☆3話 生徒会役員オンリー女子
※2021/5/17に呉橋星のイラストを文末に追加しました!
※2021/7/2に暗堂芽白のイラストを文末に追加しました!
※2021/7/10に晴屋萌乃のイラストを文末に追加しました!
※2021/7/11に師走佐良のイラストを文末に追加しました!
※イラストが苦手な方はスルーでお願いします!
午前中の授業が終わり、気の緩んだ声が至る場所で聞こえ始めていた。
そう、昼休みの合図だ。
購買戦争や学食渋滞はもはや昼休みの日常風景で、恐ろしくて行く気にもなれない。
一方の弁当持参組はというと、それぞれ校内で拠点を設け、ほのぼのと有意義な時間を過ごしている。
そんなんで僕も弁当持参組だけど、詰み場の教室ではなるべく食べないようにしてる。
理由はシンプルに落ち着けないからだ。
だからまずは、一人でも落ち着ける場所を探すことから、僕の昼休みは始まる。
まだ一緒に食べる男友達がいるならまだしも、未だに作れずにいるし、同中から来てるのは異性のみ。
毎回昼休みは悲しき現実を突き付けられる。
ただ便所飯だけは避けてきたけど、もしもの時に場所確認だけはしたことがあった。
でも、どこも常に先客が占領中で、選択肢からは除外することになった。
それはそうと、行く場所行く場所に詰み人達の気配が近付いてくるから、血眼で校内を駆け巡るしかない現状なんだ。
理想的な高校生活を送るには、自らの時間を削るしかない。
そんな犠牲を伴う昼休みのルーティンに、早く終わりが来てほしい今日この頃です。
あてもなく足を動かす中、前方から3年の女生徒が書類に目を通しながら、こちらへと歩いてきていた。
僕と面識のある人で自然と足を緩めていたら、視線を感じた彼女が書類から目線を上げ、僕に気付いた。
「ん? 洋君じゃん。またぼっちめし?」
「く、呉橋会長……直球すぎませんか?」
「事実じゃん」
直球ど真ん中の発言にぐうの音も出ない。
そんな発言の主である彼女は、本校の生徒会長、3年の呉橋星さん。
漫画とかで定番な生徒会長像である、黒髪ロング、眉目秀麗、聡明叡智要素を持ち合わせたパーフェクト美女。
なのに全くモテない。
そもそも高嶺の花である呉橋会長に近付けないのもある。
けど、本当の訳は裏表ない発言の口撃力だ。
呉橋会長にアプローチしようものなら、大体は一言で玉砕される。
理想の型にはまった容姿も相まって、凄まじい威力となっているに違いない。
僕も初遭遇時、一言目でぼっちだと断言されて、失礼この上ないファーストコンタクトをとられる程だ。
今回もまた事実を突き付けられて動揺してしまった。
しかし、どうしても呉橋会長のとある誘いが来る前に、僕はこの場から逃れなければならなかった。
そのとある誘いとは数日前の昼休み、初遭遇時に起きた誘いだ。
呉橋会長が僕のぼっちを見かねて、世話焼きとして生徒会室で一緒に昼食を楽しもうというもの。
生徒会室には呉橋会長以外に生徒会役員が三人おり、全員が女生徒なんだ。
つまり生徒会室に行けば詰む。
それからどうにかして逃げたかったのに、既に呉橋会長に腕を組まれ拘束されていた。
「さ、ぼっちめしはやめてさ? 前みたいに一緒に食べよっか」
「ひ、一人でも大丈夫ですので……」
「何言ってんの。ご飯は皆で食べるから美味しいって前にも言ったじゃん」
「そ、そうですけど……」
「はいはい。ぼっちに二言無し。いざ行かん生徒会室!」
腕に触れる豊満な胸が煩悩となって、呉橋会長の歩むまま連行される。
連行されるがまま数分、赴きある扉まで辿り着き、開いた先には二つの視線が僕らの姿を捉えていた。
「ただいまー」
「おかえりー星さ……あー! 積木ちゃん! いらっしゃーい!」
「こ、こんにちは萌乃ちゃん先輩……近ぃ……」
まるで太陽を背にした性格のロリっ子、晴屋萌乃さん。
蒼髪ポニテと頭一つ低い背丈、なによりもいつも元気溌剌な方。
大多数の第一印象は小学生になってしまうけど、当の本人は子供心を忘れないポリシーに生きているとのことで、どう思われようが一切気にしていないと。
事実、飛び級進学していて学年自体は3年だけど、実年齢は僕と同じ15歳だ。
生徒会会計として呉橋会長自らがスカウトした選ばれし者。
全生徒から一目置かれているハイスペックロリっ子だ。
「ヒヒヒ……この前の……ヒヒ……1年生さんだね……ヒヒヒ……」
「ど、どうも暗堂さん」
言葉の節々にニヒルな笑みを零す、2年の暗堂芽白さん。
椅子で体育座りしながらコミュニケーション中だ。
厚手のオーバーサイズ黒パーカーと、片目しか見えない黒長髪が絶妙に合わさっている。
そんな外見だからか、校内を徘徊する女霊と間違われることがしばしば。
着太り格好にもかかわらず本体はかなり細身で、お胸だけは立派に主張されている。
どこにでも通用するモデル体型なので、女生徒からは崇拝されるほどだ。
そして驚異の暗記力を誇り、入学当初から学年トップを独走する英才美女。
そんなハイスペックを認められ、萌乃さんと同様に生徒会書記としてスカウトされ、今に至るそう。
「ん? ねぇ、萌乃? 佐良は?」
「購買だよー!」
「ヒヒ……噂をすれば足音がするよ……ヒヒ……」
暗堂さんの言う通り、急接近する足音が廊下から聞こえた矢先。
僕は勢い良く開かれた扉を背で食らい、無様に転倒。
追い打ちをかけるかのよう、僕の尻を踏みつけた方が最後の生徒会役員だった。
「じゃじゃーん! 師走佐良! ただいま戻ったっすー!」
「今日は山盛りパン祭りかい。絶対太るじゃん」
「食べた分運動すればいいっす! ん? あ、洋後輩じゃないっすか! なんで私に踏まれてるっすか?」
「え」
「ご褒美貰えて最高じゃん、洋君」
自分が発端なのに自覚無しなのが、2年の生徒会副会長である師走佐良さん。
体育会系に関連するものが秀でて万能。
ただし説明する事が絶望的に下手。
砕け敬語が特徴的な活発女子で、金髪ショートシャギーと常時上下制服ジャージ姿を貫き通す謎こだわり持ち。
それもそのはず、師走さんはかなりの天然なんだ。
現在進行形で呉橋会長の言葉を真に受け、踏みつけている僕の尻を絶妙な踏み加減でぐりぐりしている。
「洋後輩! もっと踏まれたくなったら遠慮なく言って下さいっす!」
「お、お気遣いどうもです……でも、もう踏まなくて大丈夫です」
「さ、皆揃ったし食べよっか」
師走さんを促した張本人はすっかり昼食ムード。
萌乃さんと暗堂さんとで、折り畳み式テーブルとパイプ椅子を人数分用意していた。
師走さんも手伝い始めて、どうにか踏み付けからは解放された。
生徒会室という密閉された室内に女生徒4名。
そして哀れな男一匹という環境下で、楽しい楽しい昼食が始まった。
今回の場合、自らが詰み場に遭遇するのではなく、異性になされるがまま誘われた場だ。
これを誘い詰みと僕は名付けている。
しかも通常の詰みとは違って、異性が主導権を握る逃げ場のない監獄だ。
絶対的な立場にある生徒会室に収容された以上、自らの意志で退室することは無謀に等しい。
今は大人しく昼食を楽しみ、昼休み終了の予鈴まで耐えるしか、僕の生き残る道はない。
「ヒヒ……会長……私の卵焼きと……ヒヒ…………交換しよ……」
「卵焼きと? じゃあ、アスパラベーコン巻きで」
「ヒヒ……これ好き……ヒヒヒ……あむ……」
「まむまむ……芽白ママの卵焼き、美味だわー」
弁当の定番イベント、おかず交換をほんわか空気で楽しむ、呉橋会長と暗堂さん。
そんな2人と対面している僕は、師走さんと萌乃さんに挟まれ、静々と箸を進めていた。
「あ! 積木ちゃん! タコさんウィンナー入ってるー! いいなー! 可愛いなー!」
「ふ、2つあるのでどうぞ……近ぃ……」
「ありがとー! 積木ちゃんはイイ子だねー!」
まるで大型犬を愛でる喜び表現。
なけなしのお胸が顔面へと押し付けられ、何もできずなされるがままだった。
「佐良、メロンパン一口頂戴。あーん」
「一口っすか? か、かじり取ったのが欲しいなんてやらしいっすね! 星先輩!」
「ヒヒ……指先でちぎったのをあげればいいんだよ……ヒヒ……」
「おぉー! 流石、芽白! 有言実行するっす!」
暗堂さんの助言を得て、呉橋会長へと一口メロンパンを食べさせた師走さん。
飲み掛けの牛乳も差し向けるサービス付きだった。
ストローで牛乳をチューチュー吸い、口内に広がる至極の組み合わせに顔を綻ばせている呉橋会長。
黙っていれば絵になる。
口を開けば全てが無に帰す。
そんなギャップが会長らしいなと、僕は心で呟いた。
何事もなくお弁当イベントを終え、これから予鈴までどう乗り切るかを思考する僕に対し、呉橋会長が当たり前の様に告げた。
「ほんじゃ、明日以降も皆でお昼しようか。ね、洋君」
「か、完全に場違いですので……その……」
「さっきも言ったじゃん、ぼっちに二言無し。萌乃、芽白、佐良」
僕をこの場から逃さまいと、暗堂さんと師走さんが両脇に座り、萌乃さんが膝上に乗ってきた。
詰みフォーメーションから逃れる術はない、もはや拷問も同然だ。
そんな僕の正面で美脚を組み替える呉橋会長は、拷問執行人にしか見えない。
「洋君。本校の男女比率は知ってるよね。男2の女8。この意味分かる?」
「ヒヒ……私達が生徒会である以上……ヒヒ……数少ない男子生徒の意見も聞かないと……ヒヒ……適切な改善もできないでしょ……?」
「でも! 男の子達は女の子を避けちゃって、まともにコミュニケーションがとれていないのが現状なんだよ!」
「確かに男子は教室とか学食でも、どこでもかしこも一か所に纏まってるイメージっすよね。なんでっすかね?」
立場上男子は一つでも女子とのコミュニケーションを間違えれば、高校生活終了のお知らせになる訳で、下手に動けないのもある。
安心安全な高校生活を送るならば、無理に女子とコミュニケーションをとらないで、同胞達と固まって女子達を遠目で眺める、男子の考えはそれなんだ。
「優しく言えば部屋隅の埃、きつく言って存在感の無い群れ。ただ、洋君は当てはまらないんだよ」
「ヒヒ……つまり一匹狼の1年生さんはね……ヒヒ……生徒会にとって男子生徒の意見を聞ける……ヒヒ……唯一無二の重要人物なんだよ……」
つまり一匹狼の僕は部屋の埃にすらなれず、存在感の無い群れにも属せず、男子の味方がいないあまりにも残酷な現実に立たされている。
改めて突き付けられた現実だけど、納得はしていない。
僕は自分自身が重要人物であることを肯定できない。
だからここは否定するしかないんだ。
「そ、それでも僕じゃない方がいいです」
「今更前言撤回なんて無理」
「な、なんでですか?」
「運命の出会いってやつだからじゃない? うん、それでよろ」
呉橋会長のぶっ飛んだとんでも理論。
僕は言葉を失い、もはや呉橋会長に勝てないのだと落胆した。
「あ、そうそう。洋君のスマホ出して」
「え?」
「これから昼食する仲だし、連絡先知ってても普通じゃん。それに洋君からの意見を気軽に聞けないなんて、色々と不便じゃん?」
「か、顔がかなり近付いてますよ……」
「洋君が素直にならないから近付けてんの。前に聞きそびれて、結構後悔したんだからさ……ほら、出して」
言われるがままポケットからスマホを出し、無料SNSの連絡先QRコードで生徒会メンバーと連絡交換した。
生徒会メンバーが笑顔で画面と睨めっこする中、呉橋会長がさわやかな笑顔で僕に握手を求めてきていた。
「洋君。これからも我が生徒会と末永くよろしく」
頂点に君臨する者達に逆らうことなかれ。
自分が如何にちっぽけな存在であるのかを、握手で固く誓わされたと身に染みて感じた。