☆23話 絶対勝者の姉、モチモチの正体
※文末にモチモチの正体のイラストを追加しました！
※イラストが苦手な方はスルーで！
お菓子を摘まみながら、横たわる姉さんの顔色を窺っている。
冷やしたタオルをおでこに乗せてるけど、あまり効果はなさそうだ。
時間が経てば自然と治る筈だけれども、今日は特にグロッキーみたいだ。
「お兄ちゃん。んまー棒のニンニクカルビ味の匂いなら反応しそうじゃない？」
「ありだね」
姉さんが食べたいと思って、今日はニンニクカルビ味を特別に用意してある。
封を開けて顔前で匂いを振ると、パッチリと目を覚ましてくれた。
「だいしゅきな匂い……あむ……サクサク……」
小動物を餌付けする気持ちが味わえるいい食べっぷりだ。
完全復活を遂げた姉さんは、口周りに付いた味粉をペロペロ舐めて最後まで味わっていた。
「平気そう？」
「さっきよりはマシよ。ありがとう、洋、空」
「えっへん！ お姉ちゃんが起きたし、トランプしよ！」
休憩の暇つぶし用に用意したトランプを早速配り始めた空。
まずは王道のババ抜きからだ。
ババは僕じゃないから、二人のどっちかになる。
ただ、最初の捨て札の量が明らかに多い人物がいる。
「……2枚だけになったわ」
その人物は姉さんであり、トランプに関しては負け知らずの不敗の女王なんだ。
次の一手を引いてしまえば一番上がりという、確定された勝利の下に姉さんはいるんだ。
「じゃあ、お兄ちゃんのをお姉ちゃんが引いてね」
「えぇ……揃ったわ」
やはり確定の勝利が実現となってしまったか。
一番に上がる弊害としては、そのゲームが終わるまで暇だということだ。
姉さんの場合、人一倍それを経験しているから、傍から見ればトランプが退屈に思えるかもだ。
ババ抜きの結果は僕の負け、次なるゲームである大富豪の札を配らせて貰った。
僕の家ではダイヤの3を持つ人が最初に出す事が出来る。
「ダイヤの3だーれ？」
「私よ」
どんな時でも姉さんが一番になる、しかも今回は大富豪だ。
ただでは終わらない。
「洋、空。ごめんなさいだけど、革命だわ」
「えぇー！ せっかく強かったのに！」
「や、ヤバい……」
どおりで手札に弱いのが無くて、強いのばかりだった訳だ。
全ては姉さんを軸に回る、これが我が家のトランプだ。
それからというと全敗の僕ら、全勝を飾った姉さん、ハッキリとした勝敗となった。
「楽しかったわ……ふふ」
「うへ～……お姉ちゃんには敵わないや～」
「さて、お昼の用意するわね」
ポニテのエプロン姿となった姉さんは、鼻歌交じりで台所へと向かった。
料理に夢中になれば、こっちに意識は向かない筈だ。
「そろそろ再開しようか」
「ふぉむ？」
もにもに頬っぺたを動かして、お菓子を食べている途中だった。
再度ログインすると、モチモチとジャガジャガがオンライン広場で手を振ってくれていた。
《お待たせ》
《さぁさぁ続きをやりましょうー！》
《その前に……レイブン、マロン。ちょっといいか？》
モチモチがこんな風に聞いてくるなんて珍しい、何かよっぽど大事な事なのかも。
《なんだ？》
《なになに？》
《さっきジャガジャガと話してたことなんだけどよ……オフ会しねぇか？》
《オフ会？》
《そうだ！ 仲良い連中でやんだけど、2人ともどうだ？》
有難い誘いだし、土曜日からゴールデンウィークも始まるから時間には余裕はある。
ただ直接会うことで、今後気まずくなるのだけは避けたい。
一度空の意見も聞いて、少しでも行きたい意思があれば参加しよう。
「空はどうしたい？」
「モチモチさんとジャガジャガさんに会ってみたい！」
空の参加意思は即答だった。
これは行かないといけないが、絶対に空に嫌な思いをさせないよう、兄として頑張らないと。
まぁ相手がこの2人とそのお仲間さんなら、まずはいい思い出になる筈だ。
《オフ会に参加させて貰う》
《私も！》
《マジか！ 嬉しいぜ！ じゃあ、今から詳細を話すぜ！》
オフ会の約束をしてから日は瞬く間に過ぎ、オフ会開催日の日曜日となった。
♦♦♦♦♦
現地集合とのことだったけど、場所が数駅先とかなり近場で正直驚いている。
もっと地方とか都心部かと思って多少の出費は覚悟していたけど、定期券で行けるから助かる。
「お兄ちゃん！ 電車賃出してくれて、ありがとう！」
「可愛い妹の為だからね」
「か、可愛いだなんて～人がいるのに～もうもう～♪」
小突いてくるのはいいのだけど、同じ個所を一点で狙うのは、ちょっと痛いかな。
目的地の駅に降り、近場にある集合場所のファミレスを目指し、スマホ頼りに歩き始めた。
「お、ここかな？」
「お洒落なファミレスだね」
入店後、モチモチ本人の目印である黒のキャスケットを店内で探すと、空が袖を掴んできた。
「お兄ちゃん、あの人じゃない？」
「あ、ほんとだ……」
広めの席にポツリ座る人、黒のキャスケットを被ってるから間違いなくモチモチだ。
僕らは若干緊張しながらも好奇心を携え、近付いて声を掛けた。
「あの……もしかして、モチモチ……さんですか？」
「んぐっ？！ ゲホゲホ……ば、バイ……ゾ、ゾウデス……」
モチモチは二十代前半の綺麗な女性で、驚きのあまりメロンソーダで咽ていた。
タイミング悪かったなと謝罪を済ませ、向かい側の席に座らせて貰った。
「だ、大丈夫ですか？」
「ケホ……ご心配おかけしました、もう大丈夫です」
ゲーム内での男勝り性格とは違って、ごく普通な女性の印象だ。
空も若干の戸惑いを隠せておらず、僕の袖をギュッと摘まんでモチモチを凝視してる。
「えー……人はまだ集まってないですけど、自己紹介を。モチモチこと、早見流です」
「レイブンの積木洋です」
「マロンの積木空です！ 実妹です！」
妹の部分を強調した上に、自分の方に僕を引き寄せたのはなんでだろうか。
早見さんはというとパァーっと明るい表情で、僕らを交互に見つめてきた。
「兄妹！ どおりで同じタイミングのログインなんですね！ 顔もところどころ似てますね！」
「よく言われますね。僕らが兄妹だって中々言えず、すみません」
「いえいえ。ゲームはゲームの関係がありますから、プライベートは別ですよ」
こういった無理に詮索のしない性格だから、モチモチとのプレイは気兼ねなくできたんだと改めて実感できる。
「助かります。早見さんに兄妹は？」
「姉がいますよ。私と違って、美人の所帯持ちなんですよ」
早見さんも充分綺麗なのに、それ以上の美人となると有名人とかそこらになるのかな。
流石に考えすぎかも。
「美人姉妹……ブツブツ」
「空ちゃん？ どうしたの？」
ギュッと腕に抱き付いて離れない空が、早見さんを凄まじい眼力で凝視してるけど、そんなに興味津々なのかな。
でも、一方的にプライベートを深堀りするのも悪いし、サバブラの話に切り替えよう。
「こほん……あの、早見さんは何でモチモチって名前に？」
「え？ お恥ずかしながら、お餅が大好物でして……安直な名前です」
「お餅が好物でそんなにほっそりスッキリな抜群スタイルなんですか！？」
身を乗り出してまで食い付いているけど、肘が顔に当たって痛かった。
あまりの迫力ある反応に早見さんも驚きを隠せず、椅子から転びそうになっていた。
確かに早見さんのスタイルは、ほっそりスッキリで男性向けというより女性受けであるかも。
空を落ち着かせるのに頭を撫でてあげたら、コロッとふにゃふにゃに喜んでいた。
「あービックリした……えっと、2人の名前の由来はどうなんですか？」
「烏の別名からとった感じですね。たまたま外で見かけただけで本当になんとなくです」
「モンブランが好きなので栗をイジってマロンです」
「なるほど。名前決めってふとしたきっかけだったり、好きなものだったりが多いですけど、やっぱりそれぞれ個性が出ますね」
「ですね。モチモチもありそうでなさそうな、絶妙なラインをいってると思います」
オンライン上では個性を主張したい奇抜な名前が溢れているから、シンプルな名前は逆に珍しい。
けど、それはあくまで架空上での名前に過ぎないし、気軽に名乗ってもいいと僕は思ってる。
すぐに打ち解けたのもあってサバブラの話が盛り上がる中、やんわりと笑みを浮かべていた早見さんが、何かにハッと気付いていた。
「あ、2人の飲み物頼んでませんでしたね。気が利かなくてすみません」
「いえいえ、そのぐらい早見さんと話すのが楽しいので」
「もう店員さん呼んじゃうね？ えい！」
呼び出し音が鳴り、少し遠くの厨房方角から店員さんの反応した声が聞こえた。
空と一緒にドリンクメニューを眺め、僕はカルピソに。
ドリンクバーでも良かったけど、そこまで飲まないからいいんだ。
「ご注文をお伺いします」
「ソフトドリンクのカルピ……峰子さん？！」
「ん」
まさかファミレスでバイトしてるなんて思いもしなかった。
それにしてもウェイトレス姿が様になって、普段のカッコイイ姉御姿も消さない、可愛いさが際立っていた。
「洋が来るなんて思いもしなかった。隣は妹さんか？」
「実！ 妹！ で！ す！」
未だかつてない程の強調だけど、峰子さんはピクリとも驚かず、むしろ微笑んでいた。
そんな空の視線は峰子さんの顔より下にしか行っておらず、やわな突込みは止めておこうと思った。
「洋はカルピソだな。妹さんは？」
「同じので！」
「分かった。お姉さんはどうしますか？」
「メロンクリームソーダをお願いします」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
ニカっと笑ってくれ、どこでも姉御肌な峰子さんだなと、じんわり染みた。
