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幕間 勇者と魔王が消えた世界で講和が進み、転移装置作成は進まない

ボイル・シャルルの法則って、有名かな?

王国の貴賓室では、魔族と人間族との講和の話が進んでいた。


「というわけで、魔族の国は魔王の一族及び四天王を失ったので、しばらくは有力魔族の代表者たちの話し合いで統治することとなります」

魔王軍の代表となったリリカが人間たちの前でそう説明する。


「こちらは魔族の国に攻め込んだ血気盛んな五大将軍を失ったが、かえって講和がやり易くなったのう」

「王!」

宰相は慌てて王の不用意な発言を制する。


「すまぬ、失言じゃ」

頭をかく国王。


「これからはお互い協力し合えればと思います」

とリリカが言うと、


「我々に手伝えることが有ったら言ってください」

と宰相。

アキラを召喚した時にあった魔族の国を滅ぼすという野心は、もう影も見えない。


そうでなくとも普通なら相手の弱みに付け込むところだが、アキラ効果があまりにも大きく、『全員が被害者』的な仲間意識が芽生えてしまっている。


「100年後にまた魔族の国が我々に宣戦布告をする可能性は?」

「ありません、と言いたいところですが、おそらくしてしまいます」

「なぜ?」

「それは」

言い淀むリリカ。


「それわあ、魔族の国にかけられた『呪い』のせいだからよお」

聖鎚の化身エクシィはこんな真面目な場所でもオネエ口調を崩さない。


「呪いだと?」

「アキラが言っていたわ。戦いが終わらない世界には、国家や世界そのものに対する『呪い』があるって。だから、どんなに良い魔王でも、戦争を起こしたくなるのよ」

「なんだと…」

愕然とする国王たち。


エクシィの説明によれば、呪いには個人にかけられるもの、一族にかけられるもの、国家にかけられるもの、世界にかけられるものがあり、それぞれ解除の手段が難しくなる。

世界規模の呪いは決して解けないとされる。


「すると、今までの魔王は」

「ええ、必ずしも本意じゃなかったでしょうねえ。でもね、そんなこと言っても戦争を起こした事実は消えないのよお。戦争を止めることも、逃げることもできるのだけどねえ」

実際にシュリナの父である元魔王は異世界に逃げてしまった。

その時に、戦争を止めることだってできたかもしれないのだ。


「一度戦争を起こしてやっぱりやめるなんて言ったら、国が壊れてしまうからか」

宰相は合点がいったように言う。


「魔族の国の呪いがどのような物か分からない限り、国を潰すわけにもいきません」

「リリカ殿、それはどうしてですかな?」

「国にかかった呪いはその国家が消えると、近くの国家に伝染うつる可能性があるのです」

「なんだと!」

思わず立ち上がる国王。


「100年の間に、その呪いを解く手段を探すしかない。そのために協力していただきたい」

リリカは頭を下げる。


「いや、もうそうなればそちらだけの問題ではない。明日は我が身。我々も侵略国家になる気は無いのだ」

国王もその申し出を受ける。




そうして、講和の話は進んでいった。




その頃のキャビナ。

彼女は異世界転移の魔道具開発を進めていた。


「よしっ!試作魔道具29号完成!実行!」


ぼんっ!


異世界転移させるはずの魔道具は見事に爆発した。


「これも駄目ね。じゃあ、次を作りましょう」

「お姉さま!」

その研究室に入ってきたのはキャビナの妹のキャルル。


「またそんな作り方をして!お父様が魔道具はきちんと検証して、安全を確保してから使いなさいと」

「私は天才だからいいのよ。100くらい作ったら、どれか成功しますから」

話しながら無造作に材料を組み上げていくキャビナ。


「確かに今までに無い魔道具を作ることにかけては天才だと思いますわ。でも、以前大失敗した時のことを覚えてらっしゃいませんか?」

「何だったかしら?」

「魔王城が半分吹き飛びました!」

2年ほど前のことである。


「ああ、おかげで魔王城を強化再生する予算が降りて良かったわよね」

「良くありませんっ!怪我人も重傷者も出て、誰も死ななかっただけ奇跡ですよ!」

魔王城には強い魔族しかいないので命だけは助かったようなものだ。


「私はヴァンパイアだから平気よ」

「他の人が困ります!」

人と言うより魔族だが。


「キャルル、今は誰も困らないのよ。この研究室、実は次元のはざまにあるのだから」

「何ですって?!」


周りを見渡すが、普通の部屋にしか見えない。


「もしここが吹き飛んでも、爆発は城の方にはいかないようになっているの。そしてここは自動修復する設備になってるから、設備が直って私もここで再生できるわ」

「いつの間に…」

どうやら姉をただのマッドサイエンティストと侮っていたようだ。

これは姉を少しは見直さなくてはならないだろう。


「というか、実験12号で研究室が次元のはざまに落ちこんだだけなんだけどね」

「お姉さまを見直そうとして損しました!」

ほっぺたを膨らますキャルル。


「こういう怪我の功名があるのが、私の良いところなのよ」

「ご自分で言いますか、それ?」

「それより、何しに来たの?爆発の件を注意するなら、もっと早くに来るのでしょう?」

「はい?お姉さまが呼んだのですよね?」

「そうだったかしら?」


キャビナは自分の記憶を探る。


「そうだったわ!異世界転移の可能性を上げるために、キャルルが適任だと思ったのよ!」

「どうしてですか?」


キャビナは大きな水晶玉の付いた魔道具を机に置く。

それにいくつかスイッチやダイヤルがついている。


「これは今回の実験中に完成した、異世界探査カメラよ」

「完成って、どうせ偶然できたのでしょう?」

「それは私にとっては必然なの」

そしてキャビナはスイッチを入れる。


そこに映ったのは、アキラ、シュリナ、ヒノ、カナデ、マーシャの5人。

宿屋で休んでいる姿の様だ。


「これ、動きませんけど?」

「ええ、今は静止画しかできないのよ。それもいつのかわからないし」

スイッチを押すと何枚か映像が切り替わる。


「これを見て、何か思わない?」

「そうですね。シュリナ様は勇者とヒノくん以外に、あちらで二人の仲間を得たということくらいですか」


ちっちっち

キャビナは指を左右に振る。


「見るのはそこじゃないわ。今いる女性メンバーは、ロリ体型20歳、巨乳獣人、幼女でしょう?」

「そ、そんな見方するの?」

ちょっと引き気味のキャルル。


「あなた何歳?」

「私は13歳ですが」

「そして胸の大きさは?」

「何でそんなの教えないといけないんですか?!」


キャルルは胸が大きい。

Eくらいある。

しかも成長期でそろそろFになる。


「あのメンバーにはロリ巨乳が居ない!あなたみたいな人が必要とされているから転移の確率が高くなるのよ!」

「意味がわかりません!」

そんなことで呼ばれたとか、ありえない。


「そういうものなのよ。ちょっとこれ持ってて」

「はい?」

「それでぽちっと」

起動する魔道具。


「わ、ちょっと、いつの間に!って、手から離れない?!」

「試作30号よ」

「いつの間に?」

「話しながら出来たわ」

「適当に作ったのを使わないで下さい!早く止めて下さい!」

抗議の声もむなしく、魔道具はさらに光を強め、キャルルはそこから姿を消した。


「成功したかしら?!」

測定器をチェックするキャビナ。


「座標軸は…すごい、シュリナ様たちの世界へ行ってるわ」

どうやら成功の様だ。


「この実験結果を元にすれば、安全に転移する魔道具が完成するわ!」

「『安全に』ですって?」

そこにドスの効いた声が響いた。


目の前に居たのは先程消えたはずのキャルル。


「え?どうしてここに?」

「向こうの世界に行きかけて、弾き飛ばされたんです!」

よく見ると服がボロボロだ。

しかも…


「キャルルの胸、どこかに落としてきた?」

そう、キャルルの胸がぺたんこになっていた。


「ヴァンパイアの再生能力でも戻らないんです!」

「きっと時空の波で『大きな胸』の概念(・・)だけが分割されてしまったのね」

結果をレポート用紙に書いていくキャビナ。

そのくらいの事は記憶できるが面白いから書いているだけだ。


「13歳だからこんな大きいの嫌だと思っていたけど、まったく無いのはもっといやです!返してください!」

「わかったわ。何とかするから。それにキャルルがロリ巨乳じゃなくなったら、もう実験動物モルモットの価値が無いものね」

「治っても、もうやりませんからね!」

「はいはい」


適当に返事しながら、今の実験についてのレポートにこの現象の名前を付記した。



胸の大きさだけでヒロインの一人になろうとしても、ぽっと出のキャラは認められずに、(ボイン)を失ってしまうこと。『ボイン・キャルルの法則』


「我ながらナイスネーミングです」

「何書いているんですかっ!」

それを覗き見たキャルルは激怒する。


果たして、異世界転移の魔道具は無事完成するのだろうか?

お読みいただきありがとうございましたm(__)m

次回は12月6日金曜日18時に更新予定です。

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