表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
積木君は詰んでいる  作者: とある農村の村人
19章 詰んでいる林間学校の買い出し
110/147

110話 直らない姉、素直に嬉しいお向かいさん、無断拝借の日焼け女子、やらかすコミュマスター

 土曜日の今日は、林間学校の買い物の日だ。

 買い物メンバーは勿論、一緒の班の女性陣8人で、予約詰みと言っても差し支えない。

 楽しく買い物が済めば良いけど、僕には責任重大ミッションである、女性陣8人分の水着選びがある。

 全く楽しめる余裕なんてあったもんじゃない。

 

 だからせめてもの足掻きとして、今日までの数日間は、夜な夜などんな水着があるのか、どんな褒め言葉を言ってあげればいいのか、リサーチしまくった。

 丸腰で挑むよりかは数段マシ精神が、もし不発に終われば精神的に死ぬ自信がある。


 そんな心持ち様の中、僕は今玄関鏡の前で、何度も身形を確認中だ。

 ラフな夏服に帽子、ワンショルダーバッグ姿と、オーソドックスに忠実と言わんばかりの服装だ。

 何故ここまで入念に確認しているかは、ちゃんとした理由がある。


 ただでさえ8人の女性陣の中に、男が1人混じって浮いているんだ。

 服装も浮いてしまえば、それこそ外野から異物と見られ、一緒にいる皆にも迷惑を掛ける。

 挙げ句の果てに行き着くのは、お友達終了のお知らせだ。


 それだけは絶対に避けたい一心で、こうして身形を確認しています。


♦♦♦♦♦


 ようやく納得すると、背後から足音がペタペタと接近していた。

 空だと思って振り返ると、Tシャツが前後ろ逆な姉さんが、クールに立っていた。


「洋。今日は朝から30度超えだから、こまめに水分補給するのよ」

「うん。それより姉さん」

「ん? なにかしら?」

「Tシャツ、前後ろ逆だよ」

「あら。だから息苦しかったのね」


 その場で脱衣して、モゾモゾと着直す姉さんは夏場になると、よくTシャツ姿になるから、今と同じ光景が頻繁に起きる。

 無事に前後ろは直ったのだけど、今度は裏返しに着ていた。


「どう? 直ったかしら」

「あー……今度は裏返し」


 やっとこさ普通に着れた姉さんから、冷え冷えのカルピソを受け取った。


「ありがとう姉さん」

「いいのよ。ほら、そろそろ時間でしょ」

「あ、本当だ。じゃ、いってきます」

「いってらっしゃい」


 姉さんに笑顔で見送られ、気分良く玄関を出ると、インターフォンを押しあぐねている霞さんがいた。

 とても集中してるのか、僕が玄関から出てきた事に、一切気付いていない。

 このまま横を通り過ぎても気付かなさそうだから、僕の方から挨拶をした。


「おはようございます、霞さん」

「ひゃぁ!? つ、積木! お、おはようさん」


 可愛らしい驚き方を披露した霞さんは、手をパタパタ仰いで、必死にクールダウン。

 そんな姿に微笑ましく思う一面、霞さんのファッションにも自然と視線が行く。


 ミニデニムスカートに黒Vネックトップス、ビッグショルダーバッグを肩掛け、チョーカーを合わせた涼感あるシンプルな大人コーデ。

 厚底のウェッジサンダルもあって、僕との身長差がよりハッキリしてる。


 ザッと見終わったのと同時に、僕はとある事を脳内に過らせた。

 今ここでリサーチした褒め言葉を、誠に勝手ながら披露して、霞さんの反応がどんなものかを試したいと。


 申し訳ない気持ちを抑え、いざ褒め言葉を言おうとしたが、クールダウンを終えた霞さんが、ニヤニヤと僕の事を見ていた。

 もしかすると、ザッと見ていたのに気付いていたのかも。


「どうした積木ー? あーしに見惚れてんのかー」

「あ、いや……その、綺麗で大人っぽいなーって……すみません」


 数日間のリサーチが台無しな、ありのまま過ぎる褒め言葉に、僕は自分自身を三日三晩(けな)してやりたかった。

 チラッとどんな反応なのか確認すると、どことなく顔が赤らんでる気がした。


「なぁ積木」

「は、はい!」

「何でもかんでも謝んなよ。素直に褒められるって、かなり嬉しいもんだからな」


 元気良く僕の背中をパシパシ叩く霞さんは、さっきよりも顔が赤くなってる。

 

「てかー早く行かね?」

「で、ですね」


 確かにじりじりと暑い日差しの下で、立ち話するのはあまり利口じゃない。


♦♦♦♦♦


 最寄り駅に向かいながら、どんな物を買うかで盛り上がる僕ら。

 霞さんは友達との花火に憧れ、花火を大量買いする為、大奮発する気満々みたいだ。

 そういった機会に恵まれなかったからこそ、誰よりも憧れが強いのかな。

 だからじゃないけど、これからは沢山の楽しい思い出が作れる様、微力ながら力になりたい。


 途切れない会話の中、最寄り駅に着くや否や、丁度のタイミングで電車が来た。

 足早に乗り込んだ僕らは、()いている車両で優雅に腰を下ろし、車両内の冷房を堪能。


「人のいねぇ休日は、すげぇ快適だなー」

「ですね……もう外に出たくないです」

「同感ー」


 リラックス状態で電車に揺られ、再び話に花咲かせ10分程。

 愛実さんが元気満々で登場、挨拶代わりに僕達にハイタッチをしてくれた。


「イエーイ! 積っち! カスミン! おはろす!」

「おはようございます」

「よぉ。愛実は元気過ぎだな」

「今日が楽しみ過ぎてハイになってんの! ははは!」


 元気な姿がここまで似合う愛実さんは、僕の隣に座り、肩と肩が触れ合う距離間まで詰め寄って来た。


 そんな愛実さんの服装は、ブラックの肩出しフリルトップスに、ベージュのリネンショーパン姿と、夏を過ごすのにぴったりな大人可愛いコーデだ。

 普段見えない日焼け跡と白肌のコントラストにも、何だかドキドキが止まらない。


「あら。積っち、汗掻いてんじゃん。暑いんか?」

「えっと……まぁ、はい……少し距離間を開けた方がいいですよ」

「別に気にしないし。あ、汗といえばこれで解決じゃん」


 ガサゴソとハンドバッグを漁り、制汗シートを取り出した愛実さん。

 

「はい積っち! 好きなだけ使ってくれ!」

「あ、ありがとうございます」

「あーしもいいかー?」

「どぞどぞー!」


 霞さんと1枚ずつ有り難く頂き、腕や首を拭いてると、ふと気になることが。

 普段愛実さんは柑橘系の匂いがする物を、よく使ってるけど、制汗シートからは石鹸の匂いがするんだ。

 

「石鹸のいい匂いがしますけど、気分変えですか?」

「いんや、それ姉貴の制汗シート」

「こ、小乃美さんの……」


 どうやらお気にの柑橘系冷却スプレーが切れ、今日だけ代用品として小乃美さんの制汗シートを無断拝借して来たらしい。


「とまぁ、そんな経緯があった訳だが……2人も巻き添えです」

「ちょ!?」

「マジかーまぁ、ダチの為なら一緒に死んでやんよ」

「カスミンの友情信頼ヤバ」


 ケラケラと楽しそうに笑いながら、責任をとる件は冗談だと、陽気にボディータッチを添える愛実さんだった。


♦♦♦♦♦


 30分以上電車に揺られ、都心近くの駅で降車した僕らは、集合場所のモックバーガーへと足を向けた。

 5分弱後、モックバーガーに到着して早々に、集合場所の2階イートインスペースに行くと、奥のテーブルで1人、シェイクを飲んでいる来亥さんがいた。


「あ! 1番乗りは六っちゃんか!」

「ん? なんだ、お前らか」


 サッパリした反応の来亥さんは、ミント色のシャツワンピースのシンプルコーデながらも、清潔感が抜群なコーデだ。

 今回は胸潰しのインナーを着用していないのか、立派なお胸が主張してる。


 そんな来亥さんに向かって、元気良く抱き着く愛実さん。

 が、来亥さんはあからさまに不機嫌なご様子だ。


「おい愛実。クソあちぃーのに抱き着くな」

「むぇ」


 愛実さんの顔を手で退けたけど、妥当な対応だと思った。 

 そんな光景を横目に時刻を確認すると、集合時間までまだ30分以上あった。

 気長に時間を待つにしては、物足りないと思い立ち、来亥さんを真似てシェイクを買いに行く事に。


「ちょっとシェイク買って来ますね」

「あ、私も行くわ!」

「あーしもー」


 来亥さんに背を見送られ、階段を降りていると、山盛りポテトを片手に階段を上がる、竹塔さんと鉢合わせた。


「あ! おはよー皆! 来るの早いね!」

「おはろす竹つん!」


 キャッキャと愛美さんと喜び合う竹塔さんの姿は、白のワンショルダータンクトップに、アイボリー色のシャツワンピを羽織り、ベージュのフロントスリットパンツ、黒のミニポシェットとサンダルのコーデだ。

 適度に肌見せする事や、トップスインでウェスト位置を強調してるのもあって、大人っぽく引き締まった印象だ。


「まだ愛実ちゃん達だけかな?」

「六っちゃんがいまーす!」

「了解でーす!」


 陽気な足取りで階段を登る竹塔さんだけど、目がキラッと光っていた気がする。


♦♦♦♦♦


 1階に着き、ラッキーな事に他のお客さんは並んでおらず、カウンターへ一直線。

 注文と代金支払いを済ませ、キンキンで冷え冷えなシェイクをそれぞれゲット。


 喉が程良く乾いたのもあって、僕らは戻る前に少し味見。

 バニラの濃厚な甘味と、シェイク特有の細かい氷粒が、体の内側から一時の納涼を堪能させてくれる。

 2人も美味しそうな顔で、シェイクの味見を有意義に楽しんでる。


 幸せな味見後、シェイク片手に2階に戻ると、案の定、竹塔さんがやらかしていた。


「たーけーとー! はーなーれーろ!」

「ふっふっふ……六華ちゃんの温もりと柔さは私の物だ!」

「胸で頬擦りすんな! 擽ってぇっての!」


 さっきよりも肌艶が増してる竹塔さんは、来亥さんに抱き着いたまま離れる気配がない。

 ただ、このままだと他のお客さんや、お店に迷惑が掛かりそうで、僕ら3人で来亥さんを救出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ