ですから」

「何言ってんだい。働いた者にはちゃんと働いた対価を払うものだよ。素直に受け取りなさい」

「は、はい」


 得意気にかっこつけた感じだったから、かなり恥ずかしくなって火照ってるのが実感できた。



 宮内のお婆さんと一緒に世間話をしながら道場へと向かい、数分後には到着した。

 いつ見ても日本風情ある道場だと、軽く開いた口が塞がらなくなる。


「どうしたんだい、早く入りなさい」

「あ、はい」


 手入れされた大きな庭を横切り、広々とした玄関で靴を脱ぎ、裏方の方へと案内される。

 大きな建物内はどこも新鮮に感じ、ある意味町ブラに近い感覚でワクワクしてる自分がいた。


 そんな僕が浮かれている中、宮内のお婆さんが大きく息を吸い、大きな声を放った。


宇津音(うずね)! 男手連れてきたから道着を用意しなさい!」

「は、ハーイ!」


 急な大声に体が硬直してしまい、さっきまでの気分から現実へと引き戻された。

 遠くで返事が聞こえ、何やら慌ただしい足音が同時に聞こえていた。


「相変わらず返事だけは一丁前だね……」

「で、ですね。宇津姉(うずねえ)って、こっちに帰って来てたんですね」

「あぁ。単位取り終わってダラダラ過ごしてるだけさ。就職もこっちでするとか言って、実家で悠々自適に暮らしたい魂胆さ」


 宇津姉こと宮内宇津音は、宮内のお婆さんのお孫さんで現役女子大生だ。

 よく町内会で子供達の世話を焼くお姉さんとして、僕や姉さん、空もお世話になった。

 最近は都内の大学に行ってたから、あまり姿を見掛けずにいた。


 だから、久し振りに会えるのかと思うと少しワクワクしている自分がいる。


「賑やかでいいじゃないですか」

「何事にも限度はあるのさ、分ったかい洋坊や」

「はい。相変わらず仲が良いなって思いました」

「カッカッカ! やっぱり洋坊やには分ってしまうか」


 嬉しそうに笑う宮内のお婆さんは、宇津姉の事をあんな風に言ってたけど、毎日笑顔が絶えないのだろうと容易にその姿が想像できてしまう。




 控室的な場所へと案内され、道着が来るまで自由にして大丈夫だと、宮内のお婆さんがそう言い残して出てった。

 自由にしていいとは言いつつも、特にすることもないからスマホで時間を潰す事にした。

 数分後ぐらい、あの慌ただしい足音が控室へ近付き、徐々にゆっくりとなっていく足音が襖前で止まった。

 声の調子を整えてるのか、咳払いをしてからノックし、襖をスライドしてきた。


「失礼しまーす。道着お持ち……」

「あ、宇津姉」

「洋ー! お久じゃん! 元気してた? 少しは背伸びたんじゃない? 何でいるの? あ、男手って洋の事? そうなんだ! 今日はよろしくね! あ、道着のサイズ合うかどうか分からないから、他のも持ってくるから! とりあえず一回着てみて! 大丈夫そうだったらそのままでよろしく!」


 言葉の一方的なラッシュを受けつつ、何も言い返せなかった。

 ドタバタと走って行った宇津姉は相変わらず忙しなく、ずっと変わらないなと思いながらなんだか安心した。

 現役女子大生ってのもあるからか雰囲気は大人っぽく見えて、茶髪のミディアムヘアも様になっていた。


 懐かしい気持ちに浸りながら、持って来て貰った道着に袖を通し、サイズが合うかを確認してみた。

 道着を着る機会なんて、昔にここの道場で着た以来かもしれない。

 サイズは若干大きめに感じるけど動く分には支障が出ないと思い、これで大丈夫だと自己判断した。


 それにしても見栄え的には違和感がないけど、どうにも頼りない姿に自分で肩を落としてしまう。

 そんな中、外からドタバタな足音が接近し、今度はノック無しに襖をスライドする宇津姉が来た。


「お待たせー! おぉー! 似合ってるじゃん! サイズどうだった? 見た感じはいいね! あ、これ一つ上のサイズと、二つ上のサイズなんだけど、着てみなくても大丈夫そうだね! 道場でお祖母ちゃん待ってるから、行ってあげてね!」


 一言も答える暇もなく、宇津姉が持って来た道着を抱えて足早に去って行った。

 ともあれ今着ている道着しかない為、これで行くしかない。


 しけた面を引き締めるのに、かなり強めに顔を叩き、体験会の会場である道場へと向かった。





 道場のある襖の向こうから、ざわざわと結構な人の話し声が聞こえ、一気に緊張感が増している。

 人という字を出来るだけ手のひらに書き、何度も飲み込んでから襖の先へと足を踏み入れた。

 が、思いもよらぬ光景に、僕はすぐさま宮内のお婆さんの傍へ移動し、小声で声を掛けさせて貰った。


「……あの、宮内のお婆さん」

「ん? なんだい」

「た、体験者の皆さんが全員女性なんですけど……」

「そりゃ、今日は女性に的を絞った体験会だからね」


 改めてチラシを確認すると、普通に達筆でそのような事が書かれていた。

 事前に詰んでしまう情報があったのに見過ごしてしまった、これをミス詰みと呼んでいる。


 完全に僕自身のミスであるのと同時に、目の前の現実を受け止めたくなくて逃げ腰になってしまっていた。

 体験内容は逐一リアルタイムで決めるとの事で、その都度僕は体験者のサポートに回る必要がある。

 ただサポートする度に体験者に接触してしまう可能性が非常に濃厚であり、細心の注意も必要だ。


「若干定員オーバだけど早速始めるよ。洋坊やも、しっかり頼むよ」

「は、はい」


 主催者である宮内のお婆さんからプレッシャーを掛けられる程、僕の立場は責任重大だ。

 で、いつの間にか道着に着替え終えていた宇津姉が、肩で息をしながら僕の隣に立っていた。

 サポートが1人でなくて良かったと心の底からホッとできた。


「宇津音も来たね。さぁ! 今回は体力作りも兼ねて、アンタらには護身術を学んで貰うよ!」


 元気のいい女性たちの声が道場を包み込み、改めて自分がアウェーなのが身に染みた。

 それぞれが間隔を開けて動きの邪魔にならない範囲を確保し、いよいよ体験会が本格的にスタートした。


「まずは動的ストレッチにもなるラジオ体操で体を温めるよ。宇津音、音楽」

「はいはーい!」


 スピーカーと繋いだスマホをつらつらと宇津姉が操作し、お馴染みの音楽が流れ出した。


「洋坊や、宇津音。早速サポートの時間だよ」

「えーっと、見本役ですか?」

「ノンノンノン! 違うよ洋! 皆さんが手を抜かないよう見回るんだよ! あとは正しいフォームの手解きをしたりだね! 早速行ってみよう!」


 道場の右半分にいる人達を宇津姉が勝手に担当し始めたので、消去法で僕は左半分を見回る事になった。

 改めて体験会の女性達を見ると、幅広い年齢層が参加していることが分かった。

 中でも10代から30代が大多数を占め、僕の緊張感が高まっていた。


 それでもサポート役はちゃんとこなせるよう動くつもりだ。

 約2時間の間、僕なりに頑張って動いて宮内のお婆さんに恩返しだ。


挿絵(By みてみん)

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