21話 休日のゲームで宣戦布告
4月末に差し掛かった今日は昭和の日、つまりド平日の祝日。
部活もやっていない学生は得した気分になり、いつもよりテンションが上がるもの。
僕も例外に漏れず、朝からウキウキが止まらないでいる。
いつもなら趣味の町ブラに行くのだけど、今回はFPSゲームのサバブラを楽しむ事に決めてる。
何故サバブラを選んだかと言ったら、祝日はゲームフレンドが沢山ログインして、いつもより盛り上がれるからだ。
「お兄ちゃん! 早く早く!」
「焦らないで、空」
一緒にプレイする空は僕の胡坐の中で、今か今かと楽しそうに揺れてる。
お菓子や飲み物もテーブルに用意して、最高のプレイ環境はセッティング済み。
たまにこんな日があってもいい、そんな精神だ。
「洋、空。こまめに小休憩を挟むのよ」
「はーい!」
「うん」
一家の長女である姉さんは、ゲームを一切やらないのだけど、ちゃんと理由はある。
姉さんはどんなジャンルでも、ゲーム酔いしてしまう人なんだ。
テトリスでさえ、ブロックの方向転換で目が回り、ぱたりと横たわってしまう。
なので、少し離れたリビングテーブルから猫のようにジッと、僕らの様子を眺めてる。
本当は一緒にやりたいけど、体質上仕方がないことだ。
そんな姉さんの分まで楽しむべく、僕と空はサバブラのログインを済ませ、オンライン広場へとやってきた。
フレンドリストを見れば、今誰がログインしてるか、一目瞭然だから非常に便利だ。
「お、モチモチはもうログイン済みだね」
「ジャガジャガさんとチャット中みたいだね!」
ジャガジャガは元々モチモチのフレンドで、僕らと知り合ったその日からの古参フレンドだ。
いつも踊り子スタイルを愛用する、勝ち星を上げ続ける上級プレイヤーでもある。
2人の場所へ移動すると、すぐにモチモチから簡易チャットが送られてきた。
《お、時間ピッタリに来たな! レイブン! マロン!》
《オッス。今日はバイキングスタイルか》
《オッス! 野蛮感がスゴイです!》
サバブラのいい点は、何時でもスタイルを変更できることだ。
モチモチはガッチリ系のスタイルを、良く好んで使っているのが見受けられる。
バイキングスタイルはその名の通りの見た目で、大鉈を常時担いでいる。
短距離攻撃から中距離攻撃まで可能で、一撃に必ず風圧が生まれ、近くにいる相手を怯ませられる。
奥義は大量のバイキングを引き連れ、広範囲で相手を切り刻む、野蛮大行進だ。
野蛮大行進の動き自体は遅く、避けることは簡単だ。
けど、追い込まれた状態で発動されれば、相手を一網打尽だ。
初心者から上級者まで、幅広く使える万能スタイルでもある。
今回僕も気分転換に、アサシンスタイルから古の戦士スタイルに変えてる。
古布を巻いた格好に、三種の武器を扱えるスタイルだ。
投擲攻撃の古代槍、範囲攻撃の大斧、ガードとブーメラン攻撃のできる古盾。
奥義はライフ削りではなく、十秒だけ無敵になれる、古の咆哮だ。
歩行スピードこそ遅いけど、攻撃を繰り出すスピードはかなり速い。
操作感重視の中級者向けスタイルだ。
空はいつも通りのゆるふわ系狙撃手スタイルで、武器だけは新調してある。
従来の遠距離攻撃や援護狙撃を兼ね備えた、近距離戦も行ける変形型の短銃だ。
武器は主に、ゲーム内の武器ショップで購入できる。
購入と言っても課金とかではなく、ゲーム試合で獲得できるポイントが金銭代わりになってる。
試合の勝利順位によって、獲得ポイントが異なり上位3名が高ポイントを獲得できる。
チーム制でもまた上位ルールが適用され、チーム内でポイント配分される。
ポイントはフレンド同士でも譲渡出来ないので、ポイントを貯めるなら協力プレイが効率的だ。
武器ショップ以外にも、コスチュームショップ、アバターイメチェンショップ、スタイルショップがあって、ポイント活用の幅が広い。
《レイブンちゃんにマロンちゃん♪ 今日はよろしくね♪》
《ジャガジャガも参戦ってことは、4人制のチーム戦か》
《わーい! ジャガジャガさんと一緒だ!》
《役者は揃った! 行くぜ! 野郎共!》
今回の舞台は孤島の戦地、5分ごとにランダムで悪天候に変わる仕様だ。
変わり行く環境で如何に適応し、自分自身にどれだけ有利な立場を築けるかが、勝利の鍵になる。
つまりプレイヤー個人個人の腕が試される、上級者向けの舞台だ。
チーム数は20、僕達も含めて合計80人、かなりの大人数だ。
《さぁ始まるぜぇ! 気を引き締めろよ!》
《相変わらずの脳筋だな》
《頑張るぞー! おー!》
《うふふ♪ 負ける筈がないわ♪》
ゲームスタートのカウントが始まり、いよいよチーム戦が開始。
最初の悪天候は氷雪、一気に画面がホワイトアウトになって、仲間の3人がギリギリ見えるぐらいだ。
孤島の戦地での第一前提として、元々の地形をあらかた理解していないといけない。
もし理解できていなければ、悪天候の中で立ち往生しながら、攻撃されないかを警戒するしかなくなるからだ。
そしてその時の誤った判断としては、なり振り構わず攻撃をすること。
そんなことをすれば、敵に自分の場所を知らせ、自分を攻撃して下さいと言ってるようなものだ。
なので、孤島の戦地では無暗な行動は絶対にあってはならない。
そこで役立つのが、フィールドアイテムのサーモグラフィ。
手に入れれば、大体の悪天候下でも相手を熱感知できるので、その者の独壇場となる。
《マロン! 1人で屋内に行けるか?》
《大丈夫です! 行ってきます!》
守りもない空がその場にいれば、僕達が守りに回って一塊になるしかない。
幸いにも建物までの距離は近く、簡易チャットもあるからホワイトアウト状態でも最低限の連携はとれる。
《無事到着! 敵影を数人目視しました!》
《景気よく、やれ!》
《はい!》
風吹く音に交じり、3発の狙撃音が静かに響いた。
総プレイヤーカウントが1つだけ減少、確実に1人倒した証だ。
ただ残りのプレイヤーは流石に仕留めきれなかったみたいだ。
《撃ち残しがそっちに出て行くよ!》
《オレに任せろ!》
3つの足音がこちらへ接近し、構えたモチモチが大鉈を振るった。
ダメージ音が3つ鳴り、ライフをそれぞれ1つずつ削ったようだ。
モチモチの猛攻は止まらず、そのまま視界不良の中に突っ込み、怯んだ相手にダメージを与えていた。
《総プレイヤーカウントが3人減ってる。流石だな》
《そうね♪ あ、レイブンちゃん♪ 古代槍を私の真後ろに投げてくれないかしら♪》
《了解》
ジャガジャガの言う通りに、古代槍を力強く投げ放つと、遠くでダメージ音が鳴った。
足音が聞こえない距離だったのに、的確にプレイヤーへダメージを与えられたのは、ジャガジャガのお陰だ。
確実に仕留めるべく、追撃で古代槍を2本連続で投げ、遠くにいるプレイヤーを倒すことに成功した。
《ナイスね♪》
《お前ら! そろそろ5分経つぞ! 次に備えろ!》
モチモチの言う通り、5分経過した途端に氷雪が止んだ。
一面雪景色だった視界が綺麗に元に戻っていく。
そして次なる悪天候、蜃気楼が発動した。
プレイヤーがいない場所に、プレイヤーの幻影を見てしまう、視覚頼りではいかなくなる悪天候だ。
《マロン。狙撃は慎重に》
《うん!》
幻影の大まかな見極めは、そのプレイヤーの姿が若干ブレているかどうかだ。
狙撃手ならスコープで相手を拡大できるから、見極めはだいぶ楽になる。
氷雪とは違い、視界自体は良好そのもので、幻影の見極めさえ知っていればどうとにでもなる。
よって、これ以上チームが固まって動くのは愚策。
僕がモチモチとジャガジャガに離れる方向を伝えた時、一発の狙撃音が鳴った。
音の場所からして空じゃない、敵だ。
瞬時にガード体勢に入った僕だったが、狙われていたのはジャガジャガだった。
けれども、僕は心配していなかった。
ジャガジャガは、どこから狙撃されたかも分からない弾丸を、輪刀の回転を利用して、完全に勢いを殺した。
ただの動かない弾となった物を、指で砕きながらジャガジャガは笑った。
《どうやら私狙いみたいね♪ いい度胸してる♪》
踊り子スタイルは、相手攻撃のタイミングに合わせると噓のように回避できる。
その強みを生かし、相手の隙を作り連撃を繰り出せば、瞬きする内に倒す事が可能だ。
輪刀を手足のように扱う、その姿はまさに可憐な踊り子。
奥義はライフ削りでなく、周囲の相手を数秒硬直させるフェロモンダンスだ。
ただ回避タイミング自体がかなり厳しく、初心者や中級者だと成功率が極めて低くなる。
連撃も食らわせてしまえばいいものの、外した場合、大きな隙が生まれるので逆に倒されることがあるんだ。
そんな上級者向けの踊り子スタイルであるジャガジャガが狙われたのには、当然の理由がある。
高ポイント獲得には、なるべく上位で勝たないといけないが、実は他にも方法があるんだ。
それはサバブラ内の日本ランキング上位者を倒すこと。
もしランキング上位者を倒し、自分がやられてもポイントは必ず入る仕様だ。
またチームの場合、チーム内の誰かがランキング上位者を倒すと、チームでポイント配分される。
つまりこの狙われた意味というのは、ジャガジャガが日本ランキングの上位者を意味する。
しかもジャガジャガは日本ランキングトップ10に入る程の実力で、何度かトップランカーも倒してる実績がある。
だからプレイヤーは、喉から手が出る高ポイントの為、自分の実力を試す為、ジャガジャガを狙ってくるんだ。
《宣戦布告か! 腕が鳴るじゃねぇか!》
《うふふ♪ とりあえず、軽く5チーム程消してくるわね♪》
《ジャガジャガが敵じゃなくて良かった》
《だ、だね》
やる気に満ち溢れるモチモチとジャガジャガに続いて、僕も本気で動き出さないとだ。




