第22話 各階層のボスを撃破、いや峰打ちで切り抜けろ!
カナデがかなりのいじられ(物理)キャラになってます。
令和元年12月5日誤字修正しました。
熱男筋肉列車は1層を疾走する。
その広さゆえ、モンスターをかわすのはわけない。
そして、地図を覚えているマーシャの案内で最短距離を爆走する。
「地面が平らだから走りやすいな」
「ねえ、アキラのおっさん。階段とかぬかるみがあったらどうするのさ?」
「心配は無用だ、マーシャ。そういう時は飛んでいくつもりだからな」
物質をオメガエネルギにー変換する装置はこの世界で無事作動した。
だが変換できる素材が鉄などありふれた物質ではなく、金を入れなくてはならなかった。
そして準備できた金は約10kg。
それはレッカイオーを10時間動かすことが出来るくらいのエネルギーだった。
ちなみに列車形態で地上を走るのは筋力とそれで充電した電力である。
今はアキラしか動力源が無いが、ここに来るまでにガリクソンたちが十分な充電をしてくれた。
「それに筋肉ギルドからもらった情報では、そこまで荒れた地形はなかったからな」
「じゃあ、戦う時用にエネルギーを取っておくわけだね」
「ああ。それでも兵器によってはエネルギーをかなり食うからな」
搭載しているミサイルはアキラの世界で作ったもので有限。
ビーム兵器はエネルギーの消耗が激しくなる。
一番効率がいいのは近接物理武器だ。
元々あった巨大ロボ用の近接物理武器『炎麗刃剣』では刃の部分にヒートレーザーを発生させるためエネルギーを消耗する。
威力重視の打撃武器を作ろうかとも思ったが、重い物を振り回すにも相当のエネルギーを食う。
そして何より、この帝国のイベントを邪魔しないためにもモンスターは極力殺したくない。
しかし製作時間が間に合わなかった。
アキラはあらゆる武具を変形させる能力を持っているから武器を作ることなど楽勝のはずだが、ロボットが使う大きさの武器となると、自在に変形させて作ることが出来なかったからだ。
結局『炎麗刃剣』のヒートレーザー機能をオフにして使うことにした。
「本当はこういうのを作りたかったのだけどな」
アキラは異次元箱から『分厚くて長い鉄の板に柄をつけた武器』を取り出してマーシャに渡した。
「巨大やすり?」
「いや、峰打ちしかできない剣だ」
アキラの言葉を聞いてマーシャが顔をしかめる。
「いや、これだと骨とか折れて死ぬと思うよ」
「やっぱりそうなるか」
「99の武器をマスターしているボクから言わせてもらうと、峰打ちに特化した剣は『流推剣』かな」
マーシャは異次元箱からメモとペンを取り出して『流推剣』を描いた。
それはアキラの作った剣の角を丸くして、強靭さを持たせるために縦方向に筋が数本入っている剣だった。
「ソーダアイス?なんたらバーみたいだな」
「違うよ!似てるけどさ!」
マーシャの画力は年齢相応だったから仕方ない。
「武器を変形できるんでしょ?この鉄の板の剣、こういう形にしてよ」
「ああ」
アキラは運転しながら片手間で武器を言われた形に変形させてマーシャに手渡す。
「うーん、強度としなりが足りないなあ」
「俺が良く知らない武器はどうしても性質は真似できずに、見た目だけになるからな」
「とりあえず、これで演武するね」
マーシャはアキラの真横で剣を構えた。
「おい、ここだと狭いぞ」
「いいんだよ。この剣は超接近戦用だから」
そしてマーシャはアキラを敵に見立てて演武を始めた。
運転中…つまりは実際に走っているアキラの周囲を、輪郭を取るように剣がなぞる。
その動きは舞うような流麗さだ。
「そして、こう!」
アキラのひざの後ろに剣が来たところで、マーシャは剣を推す。
「お?」
アキラのひざ裏に剣が強く押し当てられたが、アキラは何ともない。
「レベル999とかひどすぎるや。普通なら『ひざカックン』だよ」
ふくれっ面のマーシャ。
「ああ、でも良くわかったよ。これは相手の攻撃を受け流しつつ、急所に一撃を加えて仕留めるための剣なんだな」
「仕留めるというより、動けなくするのが目的だけどね」
マーシャはドヤ顔で説明をする。
「次に作る時は参考にさせてもらうよ」
「うん。ところで、ついでにお願いしていい?」
「何だ?」
マーシャは再び武器の絵を描き始めた。
鍔が真横に伸びた西洋風の直剣。
十字架を上下逆さにした様な形状の剣だ。
「この鍔の部分も上だけ刃になっているんだよ」
「十字槍みたいだな」
「似ているけど使い方は全然違うよ。これは相手の攻撃を受けたりしない武器。とにかく相手を倒し続けるための剣。その名も」
『南斗星剣』
「マーシャの世界には南十字星もあるのか」
「おっさんの世界もそうなんだね。やっぱり似た並行世界か、過去か未来なのかな」
「それで、どうしてこの武器が欲しいんだ?」
アキラは適当な武器を取り出して南斗星剣に変形させながら聞く。
「これはね、パパが唯一ボクに譲ってくれなかった武器、武術なんだ」
幼いマーシャは前の世界で大勢の敵に襲われた。
そして100の武器をマスターしていたマーシャの父親と、膨大な知識を持っていた母親は、その能力をマーシャに受け継がせた。
そして、マーシャの父親は唯一、『南斗星剣』を扱う能力だけは譲らず、その力で全ての敵と対峙し…
「ぬううっ!『南斗爆殺剣』!」
禁断とされた自爆技を使い、全ての敵を巻き添えに死んだ。
その時母もマーシャを爆発からかばって死んだ。
「だから、ボクは自力でこの武器を極めて、パパみたいに100の武器をマスターしたいんだ…って、おっさん、もしかして泣いてる?!」
「ん?馬鹿を言うな。俺は仲間が死んだときだって泣いたことなんかない」
「実は泣き虫なんだ」
「うおおおおおっ!」
アキラは全力で走り始める。
汗が飛び散り、涙か汗かわからなくなる。
「意地っ張りだなあ。でも」
マーシャは小声でつぶやいた。
「アキラ、ありがとう」
「むむむむー」
こっそりとアキラとマーシャの様子を伺っていたシュリナはうなっていた。
「奥様、プロテイン入りの紅茶が冷める前にお持ちしてはいかがですか?」
「入りづらいのじゃ」
「もういいみたいですよ」
「むう、マーシャはヒノと仲良くなってくれるかと思っていたのじゃが、アキラに気があるのかもしれぬのう」
「そうですね」
きっぱりとカナデは答える。
「や、やっぱりじゃな!」
動揺しまくりのシュリナ。
「はい。おそらく10年後にアキラ様を手に入れようとされることでしょう」
「10年じゃと!それまでにわらわが…」
「ぷふっ」
慌てるシュリナを見て吹き出すカナデ。
それを見て我に返るシュリナ。
「カナデよ」
「はい、奥様」
「まさか、わらわをおちょくったな?」
「とんでもございませんでございます」
思わず目を背けるカナデ。
ぴしっ
シュリナの怒りのスイッチが入った。
「カナデよ。わらわの闇魔法には面白い魔法があるのじゃ」
「私はお掃除の時間ですので」
嫌な予感がして慌ててそこから逃げ出そうとするカナデ。
「それなら丁度良いのじゃ。『魔導箒』!」
竹ぼうきのような、古風な感じの箒が出現した。
箒の先は竹ではなく、屋内掃除が出来るくらいの柔らかい繊維でできている。
ただ、出現した場所が問題である。
「ああっーっ!」
声を上げて身をよじらせるカナデ。
箒の柄はカナデの胸の間に出現して、衣服を通して股の間から床に抜けていたのだ。
「胸の間の制御宝珠が弱点なのはとっくに御見通しなのじゃ。さあ、『魔導箒』よ!そのまま掃除を始めるが良いぞ!」
「そ、そんなっ!」
生き物のように動き出し、せっせと掃除を始める『魔導箒』。
「お許しを!お許しを!」
「だめじゃだめじゃー!」
シュリナはなんとなく楽しくなってきていた。
「なんかさ、カナデって色々あって、制御宝珠を触られるの慣れちゃったみたいなんだよね。(ほとんどボクのせいだけどね)」
「何じゃと?」
「それがどうして、今あんなに悶えているかわかる?」
「うーむ…ってマーシャ?!いつの間に来たのじゃ?」
「気づくの遅いって。あのね、あの箒の柄、カナデの下着通過してない?」
「あ…」
-しばらくお待ちください-
シュリナはせっせと床に雑巾をかけている。
その間にマーシャは腰の抜けたカナデを着替えさせていた。
「まさか制御宝珠の化身がおも○しするとは思わなかったのじゃ」
ようやくきれいにした頃に、カナデとマーシャが戻ってきた。
「奥様、からかったのは悪かったですが、これはさすがにひどいです」
「わかっておる。わらわが悪かったのじゃ。すまぬ」
「これは貸し1つでいいんじゃない?」
とマーシャはニヤニヤしながら言う。
カナデがシュリナに何を頼むのか楽しみにしている顔だ。
「貸しでもいいのじゃ。許してほしいのじゃ」
「それでしたら…きゃあ!」
「きゃっ!」
「ああっ!」
急に列車が停止をしてシュリナ達は盛大に転ぶ。
「すまん!目の前から何かでかいモンスターが飛んできた!すぐ交戦する!」
操縦室からアキラの声が聞こえた。
「マーシャは上の列車の操縦席に!シュリナは翼を出しつつ屋根の上だ!」
「わかったよ」
「わかったのじゃ!」
すぐに移動する2人。
「カナデは俺の横で指示を待ってくれ」
「わかりました」
カナデは操縦室に入ると、アキラの隣に待機した。
「アキラ様」
「ああ、レーダーの機影からしてドラゴンだろうな」
「いえ、そうじゃなくて、先程の騒ぎ、さすがに気づきましたよね?」
「ま、まあな」
「シタところ見ましたね?」
「ん?あ、えっと」
ごまかそうとするアキラ。
「筋肉は嘘をつかないんですよね?」
「そういう意味じゃないんだが」
「じゃあ貸し1つです」
「俺も?!」
「それより、見えてきました。やっぱりドラゴンです」
目の前に現れたのは体長10mくらいのブルードラゴン。
強いことは強いが、アキラ達の敵ではない。
「カナデ、あのドラゴンの弱点がわかるか?できれば気絶させたい」
「アキラ様はドラゴン退治とかされたことないのですか?」
「ドラゴンごとに弱点が違うということが分かるくらいにはな」
前の世界でブルードラゴンも多数葬っているが、この世界と同じ性質とは限らない。
「そうですね、こちらの世界のブルードラゴンは喉に強い一撃を食らうと気絶します。ですが真正面から攻撃するのは凍結ブレスの的なので気を付けてください」
「大丈夫だ。マーシャ、操縦はまかせた!シュリナ、援護を頼む!」
アキラはそう言うと操縦室を飛び出していった。
「アキラ様と奥様に貸し1つずつ…何でもいいのでしょうか?」
アキラたちがブルードラゴンを仕留めるのを眺めながら、アキラとシュリナに何をお願いするか考えるカナデ。
「『闇の束縛』じゃ!」
「『峰打ち』パンチ!」
アキラはかなり手加減したパンチを、動きを止められたブルードラゴンの喉に打ち込む。
「ウゴアアア」
ブルードラゴンはうめき声をあげると巨体を地面に横たわらせた。
「アキラ…のおっさん、『峰打ちパンチ』ってあのネーミングはないよ」
「いや、あれはスキルなんだ」
「『峰打ち』ってスキル?」
「ああ。どんな攻撃でもわずかに体力を残せる手加減スキルだ」
「まさか銃弾でも峰打ちできるとか言わないよね」
「できるぞ」
「え?マジ?」
「銃弾が大丈夫なら、ロボットの武器とかにも適用できればいいのだがな。自分で装備していないものは駄目らしい」
「どういうスキルなのさ」
あきれ顔のマーシャ。
「ともあれ、あれがこの層のボスだったようだ。向こうに転移門らしきものが見えるから、急ぐぞ」
こうしてアキラ達は2層に進んだ。
このペースだとヒノの出番がしばらくない?!
どうしよう…
お読みいただきありがとうございました!
感想をいたただけると嬉しいです!
次回は11月29日金曜日18時更新です。
本編につながる幕間になる予定です。