スーパーイカレブラザーズ2 『 日 本 刀 と ツ イ ン テ ー ル 』
本作は短編『スーパーイカレブラザーズ』の続編です。
読んでいても読んでいなくても、多分楽しめますが
合わせて読んでいただけると幸いです。
前回のあらすじ。
学校で先生と喧嘩寸前の弟を、
ワルキューレーの騎行の音楽に乗ってしばきました。
弟は奉仕作業をして、何とか退学は免れたそうです。
今回は奉仕作業を終えたところから物語が始まります。
学校一の奇人、原田 優茂の朝は早い。それは一重に己の能力をフルに使い、
学校全体の平穏を守っているからに違いないと、
弟である原田 優茂は考察している。
「貴様、バイクで通学とはいい度胸だ。喰らえ、男色ドライバー!!」
「ギャァァァァァァァァァァ!!」
今日も朝から教師に混じり、校門にて
顔にはトレードマークのベネチアンマスクを被り、
赤い褌一丁で不良生徒を〆ている。
男色ドライバーとは、男色ディーノというプロレスラーの必殺技で、
自分の下着の中に相手の頭を突っ込んだ状態で
地面に打ち付けるという、肉体的にも精神的にもダメージを与える技だ。
「ごー愁傷ーさん。」
原田 優後は誰に聞こえるわけでもなく、ポツリと呟くと
早々に現場を立ち去ろうとした。
変態の兄のことは非常に苦手だったし、
バイク登校などという個性を得ようとする若者はもっと苦手だ。
兄に負けない、自分独自の個性とはなんだろう。
個性の強い兄にコンプレックスを抱きながら優後は生きてきた。
耳にピアスを空けたり、髪の毛を染めてみたり、色々やってはいる。
しかしこの程度で変わるようなものを個性と呼ばない。
己の個性とは一体なんぞや。
そんな人生の議題を考えながら歩いていると、大きな女の子の声が耳に届いた。
「そこまでよ、このド変態!!」
正論だ。しかし、この正論は優後の胸に大きく響いた。
原田 優茂の異質さは、異常という言葉を通り越して、
学園内ではカリスマを生んでいる。
それはある種新興宗教と化しており、優茂は教祖に近い何かとして
学園で正義の鉄槌を奮っているのだ。
そんな兄に対し、変態というド正論を吐ける人間は学園に中々いない。
聞き覚えのない声の主は一体誰なのだろう。
その思いに駆られた優後は振り返ると、
長く艷やかなロングツインテールが視界の先で揺れた。
そして、頭の中心から少し下に下がった所にある少女の
露わになったうなじが余りにも美しかったため、
周囲のうなじフェチ達の男たちは一斉に目つきを変えた。
「原田 優茂! 今日こそアンタを更生させて、この学校の風紀を正すわ!!」
後光が差した。思わず優後はそう錯覚した。
その後ろ姿が咲き誇る竜胆の様に凛としていて、指はピンと真っ直ぐ優茂を指す。
そんな少女の姿は、優後には余りにも真っ直ぐ写ったからだ。
「おお真島 要委員長か。喜べ、今しがた校則違反を成敗したぞ。」
「何が、喜べよ!アンタもその格好は校則違反でしょ!?
この破廉恥ド変態ッ!」
要は額の血管を浮き上がらせながら、手厳しいツッコミを放つ。
しかし優茂は両手を腰に当て仁王立ちの姿勢で腹の底から声を上げた。
「 私 の ど こ が 変 態 だ ! ! ? ?」
「 ど こ も よ ! !」
「私はソ○トバンクだ!!最近○ポイントからP○○P○○にポイントが変わったことは
絶対に許さんぞ、白○家!!」
「誰が携帯電話のキャリアの話をしたのよ! アンタの格好の話をしてるのよ!!」
ふ、振り落とされない!!
優後は思わず手汗を握った。
一般人であれば大手携帯三社の話に話が飛んだ時点で、
話のステージから振り飛ばされるのに、
優茂の話に付いていき、的確なツッコミを入れた。
この女、只者ではない!
優後は鋭い視線でその背中を見つめた。
「改造制服を拵えたりする連中は大勢見てきたけど、
赤いふんどしに、妖しいマスクで登校してきたのは今までアンタだけよ!
今日という今日はアンタに目にもの見せてあげるんだから!!」
「待て、要委員長! 私の履いているこの赤い褌は駅前の呉服屋の名産品だ。
つまり私は特産品をこのようにしてPRして、地域貢献活動をしているのだ!!」
「アンタが褌を履けと構わないわ!
私はズボンを穿けって言ってんのよ!」
「この学校の制服はこの学校以外にPR出来ないぞ!」
「PRのために穿けって言ってるんじゃない!
風紀のために着ろって言ってんのよ!!」
地域活動を盾に自身の格好を正当化しようとする所に
普通の人間ならば出来ないだろう。
しかしそれを通そうとするのが優茂で、
なんなら今までそんな無茶を通してきたのを
優後は一番近くで見てきた。
しかし今回の相手、真島 要は通さない。
まるで鉄壁の守護神だ。前世は藤○ 球○かもしれない。
というかそもそも○川 ○児は死んでない。
「あ、あんな所に野生のバカッターが!!」
「え?」
一体誰が引っかかるのだろうか、という子供だましの芸当を
真剣な顔つきをして全力で行うため、優茂の得意技になる。
周囲の人間が一斉に指を差した方向を見ると、
駐輪場から出てきた生徒が大きく欠伸をしていた。
「……なんにもないじゃない?」
不思議そうに要が視線を戻すと、既に優茂はいなかった。
全力疾走で駆け抜けたその背中がはるか先にある。
「ま、待ちなさい!!」
「え、今から追いかけんのか?」
どうやっても追いつけなさそうな距離にいるのに、
目の前の少女は全く諦める様子はなかった。
ロッ○ーかこの女。
そんな少女の必死な姿に、優後は思わず声を出してしまった。
「当たり前よ! アタシの目の黒い内は
絶対アレを許さないから!!」
そう言うと要は、制服と背筋の間に隠していた細長い物体を取り出した。
うなじをなぞるように出てきたそれに、優後は思わず後ずさりする。
「いやいやいやいや、ちょっと待て!!!」
少女が右手で携えるそれは、誰がどうみても日本刀だった。
もしかしたら3次元と2次元の区別がついていないのかもしれない。
確かに現代日本における、アニメや漫画の表現力は凄まじいが、
生きている人間を日本刀で切りつければ、
あっという間に死体が出来上がる。
「今度はなによ?」
「刀は流石に駄目だろ!!」
「校則に日本刀を持ってきてはいけないって書いてないわ!!」
要は自信満々に要は言うと、地面を蹴りだし、加速。
あっという間にその背中は小さくなった。
「校則よりも先に日本国憲法を守れ!!」
ツッコミを入れながらも、優後は要のことが気になった。
今までみたこともない少女だったからだ。
ゆらゆらと揺れるツインテールを視界に捉えながら
優後はその背中を追いかけた。
「ーー見失ったわ!」
少女は校舎の裏までやってきた所で、息を切らして立ち止まった。
速い。女だてらに男の優茂に負けず劣らずのペースで
駆け抜けるこの少女に、優後はただただ関心すると同時に、
少女もまた優茂と同じ怪物の部類なのではないかという疑問を持ち始めた。
「撒かれたなぁ。」
「あら、アンタ。追いかけてきたの?
もしかしてストーカー?」
「人聞き悪すぎるし、だとしたら見つかった時点でストーカー
失敗してるじゃねぇか。」
全力で走っていた要の視界に、優後は映らなかったらしい。
ナチュラルにストーカーと呼ばれるのは初めてだったので、
優後は思わず苦笑いをした。
「だとしたら自己紹介でもしましょう。
アタシは真島 要。この学校で風紀委員帳をやってるわ。」
「俺は原田 優後。アレは俺のアニキだ。」
「あぁー噂は聞いてるわ。
こないだ先生ぶっ飛ばそうとして優茂にぶっ飛ばされたっていう。」
入学して早々の出来事だった。
優後にとって禁句に近いセリフがあり、それを言った先生を相手に
喧嘩をおっぱじめた所を、優茂に止められぶっ飛ばされたのだ。
因みに最近ようやくその奉仕作業が終わり、晴れて自由の身である。
「おうよ。こないだようやく奉仕作業が終わったところだ。
なかなか個性的だろ?」
「アンタ個性って言葉の意味履き違えてるわよ。
まぁそれは優茂もなんだけど。」
やれやれ、と要呆れ顔で言った。
お前も校則と法律と守る順序を履き違えてるぞ、という言葉を
喉元まで引っ込めた時だった。
「ーー真島、要だな?」
不意に出た野太い声と共に、どこからともなく男たちがゾロゾロと現れた。
男たちはみな風貌に難があり、控えめに言って要が粛清しそうな人間ばかりで
手には鉄パイプなどを携えている。恐らく平和主義者ではなさそうだ。
「アンタ達、確か……。」
「風紀委員長にしばかれて退学した被害者の会だよ。」
リーダー格の恰幅のよい男は口元をにやつかせた。
なるほど。優後は手を叩いて納得した。
「女の子にボコられたから武器持ってきて、皆でリンチしに来たわけだ。
お前ら、負け犬個性が溢れかえってんぞバーカ。」
「うるさい! ていうかお前誰だ?」
ピキッ!
ス○イムの鳴き声ではない。優後の理性の糸がブチ切れた音だ。
お前誰だ、という言葉は、個性というものを求める優後を
不快にさせる10のワードの一つに違いない。
「ーーよかろう、教えてやる。お前らをぶっ飛ばす男!
原っぱの原に、田んぼの田! 優れるの優に、午後の○茶の後で
原 田 優 後 じゃ、クソ野郎ぉぉぉぉ!!!」
セリフの途中から学生カバンを投げ捨て、地面を蹴りーー跳躍。
優後のドロップキックを皮切りに、乱闘が始まった。
学園の超人と呼ばれる優茂の弟だ。兄に劣るとは言え、
その身体能力は、普通の男子高校生を圧倒出来る程高い。
拳を振るい、ちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返していると、
先程の男の声が空間全体に響いた。
「そこまでだ! 原田!!」
「ーー!!」
振り返ると、要は羽交い締めにされて捕まっていた。
優後は鋭く視線を尖らせるも、太った男は余裕たっぷりの顔で返してきた。
「アンタ強いんじゃないのかよ!」
「アンタが3人相手にしてる時に10人に囲まれてのよ!
バカじゃないの!?」
「いやそこは、日本刀持ってるんだから
なんちゃらの呼吸奥義みたいなのやってくれよ!」
「そんなもん出来るわけないじゃないの!!
アンタもしかして2次元と3次元の区別出来てないんじゃない?」
「おしゃべりはそれまでだ。
原田、今すぐ土下座すれば許してやる。」
それはこっちのセリフだ。というセリフを吐く前に、男は会話を遮った。
その手には要の日本刀がしっかり握られている。
鞘から出たそれは、刀身がキラキラと輝いている。
恐らく優後が普段眉を整えるのに使うカミソリの300倍くらいはありそうで、
あんなもので切りつけられれば、一生消えない傷がついてしまうだろう。
「いいのか? お前の仲間の風紀委員長の玉のような肌が
真っ赤に染まることになるぜ!」
「ーークソが。」
ゆっくりと膝をおって地面に脛を付けたその時だった。
♪パッパパパーパパッパパパーパパッパパパー♪
どこからともなく音楽が鳴り響いた。
「な、なんだ、これは!?」
その場にいる全員が思わず周囲を見渡す。
音楽の音色は徐々に徐々に大きくなっており、こちらに近づいているらしい。
「これって、ニーベルングの指環第二作、ワルキューレの
第三幕前奏曲、ワルキューレの騎行じゃない!!」
「爆竜○佐のテーマ曲で有名な、あの曲がどうしたんだ?」
クラシック好きの博識達が次々に口を開く中、優後はこの曲の意味を知っていた。
「ーーはぁぁぁぁっっはっはっはっははははははは!!!」
甲高い高笑いが、音楽のメロディーを遮った。
この声に聞き覚えしかなかった優後はしかめっ面のまま動かない。
「どっから出てくるんだーークソアニキ。」
言葉を最後まで言う前に、優後の身体は空中に浮いた。
否、浮いたのではない。下から打ち上げられたのだ!
「貴様はこの小説を青春スプラッタコメディーにするつもりかぁっ!?」
マ○オばりのハイジャンプで飛び出してきた優茂は、上空をで吠えあがった。
男たちは表情を固くし、要は呆気に取られ、優後は上空にて優茂の股間の位置で
真顔でその台詞を聞いた。
勢いが余りすぎて、優茂の着ていた褌が取れてしまったからだ。
今一度状況を説明すると、ワルキューレの騎行のメロディーに乗って
どうやってかは不明だが、地面から全裸のベネチアンマスクを被った
謎の男が現れたということだ。
優後が地面に叩きつけられると同時に、この場の全員が我に帰り、
状況を脳内で整理して口を開いた。
「な、お、お、お前、原田 優茂かぁ!?」
「サラダヴァー!!」
「は?」
疑問を顔に浮かべた瞬間、男の口に生の人参が飛んできた。
「その通りだ! と言ったのだ!!」
「意味が分かるか!!」
口から人参を取り出して必死にツッコミを入れた男だったが、
非常にも再び野菜が飛んできた。特大のカボチャである。
真正面からまともに喰らった男は泡を吹きながらぶっ倒れた。
「ナイスツッコミだ。貴様には褒美に実家の隣で勝手に育っている
空き地特産! 素敵なお野菜セットより、カボチャと人参をくれてやろう。」
「ついていけねぇよ、クソ兄貴!」
起き上がりながら突っ込む優後の口に人参が飛んできた。
そんなやりたい放題の二人に対し、遂にリーダー格の男が口を開いた。
「ーー待て待て待て待てぇぇい!! お前らよく聞け。
こっちには人質がいるんだぞ。次にちょっとでも動いてみろ。
こいつに刃を突き刺すからな!」
荒々しく矢継ぎ早に言い切ると、一気にその場が静まり返った。
聞こえてくるのは、リーダー格の息切れした呼吸音だけ。
そんな状況の中で、優茂はただじっと男を見つめていた。
「な、なんだよ。」
「ーー貴様、分かってないらしいな。
否、理解していないならこの私が教えてやろう!」
語気を強めに言い放つより先に、優茂は動き出した。
しかしそのことに気づけている人間は、この場にいない。
優茂が手にしているのは大根だ。それはそれは立派なもので、
八百屋ならば叩き売りをしているレベルの代物だ。
そんな立派な大根で、リーダー格以外の男たちの側頭部をぶっ叩く。
目にも止まらぬ速さで優茂は次々と雑魚をなぎ倒し、
先程の台詞を言い終えるその瞬間に、リーダーの目の前で仁王立ちをした。
「あ、あ、……ああぁぁあぁ。」
「この小説は、ス ー パ ー ギ ャ グ コ メ デ ィ 小説なのだ。
私はそれを崩そうとする輩をなんぴとたりとも許さん。
貴様……私を本気にさせるなよ。」
「う、う、う、うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「キャっっ!!」
明らかに恐怖抱いた男は、それでも優茂につっかかっていく。
捕まえていた要を振り払い、持っていた日本刀を振りおろした。
「 天 ○ 龍 閃 ! ! 」
「ヴルァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「それは逆刃刀の奥義だろうが!!」
優後のツッコミが響き渡る。それが戦いの終わりの合図だった。
屍ーーではなく、ただ気絶をしている男たちの山が築かれ、
それを一瞥することなく、全裸の優茂は立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
その後ろ姿に、要は思わず声をかけた。
優茂は立ち止まり、振り返る。その口は何故か忙しく動いている。
「☆野菜はスタッフが美味しくいただきました☆」
「いやスタッフって誰だよ!!」
「野菜よりも先に服を着なさいよ!!!!」
ツッコミを聞くと、優茂は満足そうに頷き、今度は振り返ることなく走り去った。
「ーー全くめちゃくちゃね。優茂って男は。」
「まぁ。悪いやつじゃねぇってことだけが唯一の救いだな。」
その背中が完全に見えなくなった時、二人は思わず顔を見合わせて言った。
この時、優後は初めてちゃんと要の顔を見た。
大きな黒目が特徴的な、二重の瞳。色白で真っ白な肌。艷やかで色っぽい唇。
それは圧倒的美少女だった。
「こ、これからもあのバカをよろしくな。
アンタみたいに、優茂と真っ向勝負出来る人間中々いねぇからさ。」
見つめていた時間が長かったか、短かったか、優後には分からなかった。
少なくとも、思わず見惚れていたことは確かで、誤魔化すように顔を背けて
立ち去ろうとした。しかし要はその手首をガッチリ掴んだ。
「待ちなさい。アンタ、耳にピアス付けてるわね?」
「は?」
「ウチはピアス禁止のはずよ。」
先程までにこやかだった笑顔は、ゴゴゴという効果音と共に険しいものへ変わっていく。
「い、いやそこは、ほら。なんか、今のよしみで……。」
「問答無用!!」
地面に転がっていた刀を拾い上げた要を見て、優後は何とか手を振り払って、
一目散に逃げ出した。
「待ちなさい!!」
「待つかバカ!!」
優後は一瞬でも心をときめかせたことを後悔した。
最後までご愛読ありがとうございます。
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