22話 最高の連係プレイ、酔う姉
ゲームスタートから早10分、蜃気楼が解除され、次なる悪天候の雷雨が発生。
宣戦布告を受け、ジャガジャガとモチモチが別行動を始めたけど、その成果は怒涛過ぎて目まぐるしかった。
今回僕らも含めた総プレイヤー数80人、その総プレイヤーカウントが現在進行形で激減中なんだ。
ざっとだけど減少数は40人、つまり10分間で半数まで減ったことになる。
《宣言通り、5チーム程倒したわ♪》
《有言実行だな! ジャガジャガ!》
《モチモチはライフ1削りだけで済んでいるのか。ジャガジャガは無傷か》
《エグイね!》
日本ランキング上位のジャガジャガ、それに引きを取らないモチモチの2人がいれば、僕らに敵なしだ。
雷雨は雨による視界不良に加え、ランダムで雷がフィールドに降り注ぐ。
フィールドダメージでもある雷をもろに食らえば、ライフが1つ削られる仕様だ。
しかも高確率で数秒間麻痺状態になる、最悪な悪天候でもある。
基本として雷雨は屋内で過ごすのが鉄則だけど、大多数が同じことを考えるので、屋内での戦闘が後立たない。
なので雷雨はプレイヤーが大幅に減ったりする。
そして必ず屋内から逃げ出すプレイヤーが出る。
だから建物の出入り口で待ち伏せし、一気に止めを刺す策もある。
だが、それではせっかくのサバブラの良さを生かしきれず、非常に勿体ないんだ。
《雷雨ならレイブンがエンチャできるな!》
《そのつもりだ》
サバブラのいい点その2。
フィールドダメージを上手く利用すると、武器にエンチャントすることができる。
武器によってエンチャの有無があり、何も知らず見様見真似で試しても大半は、ダメージを食らうだけになる。
エンチャは属性によって効果が異なり、様々な攻略が広がったりする。
古の戦士スタイルの古代槍は、雷属性のエンチャが可能で、今まさに絶好の機会。
雷の落ちるタイミングで古代槍を突き立て、避雷針にすれば雷は古代槍へ落ち、コントローラーが強めに振動するぐらい、凄まじい雷光の光景が画面に広がる。
《雷槍の完成だ》
《レイブン君! 南西の少し遠くにある屋内に、大人数が接戦中だよ!》
《連中にぶちかましてやれ!》
雷属性のエンチャは初めに接触した場所を起点に、広範囲で雷が拡散する。
食らえばライフ1削りができる、かなりの強エンチャントだ。
目標の屋内へと狙いを定め、まっすぐ雷槍の投擲。
見事に屋内で雷が拡散。
2チーム分のプレイヤーが減り、生き残りは空が止めを刺し続けた。
接戦中だったからプレイヤーが全体的に程よくダメージを食らい、雷槍で多くのプレイヤーを仕留められたんだ。
《あらあら♪ やりますねレイブンさん♪》
《マロンのフォローがあったからだ》
《えへへ~♪》
現実での空が体を揺らして喜んでるけど、髪が顔に当たって擽ったい。
《負けられないぜ! 奥義! 野蛮大行進!》
それからというと、かなりのプレイヤーが僕らの手によって減らされ、残り数チームだけに。
フィールド縮小もどんどんプレイヤーを追い詰め、プレイヤーが衝突しやすくなってる。
ここからは一気に攻め込んで勝利を頂こう。
《奥義♪ フェロモンダンス♪》
早速ジャガジャガが奥義で足止めして、数人を同時にとどめを刺した。
流石としか言いようがない。
未だにジャガジャガのライフは3つ。
つまりノーダメージでここまでやってきている。
日本ランキング上位者の実力は確かなものだと、他のプレイヤーは実感した筈だ。
制限時間も迫ってるし、いよいよ大詰めと言ったところだ。
今、僕の目の前には暗黒騎士スタイルのプレイヤーが立ち塞がってる。
相当な手慣れなのが身構えでハッキリ分かる。
けど、奥義を使えば倒せる。
《奥義、古の咆哮》
コントローラーが大きく震える咆哮エフェクト。
赤い空気を纏った古の戦士に、10秒間の無敵時間が生まれた。
効果時間が切れない内に速攻で動き出し、暗黒騎士との距離詰めと同時に、古盾を投げ先制攻撃。
暗黒騎士が古盾をはじき返すか、回避するかを先に見定めて、一気に追い打ちだ。
古盾を防ごうとする暗黒騎士を見て、古代槍を間髪入れずに投擲。
防いだ古盾が視界の妨げになったのもあって、投擲された古代槍は防げず、ライフの1削りに成功。
そして反撃される前に範囲攻撃の大斧回転切りを食らわせた。
どうやらライフ1だったらしく、暗黒騎士を倒す事ができた。
《奥義! ハートブレイク!》
空の奥義が、僕の背後に迫ったプレイヤーを射抜き、間一髪のところで助けられた。
消音アイテム使用だったから全く気付かなかった。
助けてくれたお礼に、現実で頭を撫でてあげたら、物凄くクネクネして喜んでくれた。
ゲームも終盤になり、僕達4人と盗賊スタイルのプレイヤー1人だけになった。
4対1なら誰がどう見ても圧倒的に優勢なのだけど、時間切れまで盗賊が逃げまくってるんだ。
生き延びても高ポイントを獲得出来るから、盗賊は時間切れを狙ってる筈なんだ。
でも、そういったゲームを好まないモチモチとジャガジャガが、黙っていない。
盗賊は華麗に逃げられている、と思ってそうだけど、実際は僕らの誘導で詰み場へ向かってる。
残り時間数十秒になり、袋の鼠となった盗賊は奥義のステルスを発動。
元々スピードタイプの盗賊が透明化すれば、範囲攻撃だろうと当たる可能性は低い。
けど、思わぬ攻撃がくれば、話が変わる。
今こうして盗賊を探る振りをして攻撃する僕らの中に、モチモチはいない。
現在の悪天候は暴風。
常時移動する幾つもの竜巻が発生し、飲まれるとライフが1削れて、更には吹き飛ばされる仕様だ。
モチモチはこの竜巻を利用し、ダメージ覚悟で竜巻に飲まれ、吹き飛ばされる場所を、盗賊の頭上へと目指していた。
盗賊の奥義ステルスは一分間透明化できるもの。
が、プレイヤーの攻撃などに接触すると、強制的に解除されてしまう弱点があるんだ。
《真打のご登場じゃぁああ!》
予期せぬモチモチの頭上からの攻撃は、必ず風圧が生まれる。
そして近場にいた盗賊は風圧を貰い、ステルスが強制解除され姿を見せる。
その隙を逃さず、空が盗賊にとどめを刺し、時間切れになる前にゲームが終了した。
今回もチームの連係プレイが最高に決まった。
《しゃあああ! 今日も絶好調だぜ!》
《この調子で次も行ってみましょう♪》
モチモチとジャガジャガも、うずうずと次の試合に目を光らせている。
オンライン広場で2戦目に向け準備をしていると、現実で小さな唸り声が耳に入り、僕らは手を止めた。
「うぅ……」
「あ、姉さん大丈夫?」
目まぐるしいプレイ画面だったから、グロッキーになってしまったみたい。
とりあえずソファーまで運んで、横に寝かせた。
「お姉ちゃん? 苦手なのに無理して見なくてもいいんだよ?」
「そ、そうもいかないわ……洋と空の楽しんでいる姿が……なによりも楽しくて、嬉しいのよ……」
やっぱり姉さんは姉弟思いの良い姉だ。
とりあえず姉さんの体調が良くなるまで、ゲームは一旦中止だね。
《モチモチ、ジャガジャガ。次の試合はちょっと止めておく》
《私もです! ごめんなさい!》
《そうか! じゃあオレらだけで行ってくるわ!》
《待ってるわよ♪》
有難い配慮に甘え、僕と空は姉さんが元気になるまで小休憩を挟むことにした。




