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第6話 ヒノを鍛えます

ヒノが実体化できる時間を増やすため、角うさぎ相手にレベル上げを始めます。


追記

11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。

ぺちぺち


「ん?」


誰かが、シュリナの頬を優しくたたいている。


『まあま、まあま』


「ん…おお、ヒノ」

『おはようございましゅ』

「うむ、おはようなのじゃ。おお、もう実体化しておるのか」

『まあまを、おこしたかったからなの』


「かわいいやつじゃー」


なでなでなでなで


『んふふふー』


ヒノは眼を細めて微笑んでいる。


「起きたか。さて、ヒノ。あんまり時間が無いから、今朝は食事だけだな。これからは実体化している時間でわずかでも訓練をしていこうな」


『うんっ』


「おお、うまそうじゃの」


テーブルにはサンドイッチの載った皿が置いてある。


「宿屋の朝食はパンとスープだけだったからな。部屋に持って帰って、サンドイッチにした」

「すごくきれいに作ってあるのじゃ。おお、これはうまいのう!」

『おいしいのー』


「アキラよ、わらわも、つ、つま、、、ヒノの母親として、料理を覚えたいのじゃ」

「そうだな。子供には母親の手料理が一番だからな」

『まあまのごはん、たべるのたのしみ』

「うむ、楽しみにしておるのじゃぞ」



食事を済ませると、アキラとシュリナは冒険者ギルドにやってきた。


「Dランクの依頼はいろいろあるのじゃな」

「いや、今日はこの依頼を受ける」

「角うさぎ退治じゃと?Fランクではないか」

「それでヒノのレベルを上げれば、もっと長く実体化できるだろ」

「そうだったのじゃ!それがいいのじゃ!」



「アキラさんたちでしたら、複数の依頼を一緒に受けていただいてもよろしいのですが?」


Fランクの依頼1つしか受けないのを見てそう言うギルドの受付嬢。


「いや、今日はこれでいい。ここへ来たばかりだから、町の中を回ってみたいからな」

「それでしたら」

「アキラ、早く行くのじゃ。ヒノが待っておるのじゃ」



町から出て、昨日アキラたちが転移してきたところとは違うところにある山の中。


「おお、居るのじゃ。角うさぎなのじゃ!」

「ウサギと言っても、あの顔つきは可愛くないな」

「可愛かったら、殺しづらいのじゃ」


「よし、まず俺が弱らせる。そしたらヒノがこの槍で叩く・・」

槍と言ってもヒノにちょうどよいサイズなので、短槍と言った方がいいかもしれない。

アキラが手持ちの武器を能力で変形させて作った武器だ。


「槍なら突くのではないかの?」

「いや、ヒノはまだ非力だから叩くほうがいい。突いて刺さったら抜くのが大変だからな」

「それなら、剣とか手斧とかにしたらどうなのじゃ?」


「いや、小柄なヒノは、攻撃をかわしつつ、槍で相手の急所を狙うのがいいだろう。強くなってこれば、いろいろな武器を使えるようになってもらうが」

「ヒノ、がんばるのじゃ」

『うん!』



アキラが角うさぎの角を「素手で」へし折り、足を折って動きを鈍らせる。

それを小槍を持ったヒノが何度も叩いて仕留める。

それはあたかも、猛獣の親が、弱らせた獲物で子どもの狩りの練習をさせているかのようだった。



『ヒノ、なんだかつよくなったかも』

「レベルアップしたのかもしれないな。どれどれ、おっ!」

「アキラはずるいのじゃ。わらわも見たいのじゃ」

「それなら、シュリナに『看破』を教えることにしようか」

「どうやって教えてくれるのじゃ?料理ならともかく、看破とかのスキルは教えられて身につくのかの?」

「多くのスキルは教われば身に付くが、習得するのにかかる時間や手間はスキル次第であり、教える者や学ぶ者次第だ」

「看破はどうなのじゃ?」

「看破は基礎魔術の系統だから、魔術に対する素養が有れば使える」

「おお!」


基礎魔術とは、魔法を使う者が最初に学ぶものであり、個人の得意属性とかに関係なく使用することが出来る。

黒魔術、白魔術、精霊魔術などはそこからの応用として学ぶのだ。


「一番楽なのは、看破のスキルを使えるようにする魔法陣を利用することだ。俺は『魔法陣作成』のスキルを持っているから、しばらく時間が有れば準備はできる」

「どのくらいかかるのじゃ?」

「俺の『魔法陣作成』はレベル1だから、看破なら4時間くらいかかるな」

「結構かかるのじゃな」

「そもそも、『魔法陣作成』がレベル1でスキル伝授用の魔法陣なんて作らないからな」

「すまないのじゃ」

「気にするな。夜ごはん食べたら作ってやるよ」

「やったのじゃ!」



「それでヒノのステータスはどうなのじゃ?」

「こんな感じだな」


アキラは手帳を取り出すと、そこにヒノのステータスを書いていく。


名前 ヒノ(仮)

種族 なし

スキル 実体化 レベル2 1日3回 各15分。残3分

棒術 レベル0

槍術 レベル0


「名前が(仮)なのは生まれてから付け直すことができるとか、名字が付くってことだろうな」

「名字…わらわも変えたほうがいいじゃろうか?」

「この世界で夫婦の名字が同じか違うかってのはまだ聞いていないからな。それを調べてから考えよう」

「わかったのじゃ」


普通に肯定されていて、ちょっと嬉しそうなシュリナ。


「あと、ヒノはまだ生まれていないから種族は『なし』なのだろう」

「魔族と人間の間に生まれると、種族はどっちになるのじゃ?」

「『魔族と人間のハーフ』とか『魔人』とかになるのじゃないか。正直、よく知らん」

「アキラでも知らないことがあるのじゃな」

「実体化は2レベルで、15分になったな」

「やったのじゃ!これでもっとヒノと触れ合えるのじゃ!」

「あと、棒術と槍術のスキルが出来たな。レベル0というのは、ステータスに補正はかからないし、レベルに対応して自動修得する技もないが、これから練習するとレベルが上がっていくぞ」

「ヒノが強くなるのじゃ!ところで使ってもいない棒術のスキルはどうして出来たのじゃ?」

「槍を叩いて使っていたせいだな。スキルはたまにそういうよくわからない現象が起きる」

「なるほどなのじゃ」

『なるほどなのー』



「さて、あと3分だが、せっかく新しいスキルが出来たのだから、技を一つ教えよう」

『わざ?それってかっこいいの?』

「ああ、見てろ」


アキラは槍を持つと、落とした。


「しまった、持てなかった」

「格好悪いのじゃ!」

『ぱあぱ、かっこわるいのー』

「しかたない、攻撃力のないライトの呪文を変形させて槍の代わりを」


アキラは照明用の呪文を手の平に作り出すと、それを細長く変形させて手に持つ。

しかし、手の中に光の棒はとどまってくれない。


「なんと、これでもダメか。武器と認識されると魔法でも許されないってことか」

『じゃあ、ヒノをもってよー』


そう言って、ヒノが『ひのきのぼう』に変わる。


「よし、これなら持てるぞ」

「待つのじゃ。それでは、ヒノからは体の動きが分かりにくいのではないのかの?」

『だいじょうぶ。どううごくかわかるから』

「体で覚えるとはこの事だな」

「何か違う気がするのじゃ」



「よし、丁度角うさぎが来た。行くぞ」

『うん!』


アキラは襲い掛かってくる角うさぎの攻撃をかわしざま、その膝に突きを見舞う。


「ギャギャッ!」


その動きを止めずに無事な方の足を払い、転ばせたところで、脳天を一撃。

全て一連の、流れるような動きだった。



「機動力を奪い、動けなくなったところを仕留める。基本の技だ」


「技名はなんというのじゃ?」


これは『膝砕きと足払いからの脳天砕き』などというそのままの技名なのだが、


滅脚震頭撃めっきゃくしんとうげきだ」

と、心頭滅却をもじった技名をとっさに付けてみた。


「強そうな名前なのじゃ」

『やってみるの』


そう言ってヒノは人間の姿に戻ったが、あまり時間がない。

そこに角ウサギが突っ込んできた。


「危ないのじゃ!」

『めっきゃくしんとーげき!』


ヒノは流れるような動きで角ウサギの片膝を砕き、もう片足を払い、頭にとどめを与えた。


『できたのー』

「おお、一度で出来るとはヒノは天才なのじゃ」

「もしかして、こうやって教えると、すごくよく覚えられるのかもしれないな」

「それなら、これからもやってみるのじゃ」

『うん』


しかし時間が無くなってしまったので今日はここまで。


1日3回実体化できるが、その内1回をレベル上げ、2回を食事や団らんに使うのだ。



討伐証明部位の角を回収すると、町に入り冒険者ギルドに向かう。もちろんヒノは町に入る前に姿を隠している。


「そういえば、冒険者ギルドの『お約束』がなかったのじゃ」

「あれか?女性連れとか初心者に因縁つけてくる奴」

「そうなのじゃ。ちょっと楽しみだったのじゃ」

「まあ、見た目でやめたのだろう」

「そんなに魅力ないのかのう」

「いや、シュリナは十分魅力的だぞ」

「そう言われると恥ずかしいのじゃ。往来で何を言うのじゃ。まったく困るのじゃ。のじゃ」


その往来で照れまくりのシュリナはいっそう可愛いのだが、それはアキラの心にしまっておくことにした。


「それよりも俺の見た目のせいだと思うぞ」

「確かに、強そうじゃものな」

「それに、あんまり困った冒険者が居ない、良いギルドなのかもしれないな」

「それは良いことなのじゃ」



「ところで、期待していたような話が来たみたいだぞ」

「なんじゃと?」



「おい、お前ら」

「へへっ、可愛い嬢ちゃんを連れてるじゃないかあ」

「今からそこの店に入るんだ。酌をしろよ」


アキラとシュリナの目の前で、軍人3人組が男女2人の冒険者に絡んでいる。


「軍人に気を付けろって忠告されていたが、やはり軍紀が乱れているようだな」

「どうするのじゃ?」

「ヒノがずっと実体化できるまでは目立ちたくないから、表立っては助けないでおく」

「表立っては助けないじゃと?するとこっそりとじゃな」

「しかし、あいつらに感知系のスキルとかがあるとばれるからな。ここは彼らに手伝ってもらおう」

「彼らとは誰じゃ?」

「あれだ」


アキラの指差した先には、カラスが居た。


「すまん、ちょっと頼まれてくれ」


『カア?』

「…ということをしてくれたら、お礼にこの肉をあげよう」

『カア!』『カア!』『カカア!』


カラスたちは喜んで、冒険者に絡んでいる軍人たちの頭上へと飛んで行った。



「へへっ、早く来いよ。うわっ!」

「隊長!頭にカラスのフンが!うわっ俺にも!」

「くそっ、田舎町だからカラスが街中にいやがるのか」

「俺の魔銃剣で撃ち落としてやる!」

「馬鹿野郎!街中でむやみに魔法を撃つな!」

「あっ、逃げやがった」

「どちらにしてもあれじゃあ届かないな」

「くそっ、髪にこびりついてやがる」

「服にも付いてるぞ」

「仕方ない、宿舎に戻るぞ」




「うまくいったの」

「特に魔法を使ったわけでもないから、俺の仕業とはわからないだろ。おっ、戻ってきたぞ」

『カー』『カー』『カー』

「よし、うまくやったな。お礼の肉だ」

『カアアー』

「うれしそうなのじゃ。いまさらじゃが、カラスと会話できるのはスキルなのじゃな?」

「『鳥獣会話』は魔獣以外で知性のある動物と話せるスキルだが、レベル1でこれだけ話せるのは、動物や鳥を色々飼っていたことがあるせいだろうな」

「わらわも知性のある魔獣なら言葉がわかるのじゃが、この前みたいに暴走している相手とかは無理なのじゃ」

「また、強い魔獣が出た時は頼むよ」

「まかせておくのじゃ」



「はい、確かに角ウサギの角、お納めいただきました。これが報酬です」


にこやかにギルドの受付嬢が硬貨の入った袋を渡してくれる。


「次回も角うさぎにするのじゃな」

「そうだな。これは害獣を減らすために常時出ている依頼のようだから、また明日受けるとしよう」

「いっそ3日くらいまとめて受けてはどうじゃ?」

「そういう方法もできるが、おそらくあと1、2回でヒノは普通に角うさぎに勝てるようになるぞ」

「それなら複数の角うさぎを相手にさせればいいのじゃ」

「おっ、シュリナは頭がいいな」

「むふふ、もっと褒めるのじゃ。のじゃ」


そういうわけで、3日分の依頼をまとめて受けることにした。

複数日の依頼なら、前日に受けることもできるシステムだ。


「今晩はヒノを15分触れるのじゃー」

『うん!』

「よし、ひざまくらしてやるのじゃ」

『わーい』


なでなでなでなで


「ふふふふふー」

『えへへへへー』



その様子を見てほっこりとするアキラ。


「シュリナとここに来られてよかったな」

「ん?なんじゃ?」

「いや、なんでもない。ところで、食事はどうする?ずっとなでていたら、食事できないぞ」

「わらわが食べさせてあげるのじゃ」

「いや、それはお行儀悪いぞ」

「アキラはリリカみたいにお小言を言うのじゃな」

「ヒノのためだぞ」

「それなら仕方ないのじゃ」






「そろそろ寝るのじゃ」

「待て待て。やっとできたぞ」

「もしや?」

「そうだ。『看破』を覚えられる魔法陣だ」

「やったのじゃ!さっそく覚えるのじゃ!」


魔法陣を描いてある紙を手に取ると、早速…どうしたらいいかシュリナにはわからなかった。


「これをどうするのじゃ?」

「記憶にこの魔法陣を焼き付ける。じっと見てろよ」

「わかったのじゃ」

「『転写』」


アキラがそう唱えると、魔法陣が光り、それがシュリナの記憶に転写された。


「よし。使ってみろ」

「『看破』!おおっ!」


ヒノのパラメータが見える。


「『看破』!アキラのも、はっ!しまったのじゃ!」


大量のスキルが頭の中に押し寄せてくる!と思ったが、そうはならない。スキルはわずかに3つだけだ。


「た、助かったのかの?」

「今はアイテムでステータスを偽装しているからな」


他の冒険者に看破をされないための偽装アイテムはシュリナだけでなく、アキラもつけていた。実体化したらヒノにも必要になるだろう。



「じゃあ寝るのじゃ。それともまだ何かするかの?」

「本当なら実体のないヒノを呼び出して、武術の基礎を教えてやりたいところだが」

「手をつないだままではうまく教えられぬのう」

「待てよ…つながっていれば手じゃなくてもいいのか」


そう言うとアキラは上の服を脱ぐ。


「つながって…アキラよ!それは、その、だめなのじゃ!」

「(察し)そうじゃなくて、俺の背中に触れてみてくれ」

「こうかの?」


『はーい』


目の前にヒノが現れた。


「やはり、素肌同士で触れればヒノは出てこられるみたいだな」

「それなら脱がなくてもよかったのじゃ!顔とか首を触ればいいのじゃ!」

「武術の型を見せるのに動くから、触れる部分が多い方がいいだろ?」

「それもそうじゃが、いきなり脱ぐのはデリカシーがなさすぎるのじゃ」

「すまなかった。今度から気を付ける」

「わかればいいのじゃ」


それから30分くらい、アキラが型を見せて、ヒノがそれをまねて動いた。


「ヒノを持たなくても、見るだけでも結構覚えられるようだな」

「ヒノは物覚えがいいのじゃ!自慢の息子なのじゃ!」

「観察力と記憶力がいいから、相手の分析も得意になるだろう。きっと強くなれるぞ」

『ぱあぱよりも?』

「そうだな」

『わーい』




「お疲れさまなのじゃ」


シュリナはアキラにタオルを手渡し、さらに濡れたタオルで大きな背中を拭き始めた。


「すまん、汗臭いだろ?」

「アキラのは嫌いじゃないのじゃ」

「そうか」

「(何だか本当の奥さんみたいなのじゃ)」



その晩も三人は仲良く1つのベッドで休んだ。

読んでいただきまして、ありがとうございました。


今日はもう一度18時に更新いたします。

できればもう一度更新できるかな?

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