第25話 ラスボスとの死闘。闇を斬り裂けレッカイオー!
ラスボス戦。
全長100m以上もあった亀のようなモンスターを倒すのに30分かかった。
10層の中ボスの強さもさることながら、そこにたどり着くまでの雑魚すら凶悪な強さだった。
このままではレッカイオーのエネルギーがラスボスまでに付きてしまうかもしれない。
「この塔でやるイベントのためにモンスターを殺さずに来たが、ここではさすがに無理だな」
「アキラよ、さすがに予選でここまで来る冒険者は居ないと思うのじゃ」
「そうだよアキラのおっさん。それに、どうせ真っ暗だからいなくなってもわからないよ」
「シュリナとマーシャの言う通りだな。しかし、どうしたものか?」
アキラはこの先のことを考える。
そもそも真っ暗で、ラスボスの位置がわからない。
明かりとレーダーではせいぜい500mの索敵がやっとだ。
飛ぶにしても地中を行くにしても、情報が少なすぎては下手な行動はとれない。
「とりあえず入り口から前の方へ行くしかないな」
「アキラのおっさん、シュリナさん借りていい?」
「マーシャ、何かいい考えがあるのじゃな?」
「シュリナさんの闇魔法は広域殲滅系なんだよね?」
「さすがにこの10層全域は無理じゃぞ」
「ううん、そうじゃなくて、持っている闇魔法とかスキルを全部教えてもらえる?」
「わかったのじゃ」
マーシャとシュリナは戦闘に参加せず、アキラとカナデがレッカイオーで敵を駆逐していく。
「アキラ!何とかできるかもしれないのじゃ!」
そう言ってシュリナが操縦席に駆け込んでくる。
「本当か?!」
「実はのう」
シュリナの話を聞いたアキラは目を輝かす。
「それならいけるな!」
「わらわの広域殲滅魔法の神髄を見せてやるのじゃ!」
シュリナはレッカイオーの肩の上に乗ると魔法の詠唱を始める。
「蒼月に住まうピクリア・サークスの顎より来たれ白銀の徒…」
この広域殲滅氷結呪文『蒼月獣氷雪圏』の効果範囲は呪文詠唱をすれば2キロ圏内。
それでもこの10層の全域には到底届かない。
しかもこの呪文は闇の魔法だけあって月の出ているところでしか使えない。
つまり一見外とはいえ、屋内である塔の中では正常には発動しないのだ。
「全て凍らせ雪に埋もれよ!『蒼月獣氷雪圏』!」
空中に現れた蒼い玉。
その大きさは直径わずか30センチほどだ。
本来ならこの魔法は月を利用して凍気を得てから着弾点を決め、そこを中心とした2キロ半径に効果を及ぼし、範囲内のことごとくを凍り付かせて、雪に埋もれさせる。
だが、月が無いために空中にとどまってしまっているのだ。
その内に凍気の無い大量の雪を込めて。
続けてシュリナは新たな呪文を唱える。
「轟く稲妻!奔れ!砕け!全てを貫く閃光となれ!」
広域殲滅雷撃呪文『光雷閃轟雷殲』は指定した位置から2キロ圏内に一瞬にして無数の閃光が走り、遅れて轟音と共に激しい破壊をもたらす。
「悉く殲滅せよ!『光雷閃轟雷殲』!」
これは位置指定の『被雷針』という魔道具もしくはそれを疑似的に作り出す呪文を打ち込んでから使用する魔法なので、それをしないとただの雷の玉が宙に浮くだけになる。
そして宙に浮いている2つの殲滅魔法。
それが引き寄せられるように近づいて、すっと、一つになった。
カアッ!!
その瞬間、猛烈な光がそこから発せられ、10層の隅々まで照らす太陽となった。
「うまくいったのじゃ!」
「すごいものだな」
「そうじゃろうそうじゃろう。じゃがの、本当にすごいのはマーシャじゃ。なにしろわらわの持つ魔法の全てを聞いた上で、それらを組み合わせてこのようなものを生み出すのじゃからな」
「そのマーシャは?」
「頭痛がひどくて寝ておるのじゃ」
マーシャは母から受け継いだ完全記憶力がある。
シュリナの持つ魔法をすべて覚えたうえで、自分が受け継いだ知識の中からそれを類似したものを探し、さらにはどのようになるかをシミュレートまでしたのだ。
「検索とかシミュレートは得意じゃなかったらしいのじゃが、最近鍛えてできるようになったそうじゃ」
それこそが触手の筋肉を利用した『筋肉頭脳』、アキラが使うそれと同種のスキルだ。
アキラは今までの経験が刻まれた筋肉を利用して解析を行うが、マーシャは母から受け継いだ知識を筋肉に転写して解析を行う。
そのおかげで今までより多くの知識を一度に処理、解析できるようになった。
ただ、ここ最近の急な成長によるスキル獲得のため、マーシャの頭が完全にはついていかず、今は激しい頭痛に襲われて動けなくなっている。
「このチャンスを無駄にしては駄目なのじゃ!アキラ、カナデ、目を凝らしてラスボスの居る場所を探すのじゃ!」
「わかった!」
「わかりましたわ!」
「あと、アキラは『ムキムキ』を使っておいてほしいのじゃ」
「それならやっている」
「さすがわらわの夫なのじゃ」
このエリアに明かりはない。
それは明かりがあってはまずいからだ。
そしてこの人工太陽を見たらどう思うだろうか?
『壊さねば!』
そう思い、そこに向けて攻撃するのは必然。
そしてそれこそがこちらの思惑通り。
ビイイッ!!
はるか彼方から放たれた一条の光。
それはわずかに横に薙いで、その人工太陽を砕いた。
キュウン!
カッ!
ゴオオオーン!
中に無理やり封じ込まれていた雪と雷は炸裂し、10層に輝く雪を降らせた。
これは、『帯電した雪』であり、すごくゆっくりと宙を降りていく。
10層すべてを照らしながら。
オオオオオオオオオオオオオ!
「怒っている声だな」
「姿をさらすのが嫌なラスボスなのじゃろう」
「雪が地面に落ちて暗くなるまでに一気に行くぞ!飛べ!レッカイオー!」
アキラは狙撃を探知できるパッシブ『ムキムキ』で先ほどの光を撃ってきた敵の位置を確認済みである。
今なら、迷うことなく飛んでいける。
「アキラ様!あれを!」
「あれは!」
「ななな、なんじゃあれは?!」
見えてきたのは地面に張り付いたような巨大な人の顔。
大きさは1キロくらいあるだろうか。
その上に、周りに、大きなモンスターたちが跋扈している。
しかし、もし真っ暗な状態で近づいたら、その上に居るモンスターたちと混同して気づかなかったかもしれない。
その顔はこちらをにらむと目から細い2条の光を撃ってきた。
「暗くなる前に、ここに明かりを灯す!『焼夷性粘粒子散布』!」
これは宇宙に出てから光の当たらない場所での戦いが多かったアキラが常備していた、粒子タイプで適量だけ使えるナパーム弾である。
焼夷弾のように敵を焼き尽くすのに使うのではなく、あくまで「消されない照明」であり、火力よりも光量と持続時間を重視している。
さらに水中でも真空中でも粒子中の酸素を利用して燃えるため、消すのは至難である。
また、敵に浴びせてマーキングすることも可能だ。
それをレッカイオーの掌から放出し、相手の顔の周囲に撒いたのだ。
ウオオオオ!
オノレエエエ!
「こいつ、話すのか?」
「空耳かの?」
すると、アキラは外部スピーカーをオンにする。
『まあ、こんな醜い奴が、ここのラスボスなわけないな!』
ナンダトオオオ!
サイコウシンサマ カラ イタダイタ コノ カラダ ト チカラ
キサマラ カトウセイブツナド スリツブシテクレルワ!
「あーあ」
「どうしたのじゃ、アキラ?」
「だいたい『下等生物め!』って見下す奴はあっさり負けるんだよな」
「フラグというやつじゃな」
「お約束じゃないかな」
テメエエラアアアア!
「しまった、スピーカー切っていなかったぞ」
「アキラよ、せっかくだからもう少し挑発するのじゃ」
「どうやって?」
「アキラよ、この戦いが終わったら、そのじゃな、わらわとまた夕べの続きをしてほしいのじゃ」
「あ、ああ。わかった」
「優しくするのじゃぞ」
オノレエエエエエエ!
「ほれ、効いたのじゃ。こんな奴はきっと彼氏も彼女もおらぬ奴じゃろうからの」
「怒った理由はそれだろうか?」
『戦闘中に何を言ってやがる』って怒っている気がしないでもないがアキラは黙っていることにした。
そして怒り狂う顔面ラスボスの口に光が収束している。
「おそらくあそこからレーザーとか打つのに違いないのじゃ!」
「さっきの目と違う、もっと強力な奴だな!」
アキラであればレーザーを撃つ瞬間に察知して対レーザーバリアを張れる。
そして口から放出されたそれは…
「なにっ?!」
「お、嘔吐物なのじゃ!」
そう、ゲ〇だ。
地面を溶かすほどの強酸。
しかも、対レーザーバリアの表面に乗ったまま落ちない。
「まさか、これはスライムなのか?生物反応がある!」
レーダーはこの嘔吐物が生物であると示していた。
「こいつがラスボスなら、ここで全力を使って叩き潰す!」
レッカイオーの胸のエンブレムが真っ赤に燃える。
「おお!そこからレーザーが出るのじゃな!」
「必殺!」
むんずと、レッカイオーは胸のエンブレムをつかんで外し、そこに二つの銃口が生まれた。
「『灼炎双砲』!」
二つの銃口から放たれた超高温の火炎放射が顔面ラスボスを襲う!
「フタを手で外すとか、ちょっとダサいのじゃ!」
「あれはフタじゃない」
掴んではずした灼熱のエンブレムは右拳と一体となり、
「くらえ!『超熱圧殺拳(メガヒートスタンプ』!」
ボゴアッ!
顔面ラスボスの額に打ち込まれた灼熱の拳は、その額にエンブレムを焼き付ける。
「あまり効いていないのじゃ!」
「でかいからな。だが、これは攻撃のためではない」
「さっきからそういうの多いのじゃな!」
「未知の敵であっても倒せるように様々な局面で戦えるようにしてある。このエンブレムは『ケイルート・スタニウム』という特別な金属でできていて、3000度以上に熱すると特殊な振動を発して、それを押し付けた相手に特定の波長を刻み込む」
「それで、どうなるのじゃ?」
ウゴ!ゴオオ!
ナラバアア!!
地面が盛り上がり、なんと顔面ラスボスの全身が地中から出てきた。
全身触手のウニような体だ。
さっきの顔面ははるか上に行ってしまった。
その高さ500メートル以上。
レッカイオーで飛んでいくこともできるが、エネルギーに限りのある状況では長時間の空中戦は避けたいところだ。
ケヒヒヒヒヒ!
無数の触手が、炎を、氷を、雷を纏って振り回される。
レッカイオーはそれをかわすので精いっぱいだ。
さらに触手の先にエネルギーが収束して、火炎放射、冷凍ビーム、稲妻を放ってきた。
「さすがにかわせないな」
「どうするのじゃ?!」
「捌く。レッカイオー、『装甲排除』!」
逃げ回っていたレッカイオーは、装甲と体の半分以上のパーツを外して小型化し、敵の攻撃を手で、肘で、膝で舞うように受け止め始めた。
「装甲が無くして身軽にしてさて逃げるのではないのかの?」
「火炎はレッカイオーの火炎を出す部分で吸収してエネルギーに転換する。冷気は放熱をさせる部分で受け止めて冷却に利用する。雷撃もエネルギーに変えられる部分で受け止めている」
「すごいのじゃ!エネルギーの問題も一気に解決とはさすがアキラなのじゃ!」
「受ける場所が少しでも狂うと木っ端微塵だがな」
「前言撤回じゃ!」
それでもアキラは的確に敵の攻撃を見極めて捌いていく。
「エネルギーは十分に溜まったな。『装甲装着』!」
先ほど脱ぎ捨てたレッカイオーのパーツが戻ってくる。
その左手部分の装甲には巨大なドリルがセットされていた。
「装甲はただ脱ぎ捨てたのではない。変形させてエネルギー伝達回路を構築させていた。そして貯めたエネルギーは、このドリルに一点集中される!」
すごい勢いでレッカイオーは上昇し、真上から顔面ラスボスウニを見下ろす。
「とどめだ!『螺旋炎雷龍』!」
すごい勢いで左手のドリルが回転し、そこから炎と稲妻がほとばしる。
コザカシイイ!
ガーッ!!
ビィー!!
ビガガガッ!!
目からビーム、口から粘液、触手から火炎放射と冷凍ビームと雷撃、あらゆる攻撃がレッカイオーを襲うが、その全てが巨大なドリルから出るエネルギーにはじき散らされる。
オノレエエエエエエ!
迎撃を諦めてウニの体に潜っていく顔面ラスボス。
「逃げたのじゃ!」
「無駄だ!」
ドリルが左腕から射出され、ウニの体内に潜っていく。
ドリルは目標を外さない。
先ほど『超熱圧殺拳(メガヒートスタンプ』で打ち込まれた波長を追って、どこまでも追っていく。
ぴたり
「敵の動きがとまったのじゃ!」
巨大なウニの全身から光が発せられ、そしてさらにまばゆい光となって、はじけ飛んだ!
そして、光が収まった後には、地面に突き刺さったドリルを除いては何も残っていなかった。
「明るいのじゃ!明かりが点いたのじゃ!」
シュリナの言う通り、10層の天井が光を発して、遠くまで見渡せるようになっていた。
「おそらく、あいつは自分の醜い姿が嫌で、ここを闇にしていたのかもしれないな」
「確かにひどい顔と姿じゃったものな」
「カナデ!終わったぞ!」
アキラはマーシャを介抱しているカナデに声をかける。
「アキラ様!あちらに扉が見えます!」
「何?!」
「なんじゃと!」
アキラとシュリナはレッカイオーを降りて扉に向けて走った。
その扉は今まで上の層に上がるためにあった扉の全てに似てはいるものの、ずっと大きく、また豪華な装飾がなされていた。
「闇だったのはこれを隠すためだったのかもしれないのじゃ」
「それもそうだな」
それほどにきらびやかで目立つ扉だった。
おそらくこの向こうが天界のはず。
「シュリナ、油断するなよ。最後の最後で、何があるかわからない」
「罠とかあるかもしれないのじゃな」
今までの扉はすべて、罠など無かった。
しかし、それは最後まで罠が無いことを保証するものではない。
「鍵とかかかっているのじゃろうか?さっきまでは鍵もかかっていなかったのじゃが」
「とりあえず、慎重に調べよう…ん?」
ギイ
ひとりでに扉が開く。
扉がこちらに向けて開き、そして、何者かが立っていた。
「アキラさんと、シュリナさんですね」
それは聞き覚えのある神の声。
ここへ来るようにと言った、最高神代理エリオスの声。
そして、この女性こそがエリオスなのだろう。
神々しい服を身にまとい…その胸は真っ赤に染まっていた。
「すみま…せん」
崩れ落ちる女神エリオスを慌てて抱き留めるアキラ。
向こうには、血の滴る剣を肩に担いだニヤけた男とその仲間たちが居た。
「この天界は今から俺たち『激竜葬団』のものだ。死ぬか消滅するかを選べ」
天界は絶望の世界へ変わろうとしていた。
お読みいただきありがとうございました。
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次回は1月10日金曜日18時更新です。




