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積木君は詰んでいる  作者: とある農村の村人
20章 3校合同林間学校 初日
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129話 コミュマスターの恋バナ、不法侵入者の双子妹に幼馴染達、憧れではなく愛情

 着替え終えた竹塔さんと滝さんが戻り、ペコペコと僕に謝ってくれた。

 正直当てっこゲームのやり過ぎ感は否めなかったけど、嫌な思いはしなかったのが本音だ。


 なので、すぐ謝るのを止めて貰って、もう気にしてないから大丈夫だと言い、この件を平和的に終わらせた。


 ただ、何も知らない峰子さんと来亥さんが、興味津々に聞きたそうに前のめりになっていた。


「おやおや積木……竹塔達と随分とお楽しみだった様だな……ほれ、お姉さんに聞かせてくれやぁ……」

「私も是非とも聞きたいな」

「もう♪ 六華ちゃんと峰子ちゃんの知りたがり屋さんめ♪ えっとねー? 私と長ちゃんがむきゅ!」

「ハイハイハイハイ! この話は終わりました! 竹つんもベラベラ喋ろうとしない!」


 愛実さんのナイスストップで、タケトウ暴露は逃れたけど、来亥さんは不服さがダダ漏れだった。


「あんだよー……つまんねーな」

「まぁいいじゃないか六華。洋に愛実、詮索する様で悪かったな」

「分かってくれたならい……ちょっと竹つん。手の平をペロペロ舐めるなよ」

「きふぉえなーい♪」

「たーけーつーん!」


 頬っぺたをそのままモニモニ引っ張られる竹塔さん。

 本当に舐めていたのか、愛実さんの手の平からぬっちゃりと唾液が伸びて、割とガッツリ行かれてた。

 相変わらず反省の色が見えないけど、それで許されるのがコミュマスタータケトウの力なんだと思う。


 遊び半分でワーワー騒ぐ愛実さん達に対し、来亥さんが何か思い付いた顔に。


「あ、そうだ。話せねぇ代わりに、恋バナでもしてくれや」

「こ、恋バナですか? どうしてまた?」

「そりゃ、学校行事で色恋沙汰話は付きもんだろうが。ここらで恋バナの1つや2つして貰わんと、こちとら林間学校に来た意味が薄れんだよ」


 貪欲に漫画題材を求める精神は、本当に尊敬するけど、僕は完全に場違いだ。

 とは言え、恋なんてものを経験したことがない僕は、話そうにも話せない。


 きっと素直に恋バナはありませんって言えば、強めの毒舌を吐かれるし、順番が後々になれば精神ダメージは増し増しになる。

 そうなる前に、それ相応の覚悟の上で白状して、ダメージを最小限に抑えよう。

 意を決し、手を上げかけた時。

 コミュマスタータケトウがズバっと、お手本のような挙手をしていた。


「はい! 私が先陣を切るよ!」

「おぉー積極的な姿勢を評価するぞ、竹塔」

「有難きお言葉! ではでは……あれは中学1年の時……」


♦♦♦♦♦


 ずっと片思いをしていた同級生で幼馴染の疾風(はやて)君に、告白をしようと机の中にラブレターを忍ばせた。

 放課後、屋上で大事な事を伝えたいと、シンプルに意味を含ませたラブレターを。

 そして、待ち侘びる屋上に姿を見せたのは、校内一の美少女百瀬(ももせ)さんだった。

 どうして百瀬さんが来たのか、思い当たる節を思い出すと、緊張のあまり疾風君の隣席である、百瀬さんの机に間違えてラブレターを入れた事を思い出す。


 とんでもないミスに気付いた時には遅く、百瀬さんにいきなりキスをされ、本気で付き合っちゃおうか、と二人だけの秘密の関係が……


♦♦♦♦♦


「おい。花咲(はなさき)エミリー大先生の大人気少女漫画、純情メモリーラブじゃねぇか!」

「あ、バレちった♪」

「冗談は乳だけにしとけ!」

「にゃ!?」


 本気目のビンタを胸に食らった竹塔さんは、ウソ泣きでぐすんぐすんと、滝さんの胸に顔を埋めていた。

 語りが上手だったから、割と本気で信じていたけど、よくよく考えたら現実味はなかった。


 ともあれ、今度は僕が白状する番だと、手を上げようとしたら、お風呂から上がって来た風渡さんがバンガローに帰って来た。


「ただいまー! 皆して何してんだ!」

「おぉーありすか。お前の恋バナ聞かせてくれよ」

「私の恋バナか? 私は生まれてこの方、ずっとスポーツに恋してるぜ!」

「そういうのはいらん! 次ぃ峰子ぉ!」

「私か? んー……異性に恋したという経験がないから分からんな……」

「わたくしは何時だって姉様に恋してます!」


 何故か寝室から現れた蘭華さんだけど、峰子さんの北高ジャージを勝手に着ている。

 頬が紅潮し、息も何だか乱れて、変態感を隠しきれていない。


 そんな蘭華さんは言わずとも、来亥さんの手によって外に放り出されていた。

 妥当な対応な筈だけど、一体どうやって入って来たのかが、気になって仕方がない。


「はぁはぁ……つ、次はどいつだ」

「ハーイ♪ 私は~年中無休で、よー君に恋してまーす♪」

「ワタシも洋チンに一途だよん。子供はサッカーチームが出来るぐらい欲しいのねん」


 今度はふーちゃんとひーちゃんが、僕の背後に現れて乱入してきた。

 そのまま僕を抱き締める要領で、本日何度目かになる背中胸押し当てをされた。

 しかも相手が幼馴染でお嫁さん候補の2人。

 容赦のないダブルアタックで、それはもう背中が幸福に包まれている。


「こ、この不法侵入者どもがぁあ!」


 ポイポイと2人を玄関から追放した来亥さんは、肩で息をする程、苛立ちを露わにしてる。

 まるで逆鱗に触れられる寸前の龍だと、到底白状できる空気感ではなかった。


 ただ、そのまま外の空気に当たり、苛立ちを静めているから、もう少し待てば大丈夫そうだ。


 それにしても、蘭華さんといい、ふーちゃん達は一体どこから内部に侵入してきたんだろうか。

 バンガロー内をキョロキョロ見渡し、侵入経路を明かそうとする最中。

 静まった来亥さんが戻ってくる背後に、あの人がニヤリと姿を見せていた。


「てか~六華ちゃんの恋バナはどうなんだい?」


 そう、湯上り呉橋会長が、来亥さんの肩を組みながら現れたんだ。

 絶対に内部の会話は、外にいた呉橋会長に聞こえてなかったのに、どうして恋バナだと分かっているのか、不気味でたまらない。


 で、確かに呉橋会長の言葉に一理はあるも、来亥さんがそう易々と恋バナを語る訳がないと、その場にいる皆が思ってるに違いない。


「く、呉橋会長……い、いつの間に……」

「まぁまぁ~で? YOUは恋……してるのかい?」

「……こ、恋とは違うっすけど、憧れの人はいます……」


 あの来亥さんが乙女の如く、頬を染めてらっしゃる。

 思いもよらぬ反応に、僕らは前のめりで聴覚を澄まし、来亥さんの言葉を静かに待った。


「ほぅほぅ……で、お相手様はどちら様で?」

「え、えっと……み、緑子真中大先生……っす」

「ミドリコ……マナカ……あのシャドーストーリーを連載してた?」

「う、うっす……」


 漫画家を志す者なら、大ヒット作を描き上げた緑子先生に憧れていてもおかしくはない。

 でも、それだけを告白するぐらいなら、肝の据わった来亥さんにとっては余裕だった筈。

 のに、実際には頬を染め、もじもじと初心さが全開で、まるで恋する乙女にも見えた。


 もしかすると来亥さんは、緑子先生に対する憧れが、恋に近いものだと気付いていないのかも。


「あー……六華ちゃん。君の反応から察するに、憧れってよりかは愛情なんじゃね?」

「あ、愛情?! さ、作品は本当に好きですけど、愛情が芽生える程ではな」

「ダウトォオ!」

「ひょ!?」

「いいかい六華ちゃん! 憧れは言っちゃえば、ふとした瞬間に我に帰ってしまう、一時の夢! けど、愛情は手放さない限り、ずっとあり続ける夢なんだよ! だからもう一度聞くよ! 君はどっちなんだい!」


 ガッツリと向き合って、肩に掴み掛かる呉橋会長は、誰目線で物言いしてるのか、見守る僕らの視線は至って冷静そのものだ。

 2つの選択を迫られ、みるみる顔が赤くなる来亥さんは、息を飲み込んで答えた。


「そ、そんなの……愛情しかないっすよ……」

「ブラボォオオオ! 皆も拍手せい!」


 仕切りたがりの面倒臭い盛り上げ隊長に従い、来亥さんに惜しみない拍手を送らせて貰った。

 内心何をやっているんだろうと思う反面、憧れと愛情の違いに共感する自分がいた。

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