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積木君は詰んでいる  作者: とある農村の村人
最終章 3校合同林間学校 2日目
144/147

144話 レディーファースト違い、女子踏みつけのご褒美、女子が逃げ出す巨人亡霊、本気の女装

 流れを持ち直し、次々と来る班は最初から恐怖色に染まり、絶叫と共に逃げてくれる。

 実行委員会のモチベはバッチリ、もはや敵なしだ。


 次の班を確認すると、どうやら青柳君の班のようだ。

 班の皆と仲良くできてるか、怖がらせる前に少し様子見しよう。


「あ、青柳君ってば! ま、前歩いてよ!」

「れ、レディーファーストだ……俺に遠慮せず行ってくれ」

「な、何がレディーファーストだ! 時と場所が間違ってるっての!」

「そうよそうよ!」

「皆! 青柳を盾に、無理矢理押し進むわよ!」

「「「「了解!」」」」

「や、止めろ! お、俺が望んでいるハーレムじゃない!」


 全面的に青柳君の発言が悪い、ちゃんと自分で償わないとだよ。


 抵抗も虚しく盾と化す青柳君は、生贄の如くズイズイと先陣を切ってる。

 可哀想と思いながらも同情はせず、しっかりと落ち武者は演じ切った。


♦♦♦♦♦


 順番が巡り、黄坂君のいる班の番になり、班がどんな感じかを観察してみた。


「こ、怖すぎる……うぅ……」

「大丈夫みっちゃん……し、死ぬときは私も一緒だから」

「ふっふっふ……そんな時こそ貴方達を守るのが、拙者れふ!」

「「「か、カロリーナイト!」」」

「た、頼りにしてるから!」

「絶対に守って下さい!」


 女子を守る事を生き甲斐とするだけあって、女性陣からの信頼は厚いようだ。

 ただ、ナイトで活躍する場面は一度も見た事ないから、怖がらせでどんなナイトっぷりかを、しっかり見届けさせて頂こう。


 手際よく茂みを鳴らし、黄坂君達の視線を向けさせ、音声を再生しながら姿を見せた。


『首を置いてけ……』


「「「「ぎゃああああ!?」」」」

「ひぇぶ!?」


 女性陣の絶叫逃走の中に、黄坂君のダメージ声が掻き消された気が。

 心配になって近付くと、置き去りされた黄坂君が、背中に足跡やらを付けられた状態で倒れてた。


「こ、黄坂君……だ、大丈夫?」

「……その声は積木殿ですか……心配はいらないれふ~女子に踏みつけられるのは、極上のご褒美れふので」

「あ、うん」


 とりあえず次の班が来るから、黄坂君を立ち上がらせて、道なりを進んで貰った。

 本人が幸せならそれでいいのかな。

 あまり納得いかないナイト姿に、小首を傾げながら持ち場へと戻った。


♦♦♦♦♦


 次は緑岡君の班で、肝心の緑岡君の姿がどこにも見当たらない。

 緑岡君に限って不参加は考えられないけど、本当に班の皆といるのか分からない。


 視界を凝らしつつ、怖がらせタイミングを見計らう中、どこからともなく女性陣の中で、緑岡君の声が小さく聞こえた。


「あ、あの……」

「「「「へ? ほぎゃあああああ!?」」」」


 女性陣が全速力で逃げ去り、1人ポツンと立つ緑岡君だけが残った。

 立ち位置的に最後尾にいたっぽいけど、全く気が付かなかった。


 自他共に認める存在感の無さが、ここまでステルス性があるとは、ある意味恐れ入る。

 とりあえず立ち尽くす緑岡君に近付いてみた。


「緑岡君……その……まずはごめん」

「へ? ……あ、積木君……なんとなく察したよ」


 緑岡君と両思いの神流崎さんが一緒なら、きっと楽しい肝試しになったんだろうけど、仕方がない事だ。


 それより今は、後続班が来る前に、緑岡君を進ませないと。

 道のど真ん中で落ち武者と一緒にいたら、緑岡君もお化け役だって思われるに違いないんだ。


 念の為、予備の懐中電灯を緑岡君へ手渡し、ちゃんと付くか確認してる最中、別の光源が僕らに向けられてた。


「眩……」

「「「「ひゃあああああああ!?」」」」


 後続班が早く合流して、僕らを見た途端、全速力で逃げ去ってしまった。

 絶叫と一緒に遠ざかる背中を、僕達は悲しく見届けるしかなかった。


 緑岡君には今度、埋め合わせする事を約束して、どうにかして先へと送り出した。


♦♦♦♦♦


 それから10分程、巨人亡霊と落武者のタッグが待ち伏せしてたとの連絡が、実行委員の皆から送らてきて、かくかくしかじかと説明。

 ナイスアドリブだと本日2度目のお褒めの言葉が、皆から送られたけど、内心は緑岡君に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


♦♦♦♦♦


 その後も順調に流れが続き、いよいよ第二陣最後の班に。


「第二陣最後の班は……西女生徒会と、蘭華さんと峰子さん親衛隊隊長達……」


 全く怖がらなさそうな人達だと思うのは、僕だけだろうか。

 それよりも蛍さんの件だけど、水無月さんに協力して頂いて、紅蓮堂さんの班に入って貰ってる。

 だから、本格的に怖がりそうな人がいない状況なんだ。


 怖がらせられる自信が激減するも、僕は今まで通りやればいいと言い聞かせ、持ち場でスタンバイ。


 数十秒後、水無月さんを先頭に、皆さんが歩いて来た。

 恐怖と無縁の、いつもと変わらない空気が、見ているだけでひしひし伝わってくる。


 嫌な汗が顔や背中に伝う中、怖がらせタイミングの時が来た。

 焦らず冷静さを失わず、何十回と繰り返してきた行動をすればイイだけ。

 手順通り茂みを鳴らし、水無月さん達の視線が向けられ、音声再生と刀抜き取りを実行した。


『首を置いてけぇ……』


「む? ほぉー衣装やメイクまでも本格的なようだな。感心感心」

「未確認生命体に比べたらまだまだですね。しかしながら、武者鎧の衣装は大変に気になります」

「澪よーもっと怖がってやれよーワタシがこんなにも怖がってんのにさー? 一体誰がやってるんだろうーなー?」


 親目線で感心する水無月さん、別の事に興味津々な澪さん。

 怖がってる感じが微塵もない、ニヤニヤと正体が僕だと分かってそうな明日久さん。

 やはり西女生徒会の皆さんは、一般生徒と圧倒的に何かが違うんだ。


「まぁまぁ。どこの誰かと思えば、積木様じゃないですか。とてもお似合いですよ」


 パチパチと拍手を送る蘭華さんと親衛隊隊長の皆さんは、分かり易く社交辞令。

 スルーされるより断然マシでも、出し惜しみのない興味ない空気はやめて欲しかった。


 水無月さんから頑張れとエールを、明日久さんからは激写とニヤニヤ笑いを、澪さんからは特に何もなく、西女生徒会の3人は進んで行った。

 蘭華さん達に至っては、既に姿が無くなっていた。

 ある意味一番苦戦した班だったなと、身に染みながら第二陣が終了する。


♦♦♦♦♦


 最後の第三陣が来るまで10分間の小休憩を挟んでたら、茂みを小走りする足音と、僕の名前を呼ぶ声が。


「おーいー積木―」

「ん? 赤鳥君? どうしたんだろう」


 直接何かを伝えに来たって事は、結構重要な要件なのかも。

 姿を見せる僕に気付いた赤鳥君は、何故か同じ落ち武者姿だった。


「その恰好どうしたの?」

「どうもこうも暗堂パイセンに言われたんだよ。訳アリで積木がお化け役を抜けるから、代わりにやってくれないかって」

「あ、そうだったんだ。とにかくありがとう赤鳥君」

「よー分らんけど、いいって事よ」


 あとで暗堂さんにも直接お礼すると決め、茂みを通ってハイキングコースの入り口方面へ向かった。


 実行委員会以外に見られない物陰から、入り口周辺の様子を少し眺めてみた。

 第三陣は今か今かと、怖がりながらも楽し気に待ってて、肝試しはもはや成功って言っても過言じゃなかった。


 それはさておき、早く夏洋に変装して紅蓮堂さん達と合流しないとだ。


 予め夏洋変装一式を置いた場所に向かうと、僕に手を振り出迎えてくれる女性がいた。


「あ、積木さーん♪ お疲れ様です♪」

「すみません菊乃城さん。お手数かけます」

「お安い御用ですよ♪ さぁ、メイクを落とすのでこちらに♪」


 手を取られ物陰の奥へと移動すると、二脚の椅子が向かい合わせで配置されてた。

 椅子はきっと、菊乃城さんが気を利かせてくれたんだ。

 ありがたやありがたや。


 夏洋変装一式が置かれた椅子に座り、早速お化けメイク落としを始めてくれた。

 僕1人じゃ綺麗にメイク落としも出来ないから、菊乃城さんには本当に感謝だ。


 ものの1分程で落として貰い、今度は夏洋をワンランク上に仕上げる作業に。

 落武者衣装を脱ぎ、擬似胸を装着したTシャツ短パン姿になった僕を、菊乃城さんは舌舐めずりでガン見。


「やっぱり素材と土台がイイと、いつも以上に本気出しちゃいそうです♪」

「そ、そうなんですね」

「はい♪ それでは行きますね……ふっふっふ……」


 何か作業風景を見るのが怖くなった僕は、視界を閉じながら終わるのを待つ事にした。


♦♦♦♦♦


 待つ事10分弱、ウィッグを被せ終え、僕の肩をポンポンと触れた菊乃城さんは、若干息乱れ気味だった。


「はぁはぁ……か、可愛く出来ましたよ♪」

「助かります。今度お礼むぷぅ」


 指先で優しく口に触れられ、言葉を止められた。


「お礼はツーショット写真で♪」

「ふぁ、ふぁい」


 僕の椅子半分に座り、グッと密着した状態で自撮りツーショットを激写。

 ワンランク上の仕上がりをまだ見てなかった僕は、菊乃城さんと映った自撮り画面を見て、正直驚いていた。


 自分で夏洋になった時は、どうしても男の僕が抜け切れていない状態で、不完全な女装だった。

 けど今は、僕という男が一切見えないぐらい、完成された女装姿になってるんだ。


 やっぱり女子を輝かせる腕前が全く違うんだと、菊乃城さんの日々の努力に感服しつつ、尊敬の意を込めながら心で感謝した。


♦♦♦♦♦


 数分後、激写に満足した菊乃城さんは肌艶がツルピカになってた。


「ふぅー♪ これでしばらく潤います♪」

「う、潤う……」


 余計な詮索は野暮だろうし、何も言わないでおこう。


「では、夏洋さん♪ 頑張って下さいね♪ 応援してます♪」

「あ、はい。ありがとうございます、頑張ります」


 菊乃城さんや暗堂さん、水無月さんや赤鳥君も協力してくれて、こうやって背中を押してくれてるんだ。

 紅蓮堂さんのお友達作戦を必ず成功させなければ。

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