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第20話 カナデは制御宝珠の化身ですから

また実行ボタンを押し忘れました。

申し訳ございませんm(__)m


追記

11月21日サブタイトルに話数以外の言葉も付けました。

アギロスにタワーに入れなくなると言われて焦るアキラ。

これでは計画が遅れるかもしれない。


「アキラよ」

「シュリナ、待て、考えている。くっ、どうするか…」

「この馬鹿者がっ!落ち着くのじゃっ!」


パシンッ


いきなりシュリナの平手打ちがアキラの頬に炸裂する。


「うっ」

「いたいのじゃっ!なんて固い顔をしておるんじゃ!」

「すまん」


アキラはシュリナに叩かれても痛くはなかったが、その心には響いた。


「そうか、わかった。そうだな。俺はヒノが居なくなってからおかしくなっていた」

「わかればいいのじゃ」


アキラがいつもの冷静沈着なアキラに戻ってホッとするシュリナ。


「アギロス、入場の条件は?」

「10日後に行われる頂上闘技祭。それの予選会場として使われることになったから、出場者のみだ」

「俺たちは出られるのか?」

「予選に出られるのは、以前にその大会に出て好成績を収めた者、帝国の特別な推薦を受けた者、そして、SS以上のギルドランクを持つ者だけだ」

「俺はZだが出られるのか?」

世界を救ったとされる証『Z』は特別なランクとして扱われる。


「ああ、ギルマスから聞いている。Zの扱いは通常はSS以上だが、実際の実力がSS以上とは限らないから、該当しない」

そう判断されるのは、ヒノのように転生した『Z』保持者は転移者と違い実力が伴っていないことが多いからだ。


「俺たちが特別な推薦を受けられる可能性は?」

「すでにその枠は決まっているそうだ」

それでは出場できる方法は皆無だ。


「入場制限は始まっているのだな?」

「そうだ。予選が7日後。それまでは中のモンスターを減らさないように誰も入れないで保持しておくらしい」

「大会が終わってそこに入れるようになるのは?」

「予選開始から丸1日使うため、おそらく今から9日か10日後だ」


そこまで聞いたアキラは情報を整理する。



今は塔に入れない。

参加者となるのは無理。

10日後ではヒノを救いに行く時間が間に合わないかもしれない。


「ううむ」

落ち着いたアキラといえども簡単に答えが出る話ではない。


「夜に紛れてこっそり入るとかはできないのかの?」

「入口は地上だけでしっかりガードされているし、中に広大な世界が広がっているせいで、外の壁は破壊不可能らしいのでさ」

「ぬううう」

シュリナも必死に方法を考える。




「モンスター売り」

ぼそりとマーシャがつぶやいた。


「なんじゃそれは?」

「ボクの世界では強さこそが全て。だから闘技大会はすごくたくさん開かれていた。そのため予選会場となる塔やダンジョンでは慢性的なモンスター不足が起こるんだ。そこにモンスターを売りにくる商人が来て予選会場にモンスターを補充するんだよ」

それを聞いてポンと手を打つアキラ。


「そうか!その塔にモンスターを売りに行くということか!この世界には魔獣玉というモンスターを入れておく道具がある。それにモンスターを込めて売りに行き、モンスターの設置も引き受けますと言って中に入ればいいのだな!」

「せっかくボクが思いついたのに、全部言わないで!」

「いや、ありがとう。さすがマーシャだ」


なでなでなで


「やっ、やめろよ。ボクはヒノみたいなお子様じゃないから、撫でられてもうれしくなんかないぞ」

ぱぱっと、アキラの手を払いのけるマーシャ。


「(何だかパパの手みたいだったな…いや、何を考えているんだ。パパの手はあんなんじゃないや!)」

ぶんぶんと頭を振るうマーシャ。


「でも急にそんな話を受けてくれるじゃろうか?」

シュリナの疑問にアギロスが答える。


「そもそも今回の予選会場を塔にしたのは、いつもの予選会場で多くの参加予定者が練習のために狩りをし過ぎて、リポップが追い付かなくなったせいらしいです。今の塔はリポップさせるために保全中ですが、万全の状態に戻らないかもしれないという話は聞きますね」

「つまり、受けてもらえる可能性はあるのじゃな」

「それともう一つ、俺に考えがある」

アキラはそこで奇想天外な方法を提案するのだった。




アキラ達はそのあと、たくさんの魔獣玉を調達し、モンスターの入っていなかった魔獣玉にはドラゴン山のモンスターを詰め込んだ。



「魔獣玉ですごい出費なのじゃ」

「筋肉ギルドの報奨金が役に立ったな」

「それで、例の物・・・はできたのかの?」

「ああ。これだ」


アキラが取りだしたのは、オークの着ぐるみである。

オークを魔獣玉の中に生きたまま入れるだけでなく、あえて殺してその皮を利用して作ったものだ。


魔獣玉を売り込む商人役は冒険者ギルドで雇い、アキラ達がこの着ぐるみを着て魔獣玉を運ぶモンスター役をする。

そしてモンスターであれば、商人が出てくるときに『あのモンスターはそのまま塔の中に置いてきた』と言えば、出てこなくても怪しまれなくてすむというわけだ。


「これには偽装のアイテムを組み合わせてあるから、そう簡単には気づかれないはずだ」

「そのアイテムとか装備を混ぜられる能力は、立派なチート能力じゃの」

歴代の勇者の中でも最弱のチート能力と言われているが、使いようによってはかなりの強さを発揮するだろう。


「性能を合わせることはできても、混ぜられないものもあるし、別の性能には変えられないし、相乗効果も起きない。それにくっつけたら元通りに分けられないこともある」

アキラにそう言われて、シュリナはあることを思い出した。


「そういえばアキラよ。サニーとフレイムの二段変身アイテムをくっつけたのはどうなったのじゃ?」

「あれは親和性が高すぎたのか、分離できなくなった。だから、これからはサニーとフレイムが交替で使うらしいぞ」

「悪いことをしたのじゃ」

「いや、性能は純粋に倍になったから、かえって良かったとか言ってたぞ」

「それならいいのじゃが」



「さて、試しに着るとしよう」

「わらわの着ぐるみは何になったんじゃ?」

「大きさ的にこれだ」


コボルドという頭が犬のモンスターの着ぐるみだ。


「怖い顔なのじゃ!」

「モンスターだからな」

「愛らしくしてほしいのじゃ。ほれ、いつものようにこねこねとじゃな」

「あまり細かな変化はできないのだが…いい機会だから、練習と思ってやってみるか」

「アキラが頬ずりしたくなるくらいのを頼むのじゃ」

「いや、どんなに可愛くてもさすがに頬ずりはしないぞ」

「では、なでなででもいいのじゃ」

「わかった、善処する」


アキラはさっそく取り掛かった。


そもそも武具を変形できる能力というのは、単純に武器の形を変えるだけの能力だった。

そのため、槍を剣にしようとすると、金属部分が足りなくて不恰好な剣になる。

変形に伴う『変質』ができるようになったのは、その能力を毎日練習して1ヶ月ほどしてからだった。

この変質は材質を変えることであった為、武器を作りやすくなったが、まだ大きさの問題があった。


大きさを多少変えられるようになるのに、さらに2ヶ月かかった。


1年も経った頃には、複数の武具を組み合わせられるようになり、身に着けるものであれば防具やアイテムも可能になった。


そして今は身につけるものでないアイテムであっても、身に着けるものと組み合わせるのであれば、変形ができるようになった。



今回挑戦するのは細かな変形だ。

この醜悪なコボルドの顔を可愛い顔になどできるのだろうか?


こねこねこねこね

せっせ せっせ

こねこねこねこね

せっせ せっせ


どうにもうまくいかない。

最初にコボルドを見た印象が頭に焼き付いてしまっているようだ。


「いい見本がほしいところだが」

「アキラ様、どうかされましたか?」


そこに入ってきたのはカナデ。

そのネコ耳を見てアキラは閃いた。


「カナデはどんな動物にもなれるのか?」

「知っているものでしたら。ただ、初めてする変身は少し時間がかかります」

「実はだな」


かくかくしかじかこねこねむにむにと説明する。


「要は可愛い動物の見本でよろしいのですね」

「そうだ」

「では、子犬でいかがでしょうか?」

「よし、頼む」

「ただ、一つ問題が有ります」

「なんだ?」

「小動物の場合は私の胸の制御宝珠がむき出しになり、床に伏せると痛いので、アキラ様の膝に乗せていただけませんでしょうか?」

「そのくらいかまわんぞ」

「では」




40分後。


「ここをこうして、こう。どうだろう?」

「かなり可愛らしくなってきたと思います」

「耳元はどうもうまくいかないな」

「私のをさわっていただければよくわかるかと」

「いいのか?」

「痛くなければどのようにでも」


さわり


「ひゃ」

子犬のカナデがびくっとする。


「すまん、痛かったか?」

「いえ、大丈夫です」

言葉とは裏腹に、カナデの心臓は高鳴っていた。


「(おかしいです。この前奥様に胸を揉まれてから、アキラ様に触れられると変な感覚が…私の機能が狂ってしまったのでしょうか?)」



「よし、今日はここまでにしよう。シュリナたちが買い物から戻ってくるまでに、夜ご飯の準備をするかな」

「このお屋敷はアキラ様が主も同然です。既に私の妹たちが食事の支度は始めているはずです」

「そうか、悪いな。じゃあもう少しやるか」

「はい。ところで、その、」

もじもじとするカナデ。


「どうした?」

「口元から喉の辺りの作りをもうちょっと直せないでしょうか?」

「こうか?」

「いえ、私の喉のようにですね」

「どれどれ」

アキラはカナデの喉を触る。


「あっ」


こにょこにょこにょとアキラは喉を探る。


「(あ、ああ、ああんっ)」

必死に声を押し殺すカナデ。


「なるほど、こんな感じか。どうだ、カナデ」

「は、はあ、はい。とても、良い感じです」

それをどっちの意味で言っているのか、カナデにも分からなくなっていた。


「!」

急にカナデは立ち上がると、ぱっとアキラの膝から飛び上がり、いつもの獣人メイドの姿に戻った。


「どうした?」

「奥様がお帰りになられたようなので、配膳を手伝ってまいります」

カナデは涼しげな表情でそう答えて部屋を出て行った。




「危なかったです。妹たちが念話で奥様の帰宅を教えて下さらなかったら、またお仕置きされてしまう所でした」

「わらわがどうかしたのかの?」

ふいにシュリナから声を掛けられ、びくっとするカナデ。


「あっ、奥様。おかえりなさいませ」

「ただいまなのじゃ。アキラはどこじゃの?」

「はい、アキラ様は書斎で着ぐるみの調整をしておられます」

「そうか!もうできたのかの?!」

シュリナは書斎へ走って行った。


「ふう」

「カナデさん、シュリナさんにバレなくて安心した?」

「はい、まさかアキラ様とあんなことを…マーシャさん?」

「あんなことってどんなこと?」

そこにいたのはニヤニヤしているマーシャ。


「いえ、何もしておりませぬ。ただ、着ぐるみの調整のお手伝いをしただけです」

いたって冷静に、表情も顔色も変えないで応えるカナデ。


「あのね、カナデさん」

「はい」

「最近、ボクは開いている時間で筋肉ギルドに行って鍛えているんだ」

「そうなのですか?」

マーシャを見る限り、とても筋肉を鍛えているようには見えない。


「それでね、最近少し覚えたスキルがあるんだよ」

「何でしょうか?」

「『筋肉嘘発見器マッスルポリグラフ』」


カナデの顔から血の気が引いた。


「嘘をついているとわかるって、便利だよね」

「私は別に嘘などは…」

「やましいことはあるんだよね?」

「いいえ」

「『Yes!Yes!Yes!』筋肉は嘘をつかないよ」

「ああああ」

真っ青になるカナデ。


「これはシュリナさんに報告をしないとね」

「お願いです、やめて下さい!何でもしますから!」

「何でもするの?」

「はい!」

「そう、それならさ。食事がすんだらお願いしたいことがあるんだよね」

「わかりました」

その時カナデは助かったとの思いから、マーシャのお願いがどのようなものか考えもしていなかった。




そして食後。

カナデは誰も居ない格納庫に呼び出されていた。


「ここで何をするのでしょうか?」

「ああ、こっちに来て」

マーシャのあとについていく。


「ここは…」

「さて、ボクの頼み事はね、これを体で覚えてもらうことさ」

「どういう意味でしょうか?」

「ん?そのままの意味だよ」


マーシャは上の服をシャツもろとも脱ぐ。


「え、え?」

「ボクはね、カナデのことを信頼しているから、これ・・を見せるね」

「これ?」

「えいっ!」


うねうね

うねうね


「こ、これは…」

「大丈夫、痛くしないから」


うねうねうね

うねうねうね


「む、無駄ですよ。その隷属の首輪があるかぎり、アキラ様たちや私に危害を加えることなんてできませんから」

「危害?」


マーシャは笑顔でこういった。


「これはイイコトだから、問題ないよ。ほら、首輪も止めないだろ?」

悪魔の微笑みを浮かべるマーシャ。


「あ、あ、ああーーーっ!!!」





「もう寝る時間だと言うのに、マーシャとカナデは遅いな」

「何でも、やるべき準備があるからと言って、格納庫のほうに行ったのじゃが」

「あそこなら危険もないだろうし、仕方ない先に寝るか」

「そうじゃの」



アキラとシュリナはベッドに入り、いつものように手を繋ぐ。


「やっぱり出てこないのじゃ。ヒノお」

「大丈夫だ。きっと取り戻す」

「わかっておるのじゃが、のう」

ぎゅっとアキラにしがみつくシュリナ。


本当なら、二人っきりだからドキドキする場面なのだが、ヒノのことが頭から離れないので、ただアキラに抱き着いて寂しさを紛らわせることしかできない。


「おやすみ、シュリナ」

「アキラ、おやすみなのじゃ」







翌朝。


「おはよう。カナデもう起きているのか。早起きだな」

「アキラ様…おはようございます」

「マーシャも起きるのじゃ!」

「んー、あと1時間」

「寝過ぎなのじゃ!」

既に起きているシュリナはマーシャを揺さぶる。


「夕べの準備(・・)に時間がかかりましたので」

「カナデは大丈夫なのか?」

「あ、えっと、あんな体験はもう」

「体験?悪い夢でも見たのか?」

「あっ、よく眠れたかということですね。はい、私は全く眠らなくても大丈夫ですから」

「その割には、何か疲れてないか?」

「いえ、そのようなことは…アキラ様?」

「なんだ?」

「その、私が嘘をつくとわかりますよね?その、筋肉で」

「いや?そうか、マーシャにだけ言って、シュリナとカナデには言ってないか。信頼できる相手には無意識のうちに嘘かどうかの判断をしないようにしている」

「そうじゃったのか」

シュリナはその事を、アキラがマーシャに説明したときに布団の中で聞いていたが、とりあえずとぼけておいた。


「そうですか。…まさか?!」

カナデは夕べのことを思い出す。


「(ぼそ)マーシャさん」

カナデは寝ているマーシャの耳元でささやく。


「(ぼそ)うん、あれはカマをかけただけだよ。そもそも嘘かどうかの判断なんて、簡単にはできないから」

「(ぼそ)ひどいです」

「(ぼそ)でも必要な事だったろ?」

「(ぼそ)そうですが、あんなに激しくしなくても」

「(ぼそ)みんなのためになることだし、いい経験になっただろ?」

「(ぼそ)それはそうなのですが。じゃあマーシャさんのあれ・・は」

「(ぼそ)お互いの秘密を共有しているということで内緒で」

「(ぼそ)わかりました」


「カナデよ、マーシャはまだ起きないのじゃな?」

「いえ、もう起きるそうです」

「えーっ?ちょっと、カナデさん?ボクはもうちょっとだけ寝たいから」

「マーシャさんはもう十分目は覚めていますよね?」

「いや、まだねむ」

布団をかぶろうとするマーシャの耳元に再度顔を近づけてささやくカナデ。


「(ぼそ)私は色々な種族や動物の姿になれますが、夕べのアレ・・も、とーっても良く理解させていただきましたので、再現可能です」

「!」

「(ぼそ)妹たちにも再現する能力がリンクするので、全員でお相手できますが」

「あーっ!良く寝たなーっ!」

しゃきんと、起き上がるマーシャ。



「では、食堂に行くのじゃ」

「カナデ、今朝の朝食は?」

「はい、ダンブルボアのカツサンドと卵サンドと野菜サンドです」

「おお、サンドイッチは大好きなのじゃ。卵サンドは潰した卵と焼いた卵の両方があるのじゃよな?」

「もちろんです」

すでにシュリナの好みは把握済みである。


「ダンブルボアのヒレ肉はあの肉肉しい味わいがたまらないよな」

アキラも上機嫌である。


ちなみにダンブルボアはブル(牡牛)の肉質を持つボア(イノシシ)であるブルボアの大型種である。


赤身のうまさはもちろん、脂身は低温で溶けてうまみが非常に強く、野生種でありながらそれを買い求める人は多い。

因みに魔獣ではなく野獣なのでドラゴン山には生息しているがリポップしないので、むやみやたらと狩ることはできない。


「うまいのじゃー」

「ブルボアの牧場とか作ればいいのにな」

「気が荒すぎてすぐに柵を壊しますし、壊せない柵にすると死ぬまで体をぶつけて逃げようとするそうです」

「それはだめだなあ」

アキラは残念そうにしている。


「できるよ」

ぼそっとマーシャがつぶやく。


「なんじゃと?」

「そういう動物は、小島とか谷底とか自然に隔離された場所で飼育するんだ。エサは自然にあるものにして、なるべく人間が入らないようにすると、自分たちが飼育されていると思わないから逃げ出さないんだよ」

もぐもぐと食べながら言うマーシャ。


「相変わらずすごい知識じゃの」

「そう?ボクの世界では常識だけどな」

「6歳児とは思えないのじゃ」

「『完全記憶倉庫』のスキルは、スキルを譲り受けるときに知識も受け継げるからね」

「便利なのじゃな」

「まあね」


もぐもぐもぐ

もぐもぐもぐ


「しかしよく食べるのじゃな」

「ヒロインは良く食べるのが基本らしいよ」

「なんじゃと?!それもマーシャの世界の知識かの?」

「シュリナさんは小食だよね」

にやりと笑うマーシャ。


「ヒロインの座は渡さぬのじゃ」

もぐもぐもぐもぐ、もぐっ、


「んーんーっ!」

「ほら、シュリナ、無理をするな」

アキラはシュリナの背中を軽くたたきつつ、水の入ったカップを渡す。


「んく、ふう。死ぬかと思ったのじゃ」

「まったく、くだらないことで死んでどうする」

「くだらなくないのじゃ」

「無理をしなくても、俺のヒロインはシュリナだけだぞ」

「ア、アキラ」

熱っぽい目でアキラを見つめるシュリナ。


「はいはいはいはい、ごちそうさまー」

めんどくさそうにそう言って、最後のサンドイッチを口にくわえつつ食堂を出ていこうとするマーシャ。


「うふふ、良かったですわね、奥様」

仲睦まじいアキラとシュリナを温かい目で見守るカナデ。


ズキッ


「え?」

ふいにカナデの胸がズキンと痛むように感じた。


「どうしたのでしょう?」

もしかしてこれは…


「どうしたの?」

「マーシャさん、あの二人を見ていたら、何だか胸がズキッと痛くなって」

「まさか?ははーん、きっとそれは」

「制御宝珠が胸に食い込んだのでしょうか?」

盛大にすっ転ぶマーシャ。


「そ、そういうことにしておく方がいいよね。うん」

マーシャはそそくさと食堂から退出した。


「胸の柔らかさの設定がまずいようですね。垂れないレベルで柔らかくすれば痛くないはず」


もみもみもみもみ


自分の胸の柔らかさを確かめながら、制御宝珠の食い込み具合をチェックするカナデ。


「カナデよ。アキラの前で胸をいじくりまわすでない!」

「あっ!申し訳ありません、奥様!」

「…」

アキラは見ないように顔をそむけているが、少し赤くなっているようだった。


「(アキラ様、私の胸を見て赤くなっていらっしゃる)」


すっ


「え?」

いつの間にかカナデの胸の痛みが無くなっている。


「どうやらこのくらいの設定で良かったみたいですね」


その痛みが「嫉妬」というものだと気付く日は来るのだろうか?

お読みいただきありがとうございました。

よろしければブックマークいただけると、励みになります。


次回の更新は11月15日金曜日18時の予定です。

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